時の記憶編23
先週から、随分歩いたなー、なんて思っていた時だった。
ナナさんが、僕の方を見ずに、前を見たままゆっくり話し始めた。
「なーハーレム、先週行った家、誰の家か分かるか」
「いえ、まったく分かりませんけど」
「そうか、やっぱり分からないか」
「誰の家だったんですか?」
「あれは、おまえの実家だ」
「エッ!?ぼくのですか?またまたー、ナナさん冗談やめて下さいよ」
ナナさんが、さらりと凄い事を言った。
「そうか、記憶にないか」
「まったく、記憶にありません」
「やっぱりか」
「やっぱりってなんですか!?教えてもらえるんですよね?」
ナナさんが、やっと歩くのを止めた、小さな公園の前だった。
「少し、ベンチに座って話そうか」
「はい」
ガコン
「眠そうだから、ブラックでいいか?」
「はい」
買った後に聞かれても・・・、こんな小さなベンチひとつしか無い公園に、不釣り合いな、大きな自販機が、2台も設置してある、不思議な感じがする。
ガコン
ナナさんは、当然、ちょー甘いコーヒーだった。
「ハーレム、これから俺が言う事は、誰とも話すんじゃないぞ、いいな」
「分かってます」
「それと、俺が言っている事が分かったら、首を縦に、分からなかったら、首を横に振れ、いいな」
「はい」
「はい、じゃないだろ、それと質問も無しだ」
僕は、首を縦に振った。
「頼むよ、本当に」
僕は、首を縦に振った。
「よし、座るか」
自販機前でのやり取りも終わり、古ぼけた木製のベンチに、二人並んで座った。
ナナさんが、ゆっくり話し出す。
「先日テレビ見てたら、電〇バイクの旅やってて、そこで、かかてた音源があるんだけど、ラ〇ュタの海賊船のワンシーンで、船長が、しっかりかせぎな、と言うところなんだけどな、その音源聞いたら無性に見たくなって、速攻GAO行って借りて見たんだよ、棟の上でロボットが、シー〇を手から放すシーンは、いつ見ても、なんか切なくて毎回泣いてしまうんだよ、それに、洞窟でパンと目玉焼きを、鞄から取り出すんだけど、まーパンは分かるよ、だけど、目玉焼きはって思ったよ、しかも、リンゴもあるよだって、すごくないか、男前って思ったよ、さらにそのリンゴが、取り出した時は、1個なのに食べてる時は、半分になってるんだよ、どうやって切ったのかなと思っていたら、随分後の方のシーンで、なんやかんやあって、〇ズーとシー〇を、ロープで縛ったのだけれども、またなんやかんやあって、今度は、ロープを解かないといけなくなってな、だけどシー〇が、強く縛ったから解けないって言うのよ、そしたら〇ズーが、さらっと、ナイフで切ろうって言ったのな、あー〇ズーの鞄には、ナイフもあったのね、ていう感じですっきりしたのよ、すごいと思わないか」
ナナさんは、今何を話してるんだ?
「ハーレム、お前今、なに話してるんだって思っただろ」
僕は、人生で一番早く、首を横に振った。
「でもなハーレム、何年か前に今と同じ話を、ここでベンチに同じように座って話したんだよ、覚えて無いのか?」
え・・・僕の思考は、停止した。
「お前は、時憶課に入って5年位と思っているだろうけど、本当は、もっと前から居たんだよ」
ゴクゴク、ナナさんが、コーヒーを口に放り込んで、話を続ける
「ある事件に巻き込まれて、1年位消息不明だったんだ、そしたら、スイス本部から、お前を保護していると連絡があって、課長と迎えに行ったら、何もかも忘れていたという訳だ」
「どどどういう事ですか!?」
勝手に言葉が、出てしまった。
ゴクゴク
「しかし、おかしいのは本部の対応だ、しかも職場に復帰させろって言うし、当然課長も俺も反対したんだよ、だけど本部の通達だから、課長も俺も従ったという訳よ」
「・・・・・」
「だから、今度のスイス出張に、お前を連れて行けば、なんか進展するかなと思って、課長にお願いしたのさ、課長は、まだ早いって言ってたけどね」
「それで、課長が、出した条件が、年間ノルマクリアだったんだよ、今年は、ギリギリいけるんじゃないかと思ってな、それでいきましょうって事になったのよ」
「良かったなクリア出来て」
本当に、良かったのだろうか・・・。
「まー俺は、クリア出来なくても、強引にでも連れて行ったけどな」
「それに、スイスに行く前に、話しておこうと思ってな」
「・・・・・」
「よし、そろそろ行くか」
僕は、首を縦に振った。
「ハーレム、もう良いぞ、普通に話して」
「え!しゃべるの駄目って、何だったんですか?」
「なんか雰囲気出ただろ」
「・・・まじっすか」
公園には、ごみ箱が無かったので、飲み干した缶を手に持ったまま、駅まで歩いた。
いつの間にか、眠気はぶっとんでいた、いったい自分は、どうしてしまったのか、ナナさんも分からないって言っていた、グルメの旅と思って楽しみにしていたのに・・、とんでもないことになってしまった。
「ハーレム、昼飯に、立ち食いそば食べて行くか?」
「はい、お供します」
あー、もう昼か・・・。




