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星子のエクリプス  作者: 颯真ユキ
第一章 知恵の世界
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第一話 研究発表

 ──────気づいたときには遅かった。


 弱々しい力で拳を握り、今にも倒れそうな身体の体制を整えて、その者では到底開くことのできないであろう巨大で堅固な扉を一度だけ、大きく叩いた。音は虚しく、その広く暗い空間の中で消えていった。


 『...さようなら。...を、いつかあなた...ています。』


しっかりと聞こえなかった。扉の向こう側にいる人間はその後も何かを言い残して去っていく。悲しかった。涙を抑えきれなかった。


そして、足が崩れて顔も地に倒れ伏せた。

力が入らない...

何もできない...

意識が消え...




 ──海上居住地区B-1番


 ここ数ヶ月は雨が降り続いている。と言うのも、雨期であるから仕方ないが、雨期でなくとも、一年中雲が空を覆っている。

 目が覚めてカーテンを開けたところで、いつもの薄暗い景色とともに底の見えない海から雲を突き抜ける細い建物が雑に並んでいるのが見えるだけだ。


 「あーあ、部屋から星が見えたらいいのにな」


 星を見たことがないわけではない。父は科学者だ。科学者は皆、星の外側にある衛生型コロニー『エリア7』へ行き仕事をすることになっている。その場で撮影してきた星や、そもそも教科書や本だって沢山ある。ただ、部屋から見れるって贅沢だろうなって。


 今日は私の大学で研究していた内容がエリア7のお偉いさん、父の上司にあたる人に認めてもらって、エリア7にある宇宙科学講堂にて研究発表をすることが決まっている。もちろん、父が科学者だからとか、そういうものは一切ない...はずだ。


 身支度を終えて、外に出るとズボンの裾を靴で少し踏み白衣を着て、夢精ひげを生やし、髪と眉気をほったらかしていたかのようなボサボサ頭の男、父が自動傘機を横につけて、左手はポケットに手を突っ込みながら、私に気づいて右手を上げ笑顔で言った。


 「いよう!娘よ、準備はできたか?タクシーは呼んであるんだ!」


 空を行く車、飛行車。それに乗って私と父は、エリア7に向かうための光速エレベーターへと向かっている。

 人が歩く道は建物と建物を繋いでおり、それが何層も立体交差している。空には建物を避けて通る半透明の線路がありそれを通るのがこの飛行車だ。

 海の中には海面からそびえるように見える建物も窓から光が漏れており、そこの間を海中列車が荷を運んでいる。海底には大昔に発展していた建物が残っており、そこにある遺物もこの世界では立派な骨董品であるため、それを回収している仕事があるらしい。


「”次はーエリア7に転送します。お乗りの方は乗車ボタンを押してからカプセルに入り横になってお待ちください。”」


 光速エレベーターは他の衛星型コロニーにも繋がっているためエリア7行きになるまで父とエリア7のことについてなどを話ながら待っていた。普段エリア7で働いている科学者たちは住居をエリア7に設けられ食事も睡眠もエリア7で行うことになっている。


「我が子を連れて、研究所に行くことを上が許可してくれたんだ!これほど嬉しい事が親にあるか?いやないな!はっはっは。その前に私の研究について一つ聞かないか?」


 父が得意げな調子で人差し指を立ててから、縦に連なっている二つの光速エレベーターのカプセルの両開きの扉を乗車ボタンを押して開く。


「はいはい。お父さんの超高速移動ハイパードライブに関する研究開発については散々聞かされたし、もう飽きたってば。今日はそうじゃないでしょう?というか、上が許可したと言うより、私の研究が認められたんだしぃ...。」


「いや、話は散々したかもしれんが、聞くのと実際に見るのとでは大きく違うのではないか?...おっと、出発するようだ。手を出すんじゃないぞ?ドアがしま」


扉の閉まる音と共に外の音が遮断され、少し視界が揺れたその後、煙が立つ音と共にカプセルの扉が開く。そこは先ほどの海上ではなく既に宇宙にある衛星型コロニーエリア7へと到着していた。


「いやいや、やはりこの転送技術はすごいな。これは私の友人である高瀬が開発したのだが、非の打ちどころのない出来だよ。まさかこの間発見されたエーテリウムという原子で我々の身体を記憶し、粒子レベルまで分解して光と共に接続されたカプセルまで移動させてから再生させることで転送を可能にするとは...あのエーテリウムに生命の糸を切ることなく記憶させる力があるなど、どうしたらわかったのだ。」


「その話も何度も聞いたよ。それで、今日は私の研究発表でしょ?私、エリア7に来たのは初めてだから講堂がどこにあるのか知らないんだけど。」


「うむ。それなら問題ない。この光速エレベーターと一直線に続くエリア7一望エスカレーターが繋がる建造物が宇宙科学講堂なのだ。迷うことなどなかろう。」


 エリア7は長時間宇宙で暮らすため人為的な重力の発生を余儀なくされ、常に回転させることで遠心力による重力を発生させている。そして、数百年前に使われていた宇宙ステーションとは比べものにならないほど巨大だ。

 光速エレベーターはエリア7の常に回転している横長の筒状になった空間における中心に位置しており、光速エレベーターは常に海上と向き合っているような形で作られている。遠心力を受けていないため重力を受けず浮いていると言えばいいだろうか。


(かえ)よ。ようこそ、エリア7へ。ここが私の...私たちの職場だ。」


 上を向けど、下を向けど空も海も存在しない。大きな建物から小さな建物、そして乗り物やロボット、人。ほとんどは見慣れた光景だが、天井に建物や人やロボットが歩いている姿を見るのは初めてだった。だがもっと凄いのが目に入ってきた。それは正面だ。正面の筒の先にあるのは大きな星空だ。まるで万華鏡が巨大化したような美しい景色に私は感動で胸が暑くなる。


「お父さん、エリア7って凄いね。私も将来ここで働くんだよね。」


「宇宙科学講堂で研究発表を行った者は大抵がここで職を持つ。この私が太鼓判を押してやろう。さあ、エリア7を紹介しながら講堂へ向かうとしよう。...今さらだが、忘れ物はないかね?」


「ないよ。本当に今さらだね。ふふ」


 エリア7一望エスカレーターは10キロ程のとても長い道のりになっているため、すごいスピードで運ばれていくのだが、通常立っていられないような状況に陥るはずがここではそうはならない。まるで、全面に動く絵画でも貼られているかのようにその場に立って、エリア7を一望できるのだ。およそ、5分ほどで10キロ離れた宇宙科学講堂に着いたため、エリア7についても、父の仕事仲間についても、どこの施設がどういう研究を行っているかなども、大まかにしか聞くことができなかったが、父が本当に嬉しそうにしてくれているのがわかったため、それでよしとした。


 途中まで父と一緒に講堂の係員さんにここでの研究発表での歴史や、偉い人の話などを紹介、案内されていたのだが、仕事仲間だろうか、黒い服を着た人たちが父を連れて行った。発表までには戻るとは言っていたが...ああ、緊張だ。もう少し発表前に父と一緒に居たかったな。そのあといくつか案内され、最後にこの講堂で用意された私の部屋へと案内された。宇宙科学講堂で発表を行う者には専用の部屋が用意されるのだ。発表の後、数日間滞在して、エリア7を観光...と言いたいけれど、今後ここで仕事を行っていく際に必ず関わるであろう研究員や博士たちとの顔合わせが主だろう。


「あの、ありがとうございます。」


「いえ、仕事ですので。30分後、かえ様をお迎えに上がります。...かえ様は私を覚えておいでですか?かえ様のお母さまには昔お世話になっておりまして、小さいころのかえ様と一度食事をしたことがあるのですが。」


「あ、え。ごめんなさい。母のことは覚えていなくて...。」


「そうですか。いえ、いいのです。こちらこそ急にすみません。かえ様がお母さまに似ておられたので、つい...。では後ほど」


 母の友人か、それとも母の研究を手伝っていたのだろうか。母は私が3つの時に死んでいる。父と同じく科学者で父の上司だったらしいが、とある研究の実験中、爆発事故で亡くなったらしい。私には1つ下の弟がいて、父は弟が4つになるまで育てたあと、上司に呼ばれて仕事に復帰することになり、それから12年間、年に1度くらいは父も帰ってきていたが、私と弟はほとんど二人で暮らしていた。簡単ではなかった。5つの私に家事ができたか?いや、お金はあった。家事はネットを通して覚えたし買い物はネット注文でなんとかなった。けど、母親のことを考える暇なんてなかったんだ。


 30分が経ったが父は戻ってこなかった。そして、係員さんに会場の控え所に案内され、演台の方を見る。緊張で肩に力が入った。客席は暗くてよく見えないけど既に多くの人が集まり、その演台を注視しているのがわかる。今回の研究発表は私の他にも何人かいて、私は二番目だ。一番じゃなくてよかった。でも一番目の人の研究も聞きたいのに、今は自分の発表する文章を噛まないように頭で復唱しつづけるしかできない。手も震えてる...。


「...すぅーっ..はぁー...」


 ゆっくりと深呼吸をして、緊張をほぐす。

効果はしっかりとあって、手の震えは止まった。演台の明かりが消え、一人目の人が控え所に戻ってきたのと同時に私は他の係員さんに連れられて演台へと向かった。



 【 研 究 発 表 】


 一人目の研究は、エーテリウムによるエネルギーが有限であること。今までずっとエーテリウムは何故地下にあるのかわからないと言うのが一般的であったが、大昔に人類が作ったものと言う仮説を唱えると言う内容だ。


 二人目の研究は、海の体積の上昇と共に星の核が冷え、少しずつ太陽に落下している現状のこの星を救う方法として、核にエーテリウムで作った爆弾を爆発させるという方法があるが、それの危険性ともし行う場合の改善点。


 五人目の研究は、星を捨てる場合、宇宙をさまようための船が必要だ。だからエリア衛星と合体させる宇宙船の開発案と試行実験を本日行うと言うもの。結構前から決まっていたらしいが、改めて詳細の内容を発表と言うことだ。そしてエリア7で行うらしい。エリア7はそういう実験のためにあるため、こういうことにはよく使われている。


 他には、太陽エネルギーの有用性やエーテリウムが他にももっと使い道があると言うこと、他星の資源等の話だった。



 かえは発表が無事に終わったあと、自分のあとに続く研究発表を心を踊らせながら聞いていた。宇宙や星への観点がそれぞれ違う、その知識を全て自分のものとして、新たな扉を開いてこのエリア7で父や母のように名を上げたいと思ったのだった。



ここまで読んでいただきありがとうございます!

今まで何度か小説を書いていたのですが、今回初めて1話分を描き切ることができました。いきなりの長編ものですが、長く暖かい目で読んでくださると嬉しいです。

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