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7 学院のヒロイン

アスタリオス=ディミトリアス。

次期神官長、最有力候補。

現在は神官長補佐として、光の御子、および魔王に関する案件を担当している神官である。

神官でありながら自身、子爵位を賜っている。

元の名はアスタリオス=ラナンキュラ。

ラナンキュラ伯爵家の嫡男であったが、10歳に満たない時分に廃嫡になり神殿に入る。生家は弟が継ぐことになった。

長男の廃嫡というスキャンダルにもかかわらず、ラナンキュラ家はささいな功を称えられ、侯爵に昇格する。当時、面白おかしく取りざたされた話題であったが、妙に素早く沈静化した。この件に触れることは王家の不興を買う、と誰かが悟った様子である。で、あるならば、触れてはいけない部分に面白半分に首をつっこむ愚は犯さない。貴族たちはゴシップは大好物だが、自分の首を絞めてまで触りたいわけではない。


そうしてラナンキュラ家から長男の姿が消え、アスタリオスの名は貴族社会の表舞台から消え去ることになる。

だが、実のところ彼は嫡男修行どころか、王弟ルミナスの影として王国のために失敗の許されない仕事続きの生活を送っていた。


夢の中のオーレリアは彼から愛を告げられていた。

光の御子ルミナスに発見された激動の年が終わり、11歳になった時だった。

アスタリオスは当時20歳。

(まだ幼い君を悩ませる気はないんだ。)

(16歳になったら、結婚してほしい。プロボーズは今するよ。だから)

(ゆっくり返事を考えておいて。その時が来たら、そうしてもいいかどうか。わたしのことを見ていて。)

女性のように美しくて、穏やかで、優しくて、びっくりするくらい何でもできる人。

夢の中ではアスティンお兄様と呼んでいた。


なぜ、彼を王弟殿下と引き比べて貶めるような発言をしてしまったのだろう。

彼は彼なのに。

同じ銀髪で、王弟殿下の()を務めて、誰よりも光の御子の考えを理解せねばいけないから、考え方もよく似てて。だけど全然違う人間なのに。

今の自分は彼に対して恥ずかしい。

が、実のところ夢の自分はもっと恥ずかしい。

11歳で20歳の殿方に求婚される妄想って・・・・。

夢であっても、絶対人には話せない。

あ!大公家使用人は覚書で見たかもしれない。まあ・・・・王弟殿下と結婚しようと画策してたトンデモ女なのだから、そのくらいはあるか、で済んでるはずだ。うん、そう思いたい。

アスタリオスからは、ただいまニュートラル且つ冷たい目で見られている真っ最中である。

彼女の知るアスタリオスはこちらが平常運転だ。

夢の中では、彼の紫紺の瞳で、熱のこもった眼差しを向けられ、10歳のオーレリアはいつもとても、逃げ出したいくらいような気持ちでいた。どうしていいかわからなかくてうつむいていると、その様子さえあたたかく見守ってくれる。

(どうもしなくていいんだよ)と優しく微笑む。


ダメだわ。コレもう声がでる。

声が出たら黒歴史と言ったのは誰だったろう?

眉間に皺をよせ、顔を伏せる。


「スオミくん、魔王君に何か用事だったの?」

場違いに明るい声が響いた。

みればアスタリオスの腕にくっつかんばかりの距離に一人の女生徒が立っている。

フロリナ=ハイドランジー男爵令嬢。

ピンクブロンドというやつなのか、きれいに切りそろえられた髪がきらきらしい。明るい緑宝石のような瞳の、目立つ女生徒である。男子生徒から人気があるだけでなく、女友達も多く、いつも人に囲まれている。さらには非常に成績優秀で下位貴族でありながら生徒会の役員も務めている。

アスタリオスの瞳から険がとれる。

お気に入りの生徒なのよね。

オーレリアはよく彼女と正反対だと言われた。

暗い髪色、よどんだ瞳、いつも口汚く、ひとりぼっちだ。


ひとりぼっちのはずなのだ。

なのに今心には、夢の中の自分の人生が灯のように輝いている。

殿方に愛された夢は妄想だけれど、家族が自分を愛してくれているのは夢の中だけじゃない。父も母もさんざんいじめ倒した弟たちでさえ自分のことを愛していてくれたと、今ならわかる。

だから今、彼女に対して冷静でいられる。

ただただ妬ましいだけの存在だったが、こうしてみると、男爵令嬢が、身分も上の子爵で教師のアスタリオスにその距離感は、どうなのだと首をかしげたくなる。もしや人気者だから誰も咎めないだけで、礼儀作法についてはそれほどきちんとしていないのではないか?

 とはいうものの、当のアスタリオスがそれを許している以上、オーレリアに特に言うべきことはない。社交場にはその役割を果たしたい人間がたくさんいる。注意はそれらの方々に任せておけばよし。

なんとなればオーレリアこそ、夜会にも舞踏会にも出席することは叶わないのだから。


「ごきげんよう、ディミトリアス先生」

ことさら優雅に礼をしてやる。女生徒なんぞ侍らせてからに、この()()()()が。

あら?これも夢の記憶かしら。

スオミもまた、目上のアスタリオスに黙礼して、それからフロリナに釈明しようとする。が、上手く言葉にできないようで困惑しているようだ。憧れの先輩に魔王に声をかけてお茶に誘ったなどと言いたくないのだろう。


「お茶に誘われたのですわ」ディミトリアス先生の質問に答える形で回答する。

「うそ」

会話に割って入るとか、行儀悪いぞお前。

「うそかどうか、当人にお聞きになれば?」フロリナではなくアスタリオスに目線を送りながら言ってやる。

「魔王君に誘いを?スオミ=トリエステ、どういうことでしょうか?」

「・・・・・そうしないと、ぼくの側に問題が起こるからです。」

小さい声でスオミが告げる。これだけでアスタリオスなら、事情を察することができるだろう。

「やっぱりね、変だと思った。」

いや、お前、それでわたくしに小馬鹿にした目線くれるより、スオミの問題を斟酌してやりなよ・・・・。案外底が浅いわ、この女。


「・・・・後で職員室に来なさい。」

スオミくん無事離脱。

教師が出てきたのだから、それほど連中にひどい目に合わされたりしなかろう。

まあ、わたくしにできることなんて、もうないけど。


「魔王君、本日はわたしも同席します。」

え。イヤだな。

王弟殿下のみならずディミトリアス先生もご一緒なんですか、夢の思い出が刺激されて心の中がうるさいのですが。

「わたしもお時間来るまで、ご一緒しようかな」フロリナがこともなげに言う。

かな、じゃないよ。本当にお前は何を考えているんだ?お一人はやんごとなき御方だぞ?

あ、そーか。そういや光の御子()()も、こいつがお気に入りだった。いてくれたらご機嫌よろしくなるかもしれない。なら、どーぞどーぞ、だ。

ついでだから、聞いてみたいことがあったんだ、聞いてみよう。

「フロリナさん、不躾ですけどおうかがいしたいことが」

「まあ、何かしら?」

何かしら?って。男爵令嬢・・・・。伯爵令嬢は君の2ケ上身分だよ?「何でしょうか」が普通じゃないか?まあ、いいや、魔王だから罪人枠なのかもしれん。()()も何も言わないし。

「あなたって、王弟殿下とディミトリアス先生、どちらの方がお好きなの?両方お好きに見えるけど」

実はマジな質問だ。

夢のわたしは恋をする間もなく、嵐のように光の御子と()()()()()()()()に求婚された。当のわたくしは、正直なところを言えば、どっちのお兄様も好き、が本音だった。だからとても悩んだ。だってそれはイケナイ感情だと思ったし、今もそれはどうなんだと思ってる。夢の中ではそれはそれは苦悩した。インランというのはこういうことを言うのかもしれない、と悩んだが、それこそ恥ずかしくて誰にも言えなかった。だから心底聞きたかった。二人の殿方を好きになることがあるなら、その気持ちのほどを。

「失礼ね!あんまりだわ。自分はどうなのよ!」

怒ってしまった。・・・・これ以上話を聞くのは無理か。残念。

「ひどい・・・」泣き出してしまった彼女をアスタリオスが抱き寄せる。するとごくごく自然に彼の胸にすがって泣き出す。次はアレだな、わたくしが非難されるんだな?

「オーレリア嬢」困ったように眉根をよせてこちらを見る先生。うん、眼差しに非難が見てとれる。

(当たりー)ちょっと王弟殿下になったようで、以下略。

うん、もともと彼女と腹を割って話し合いができるなど期待する方が間違ってるのだけど、収穫はあった。

やっぱし、殿方二人を好きになるというのは世間体がよろしくないんだな・・・・・。



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