3 魔王君は悪役令嬢
明るい日差しの中、天蓋付きのベッドで目覚めたオーレリアは混乱していた。
今のは夢?
長い素敵な夢だった。
後に夫になる愛しい男に愛を告げ、男からも愛をもらった。
いつも仲良く過ごし、子供にも恵まれた。
常に一緒で、・・・・涙が出そうに幸福な人生。
年老いて夫を看取り、自分もまた美しい人生の黄昏の中、生涯を閉じた。
ああ幸せね。
・・・・閉じたはずだった。
「夢だったの?!今の!みんな?」
がっかりしすぎて泣きそうだ。
目覚めた自分は、王立学院に通う15歳の貴族子女だ。
ためいきをつく。
授業は面白くないし、友達もいない。
「今日は歴史と法律・・・」
あんまり好きな課目ではない。
もう一度眠ったらさっきの夢の続きがみられないものだろうか。
(つづきと言っても人生が終わっちゃたところだったわ)
こうしている間にも、夢の内容がどんどん消失していく。もうすでに全部は思い出せない。
「夢ってすぐ忘れちゃう」
夢は夢。
何の価値もない。
起きたらすべて忘れていい。
だが今日は強く思ったのだ。
この夢のことを忘れたくない、と。
そうだ、今日は授業をさぼってしまおう。
そうしてさっきの夢を反芻するのだ。
動くと「夢」が頭から落っこちてしまうとでもいうかのように、そっと起き出し、これまたそうっと机に座る。
着替えなんか後でいい。
散らかしたままの机の上には、書き損じの手紙が散らばっている。
いつもなら自分で散らかしておきながら、片付いていない状態に癇癪を起すのだが、今はむしろそれがちょうどいい。紙を裏返すと猛然と書き始めた。
どんどん消えていく夢の欠片を懸命につかまえる。
憶えてるところだけでも。素敵な思い出だけでも。
朝食に呼ふメイドの声も、着替えを促す声も無視をする。
「今日は学院にはまいりません」
彼女のわがままに慣れている使用人たちは、素直に引き下がった。
彼らはランベール伯爵家の使用人ではない。
王家と神殿から派遣された監視用の人員であり、有事の際は表から神殿の聖騎士団が駆けつける手はずになっている。
15歳の貴族の子女に大仰な監視が必要な理由。
そこだけは夢と同じ。
彼女は光の御子に発見され、以来彼の監視をうける、魔王であったのだ。