2 世界の始まり
女神アウロラ=オーレリアは困惑していた。
・・・これは?
先ほど彼女は「最後のオーレリア」の死を見届けた。
あるいは「最後のオーレリア」として死んで来た、といってもいい。
おおよそ60回を超える、碌でもない「繰り返し」が終わったのだ。
否、「最後のオーレリア」が、終わらせてくれたのだ。
世界はふたたび動き出す。
もう彼女だけのために時を巻き戻したりはしない。
あとはなすがまま、あるがまま。
・・・・後のことは知らない。
だってもう満足したから。
アウロラ=オーレリアの願いはかなったのだから。
「最初のオーレリア」の夫、アスタリオスは、繰り返しの終わりにようやく「幸福な人生」を送った。
「29歳」の若さで非業の死を遂げることもなく、老いて「ああ、いい人生だった」と死を迎えいれた。
他者の幸福な人生。
ささやか、かつ大それた願いは、「最後のオーレリア」によって成し遂げられ、その固く結ばれていた願はようやく解けた。
くりかえすこと62回目。今回のアウロラ=オーレリアの計画は、何とかしてアスタリオスに出会うまでに自身の死を迎える、というものだった。
オーレリアの人生のもう一人のキーパーソン、「光の御子」。
アウロラ=オーレリアがどう人生のやり直しをしようと必ず現れる、因縁の相手だ。夫アスタリオスと同じ長い銀髪なのだが、見るたびにうんざりする。
なんとなれば、「最初のオーレリア」が夫アスタリオス、愛娘ステラ、ランベール家の家族すべてを失ったのはこの男の所業なのである。
出会い頭に殺されてやろう、と画策した。
彼がオーレリアと出会うのは兄王が即位した後である。前王がなるべく早く引退するよう働きかけて10年目、最初のオーレリアとの出会いよりはるかに早いうちに、19歳で臣下に降ったルミナスがランベール領に疑念を抱いて現れた。
が、それは奇跡のはじまりだった。
彼女の宿敵、光の御子ルミナスが、剣を抜くことなくオーレリアに笑顔で話しかけてきたのだ。
(どこの子?)
(お話ししよう?)
汚らわしい話だが、繰り返しの中では女性としての尊厳を踏みにじられたこともある。
その男が見たこともない美しい表情でほほ笑んでいた。
まるで・・・・大切な誰かとめぐりあったかのように。
アウロラ=オーレリアでさえ一瞬見惚れた。
こんな風に笑うことのできる男だったのか。
それから月日はゆるやかに流れ、やさしい日々を積み重ね、オーレリアの人生は体感的に「ついさっき」終わった。
終焉を迎えた人間の魂は通常はその世界の「行くべきところ」へ向かう。
先立つこと5年前に人生を終えた夫もまたあの世界の「死者の園」に向かったはずだ。
だが、女神アウロラ=オーレリアは世界の理の外にいる。
だから、まあ、たぶん。
死んだあとはまた「事象の地平」で目覚めるのだろう。
神々の庭であるその地で、過去61回、絶望に涙しながらの目覚めを繰り返したように。
ただ今度は違う。
今後は女神として期待された通りに在り続けよう。
思えば、オーレリアは一度としてまともな人間の死を迎えたことはなかったな、などとボンヤリと考える。
いつもアスタリオスは残酷な死に方をし、オーレリアはそのたびに闇の女神に成り、世界を滅ぼした。
なのにこれはどうしたことだろう。
天蓋付きのベッド。
豪奢な部屋。
これは、ランベール伯爵家のオーレリアの部屋ではない。
ここはどこ?
見下ろせば、波打つ、豊かな黒髪。
形よく膨らんできた魅力的な胸がある。
オーレリアは何歳?
自分の内部でオーレリアのやりなおし人生を検索してみる。
アレか、と思い当たる回はあった。
が、なぜよりによってこの人生?
いや、それよりも何よりも「繰り返し」は終わったのでは?
バックアップだった世界は正常に稼働しはじめ、女神は世界への介入を終わりにした。
いや終わりにすべく「事象の地平」へ戻った・・・はず?
いやな考えが浮かぶ。
まさか・・・・。
まさかまさかまさか。
わたしが壊した世界のひとつひとつをやり直せ、ということなのか?
一瞬気が遠くなった。
一つの悲劇の起きた人生を満足いく仕上がりにするまで62回かかった。
失敗分61回を各62回やりなおすとすると。
・・・・3782回?
一度でも失敗したらその都度やり直し回数が増えるのか?
・・・・・。
消滅しちゃっていいかな・・・・?
とりあえずフテ寝しよう。
布団に再度もぐりこむ。
もう何も考えたくない!という心とは裏腹に、ひとつ天啓にも似たひらめきがやってきた。
そうだ、こんな面倒な仕事は「最後のオーレリア」にやらせよう。
なにしろ女神の自分がやりとげられなかった仕事を、奇跡の連続で成し遂げたのだ。
なかなか良い思いつきだ。
うん、そうしよう。
彼女はそうっと自分の中から「最後のオーレリア」をすくいあげた。
そっと、そっと。
他の「オーレリア」と混ざったりしないよう慎重に。
そうして今ここにある肉体にインストールする。
あとは再起動。
そっと目を閉じる。
(このままひと眠りして「最後のオーレリア」の人生の夢でも見ようかな。)
「期待してるわ。」
眠りに落ちる前につぶやく。
うまくやってね。
なろうのみなさんコンニチハ。
書き手さまにおかれましては、コロナ禍で書店も図書館も閉まってた間、「読みてえ」欲求を満たしてくださってありがとうございます。
このたび読み手側から書き手側になってみました。
・・・・実は普段は漫画描いてます。(アマチュアですよ)
なので文章書くにあたりましてはマンガの匂いがしないよう、文章でオモシロイ表現を目指そうとか、めっちゃ自分ハードル上げた目標掲げてみました。
そもそもプロット置き場としてこちらの下書き機能利用して「便利!」とか喜んでたのですが、調子に乗って小説の形で書いてたら・・・・半分くらい消費してしまい、今後のために投稿しようかな~とか、ストイックに小説に取り組まれてる方からブーイング出そうな動機で投稿はじめました。(いや、1話分もっと字数つめこめばいいじゃん、とかごもっとも。)
やってみると漫画と小説は出力に使用する脳の働き違うんじゃないかって思うくらいに違うもんですねー。なろうの投稿システムにはまだ慣れてないのでゆるゆると活動していこうかと思います。よろしくお願いいたします。