1 世界の終わり
オーレリアは死の床にあった。
若かりし頃はさぞ美しかったであろう老女は、寝台で最期の時をむかえようとしていた。
つややかだった黒髪は今では夫のそれのように真っ白になった。
愛しい夫はもはやこの世にいない。
5年前に見送った。
ありがとう
そう言い残し子や孫に看取られながら彼岸に旅立った。
もう体が動かせない。
ああ、わたくしは死ぬのね。
死んだら「向こうの世界」であのひとと会えるかしら。
(会えない)
自分の思考なのか、それとも誰かにささやかれたのか。
なんて残酷な言葉だろうか。だが、わかってしまった。
そうなのね。
もう、会えないのね。
比喩でなく永遠のさようなら。
だが、さみしくはない。奇妙に晴れ晴れとした気持ちだ。
そのくらいのことがあるのは百も承知であったから。
それにもう「もう一人の自分」の願いは叶ったのだから。
彼はこの世界の「内側」の人間である。
が、自分はすでにそうではなくなってしまっていたのだ。
「さようなら」
最後の力でつぶやいた。
床のまわりの人々が「お母さま」「おばあ様」と言ってすすり泣き始くのが聞こえてくる。
そしてそれも遠くなる。
肉体が死ぬ。
オーレリアが「もう一人の自分」の中へ取り込まれていくのを感じる。
または、オーレリアと「もう一人の自分」が溶け合っていく。
どちらでもいい。
同じことだ。
もう一人の自分とは。
女神アウロラ=オーレリア
その誕生とともに、世界を滅ぼした、闇の女神の名前である。