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連載版 初恋の結末~運命の変わった日~   作者: 夕鈴


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第八話 私情に狂った日

王子がエドウィン達が兵に見つかるように誘導したのは誰も気づいていない。

ディアスも異母兄が動いたことは気づかない。

文句を言いながらも兄は弟を助ける。

互いにひねくれているため、堂々とした助け合いをすることはない。


「おかえりなさい」

「ただいま。今回はディアスが手柄泥棒だ」

「目立つの嫌いなのに。婚約者を選べって父上がうるさくなりそうですね」


騎士寮ではいつもと変わらぬ空気が流れている。

戦の結果に喜ぶことはない。

長引く戦でもディアスが勝利を掴むのを誰もがわかっていた。

ディアスは兄弟一の負けず嫌い。

勝利を譲らなければいけない相手との勝負は絶対に受けない融通のきかない男だった。エドウィンの兄弟ごっこから真っ先に逃げるのもディアスである。

巻き込まれないように木の上に逃げて昼寝をしながら終わるのを待つ王子だった。


「おかえり!!」

「血を落としてから帰ってこい」

「紋章があるから戦場に捨てられない」

「脱げ!!着替えてから報告に行け」

「エドが先に呼ばれてる。終わったら起こせ」

「寝る前に着替えだ。バカ」


騎士寮に帰ってきた汚れているディアスを王子達が出迎える。

共同浴場に連行され、諦めたディアスは汚れを落とす。

血まみれの服とマントを捨てて、用意された綺麗な服に着替えて部屋に戻り眠りについた。

エドウィンと関わりたくないので、宴には顔を出さない。

しばらくは頭を使わず、休息を欲っしていた。

久しぶりに見た夢の中では懐かしい歌声が響き渡っていた。







エドウィンの無事を聞き王妃は上機嫌な笑みを浮かべて祈りを捧げるだけの療養生活を終えた。


「エドウィンを呼んでください」


国王は興奮する王妃の言葉に従いエドウィンを謁見の間で待っていた。

エドウィンが入ると王妃は立ち上がり抱き締めた。


「怪我はありませんか」

「はい。ご心配おかけしました」


エドウィンは母の背中に手を回し、怪我はないか、どうしていたかと細かく聞く王妃の質問に丁寧に答えていく。

国王だけは感動の親子の対面よりも息子の隣の美女の存在が気になっていた。

エドウィンの窮地を救った先見の巫女についての報告書を読んでいても謁見の間に許しもなく連れてくるのは不敬だった。

王妃の強い希望でエドウィンを呼んだが、本来なら指揮官のディアスとの謁見が先である。

兵達を迎え、労わっているだろう私情よりも公務優先のアリストアの爪の垢でも煎じて飲めば変わるだろうかと考えながら王は親子の感動の再会(茶番劇)を眺めていた。


「父上、先見の巫女を見つけました。命を救われ、知識の幅も広く、共に歩んでくれると―――」


見守るようにみせかけて、ぼんやりしていた王はエドウィンの言葉に意識を取り戻した。

国王は報告書を半信半疑で読んでいたが、美女と一緒になりたいと熱く語るエドウィンの無垢な瞳が欲を持つ瞳に変わり、行方不明中に結んだ絆の形に息子の報告が真実と知る。


「お守りします」

「剣舞のように美しく―――」


王妃は愛息子の命を救いこれからも守りたいと微笑む美女を一目で気に入り意気投合した。

エドウィンと並ぶ姿は絵になり、エドウィンの役に立たなかったこの場にいないアリストアよりもお似合いに映っていた。

私情に飲まれた王妃は自分が冷静な判断ができていない自覚はなかった。



王は三人を眺めながら、王妃よりも器の広い側妃や妾を迎える度量を持つエドウィンのためなら全てを受け入れ、優秀な能力を遺憾なく発揮するアリストアの顔が見たくなった。

エドウィンを可愛がっていても、アリストアなしのエドウィンは頼りなかった。


「父上、どうかお許しください」


エドウィンの執心の美女はすでに礼儀を理解していないのは明らかだった。

たとえ王妃の子でも後見がなく、才が劣れば玉座には座れないと気付かない二人に乾いた笑みを浮かべた。

エドウィンの王への初めての頼みはアリストアを王宮で引き取ること。

二度目の頼みは巫女との将来。

王にとってはエドウィンとアリストアが組み、謀が得意な王子を臣籍降下させ宰相につけるのが、一番穏便な道だった。

エドウィンと王妃が望むなら王は反対しても無駄かと思いながら、一歩間違えれば困難な道に足を進めようとしている息子を甘やかすこと(忠告)にした。


「婚儀はまだ先だ。成人したアリストアを妃として迎え入れるなら許す。賓客として迎え入れる。アリストアには自分で話すように」

「ありがとうございます」


エドウィンは美女との許しが出たことに喜び、王妃も歓迎した。

王妃とエドウィンが美女の接待を引き受けると申し出るので任せて三人を追い出した。

いつものように接待が得意なアリストアに任せるつもりはなかった。

戦後処理に掛け回り、王妃の公務も受けているため余裕がないことを理解していた。

王妃の公務をアリストアが引き受けてからは評判が良く、エドウィンが戻れば業務の割り当てについて話し合うつもりだったが後日に予定を変えた。





「ディアス、起きろ!!父上が呼んでいる」


ディアスは起き上がり、謁見するために着替えた。

机の上に置かれた肉の挟んであるパンを口にいれながら王宮への道を歩く。ボサボサな髪を直すことはない。

謁見の間には王妃の姿はなく、王と宰相だけだった。


「御苦労だった」

「勿体なきお言葉です。報告は全て報告書にまとめてありますのでご覧ください」

「褒美の希望は」


ディアスはいつもなら休みと答えるが今回は事情が違った。


「兵達への正当な褒美を。エドウィンの行方不明の責は俺とエドウィン付きの騎士達だけであり、他の者には求めないようお願い申し上げます」

「同じ王族、責を問うなら本人だ。休め。報酬は後日正式に授与する」

「感謝します。失礼します」



王は初めて疲労の色が濃いディアスを見て、詳しい話は後日に決めた。

礼をして去ったディアスから一言も不満も希望もないのはいつものこと。


「陛下、こちらを。先ほど興味深いものを手に入れました」


宰相はエドウィン達の面会中にディアスの腹心からの私情混じりの報告書を預かっていた。

王は報告書を読み苦虫を噛み潰したような顔をした。


「よもやここまでとは」


戦を長引かせた原因は何度確認してもエドウィンだった。

一番気に入らないのは極秘でディアスに監視をつけ、エドウィンの無事が最優先という私情まみれの命令を下した王妃のこと。

同盟のために迎え入れ、敵対するのは得策ではないので優遇してきた。

他の王子に玉座を任せることも視野に入れはじめた王はさらなる報告にため息をこぼした。

エドウィンの無事の報告を受け、息子が帰国するまでに事態が悪化していた。

戦に役に立たなかったエドウィンは美女を英雄と勘違いして吹聴していた。

王族の言葉を否定できるのは王族だけ。

妾を母に持ち、いつまでも婚約者を選ばない立場の弱いディアスは沈黙を貫く。

戦での英雄は先見の巫女とエドウィンが呼ぶ美女と将軍や王の首を落としたディアスとして勲章を授与する準備を命じた。



「巫女姫は天気もあてますのよ。素晴らしく――」


先見の巫女は得意の占いと話術で王妃の心を掴んでいた。

占いに夢中な王妃やエドウィン。

王は付き合うほど暇ではなかった。

朝食の席に一人で座るアリストアを見つけ同席した。

黙々と食事をしているアリストアを見て、エドウィンがどこにいるかは考えなくても理解できた。


「不便はないか?」

「はい。滞りなく進んでおります」

「遅れて申し訳ありません。巫女姫は国に繁栄を―――」


いまだにアリストアに美女のことを説明せずに王都に出かけている息子も、美女を正妃にと匂わせる王妃も気にせず美しい笑みを浮かべて料理を口にしているアリストアだけが王にとって必要な駒に見えてきた。

アリストアは王妃に何を言われても気にしないため笑みが崩れることはない。

アリストアはエドウィンが無事に帰ってきたという幸せを噛みしめていたとは誰も気づいていなかった。



****


半年の出陣の後であり兵達には二週間の休みが与えられていた。

二週間の休みとはいえ、ディアスとエドウィンでは立場が違う。

軍事の実戦にしか関与してない留守が多いディアスと違いエドウィンは任されている公務も多い。

エドウィンの公務はアリストアが全て引き受けていたので支障はなかった。

それでも文官にとって多忙な時期に国益のない美女の接待に夢中で公務を放棄している真面目で誠実だったはずの王太子の評価がどんどん低迷していく。

エドウィンの執務室に書類を届けに訪ねた大臣は無垢な笑みの美少女に出迎えられる。

アリストアは笑みを浮かべて同じ言葉を伝える。


「休息は大事ですわ。役不足でしょうが私が承ります。代行権がありますのでご安心を。あら?」

「手が空いてますのでお手伝いさせてください」

「ご指導よろしくおねがいします」


アリストアは机の上に積み重なる書類の仕分けを始めた大臣に笑みを浮かべて感謝を告げる。

エドウィンが無事に帰り、笑顔でいるのでアリストアの心は軽かった。

紫色のアネモネを取り寄せるのをやめて飾っていたものは押し花にして栞を作った。

親しそうに美女に腕を抱かれて馬車に乗り込む二人の背中を笑みを浮かべて窓の内側から見送った。

アリストアはエドウィンのために求められた役割をこなすだけ。エドウィンの無事という幸せを噛み締めながら公務に駆け回っていた。

エドウィンの職務放棄を気にしないのはアリストアだけであり、一人で公務をこなす最年少のアリストアは目立っていた。


「アリストア様、お手伝いしますよ」

「ありがとうございます。では、」


手の空いた大臣や貴族達は執務室に顔を出すとアリストアの無垢な笑みに出迎えられる。

不満もこぼさず、書類の山を攻略しているアリストアに手伝いを申し出ると、丁寧に感謝を告げた後に的確な指示を出すアリストアへの評価が上がっていく。


「殿下はどちらに…」

「恋人のところだろう。まさかアリストアに全て押し付け遊び歩くとは」

「これは妃殿下のものだろう?陛下と宰相閣下の次に多いものをアリストア様お一人に託すとは」

「初陣で成果をあげられた。休みが終われば戻られるだろう。兵達は2週間の休みだ」

「初陣の後だ。仕方ない」

「余計なことは考えず文官らしく頭を使って終わらせましょう。お礼にと上等な酒をいただきましたよ」



アリストアはエドウィンの苦手分野は得意だが、それ以外はエドウィンよりも仕事の進みは遅い。

実務能力はエドウィンに劣っても、人を使うことが上手く要領がいいため、公務が増えても滞りなく処理していた。

救世主という切り札を持っていたが、使わずとも手を貸してくれる者が多く召喚することはなかった。



***



エドウィンは王妃から公務はせずにゆっくり休むように労わられ、美女と王都を観光していた。


「屋台は初めて?」


エドウィンは豊満な胸に腕を包まれただけでも体が熱くなり、口づけられると胸が高鳴る。

武術が得意な巫女のおかげでエドウィンの行動範囲は広がっていた。

国に繁栄をもたらす巫女はエドウィンに知らない世界を教える刺激的な存在であり心身ともにさらに夢中になっていく。

慎み深い貴族が好まない恋人同士のやりとりが王都には広がっている。

成熟した女性との肌の触れ合いを知らないエドウィンは一挙一動に夢中だった。

エドウィンにとって全てが刺激的な美女により新しい世界観が生まれていく。

美女は王妃になるつもりはなかった。

公務をする存在はすでにいるためエドウィンを守り後継を残してほしいと言われても明確な答えは返していない。

美少年を自分好みに育て、悠々自適な生活は悪くなかったが先の約束はしない主義だった。

王都には美女好みの顔立ちの者も多く、欲を満たす存在に溢れている。

金貨に換金できるだろう装飾品も惜しみなく贈られ、初めての贅を尽くした生活を楽んでいた。



王都の祭りに遊びに来ていた幼い王子達は美女とエドウィンの口づけをじっと見ていた。

騎士寮では毎月、階級に見合った給金が支払われる。

幼い王子達は兄がお使いのご褒美にお釣りをくれるので少ない給金でも不自由はなかった。

飴を舐めながら、異母兄達の言葉を思い出した。


「父上は色狂いだ。同じ血が流れているから気をつけるんだよ。女に興味があるなら紹介してあげるから、誘いには乗らないように。決して主導権は渡してはいけない」

「まだ早いだろうが。飴をやるから忘れろ」

「もう少し大きくなれば教えてやる」




「ねぇねぇ、主導権をもっているのはどっち?」

「あれ、美味しそう!!兄上にお土産買ってあげようか。宴会しようよ」


美味しそうな肉の匂いに肉が好きな異母兄のために最年少の王子は走った。

すでにお客様(エドウィン)から関心は逸れていた。

王子達が大量のご馳走を抱えて寮に帰るとディアスの部屋には紙が貼ってあった。


「面会謝絶」


ディアスは惰眠を貪っていた。

人生で一番頭を悩ませた日々がようやく終わり、頭を使うことが苦手なディアスは面倒な存在に会わないように休暇を謳歌する予定だった。


幼い王子達は気にせずに部屋に入って料理を並べる。

ディアスは不愛想だが実は優しいのを知っている。

血が嫌いなら伝令兵になるように、誰にも捕まらない乗馬技術が身に付くように取り計らってくれた異母兄を無邪気な弟は大好きだった。


「いただきます。先に食べるね!!」

「よくこの騒ぎで寝れるよな……」


賑やかな声に目を開けたディアスは自分の部屋を私物化している異母弟達を眺め、布団を被って再び目を閉じた。

勝手に使う代わりに掃除をしてくれるのでいいかと随分前から私物化を許していた。

ふたたび目覚めた時には誰もいなかった。

ディアス好みの料理が用意されており、エドウィンよりよっぽど優秀な弟に笑いながら一切れの肉を口に含んだ。



各々が戻ってきた日常の中で、欲望に忠実な時間を過ごしていた。

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