表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/55

メイド長と婚約者

次の日


本日の授業科目は数学と音楽。


歌をうたうとストレス発散にもなるし、楽譜を見て音符を覚えたりできる。後は何か楽器でもあれば…なんて贅沢だよね。


そろそろ1時間、休憩だわ。

お湯を沸かしにキッチンに来ると、裏口から院長の声がする。

何だか必死だわ…。



「どうしても伯爵に1度お会いしたいんです!」

「だからさぁ、言ってはいるけど無理なんだよ。」


そうだ、今日が支援金を持ってくる日ね。持ってきるのは小さくてヒョロっとした男。あれがショーンね。きっとエイダもいるよね。


私がいる間に絶対何とかしないと。信頼の厚いエイダがお金を盗んでいるなんて、絶対に信じて貰えないもの。

けれど、私の味方の方が力が強いという事を思い知るべきね。


「院長、サインする書類を見せて頂いてもよろしいでしょうか?」


「ああ、ニナ。これだよ。」


…本当にペラペラの紙ね。よくこんな物を堂々と持って来れたものだわ。

貴族なんてプライドの塊よ。伯爵もそれは例外じゃない。人目に触れる可能性のある物に絶対手を抜くはずがない。大切な書類に安物の用紙を使っているのを見られただけで、ラドクリフ家は笑い者にされるわ。それくらい、メイド長なのに気がつかないのかしら。

きっとボナースの人にはわからないって、たかをくくってたのね。

けれど、もと伯爵令嬢の私に、その辺りの知識で勝てるはずがないのよ。


窓から見えたのはやはりエイダ。まさか盗みを働くのが彼女だとは思いたくなかったんだけど…。簡単にお金を手に入れられる方法を知ってしまったら、もうやめられないわね。


「ありがとうございます。」


私が返すと院長はサインをして、また私はそれを受け取った。


「この用紙は私が直々に持って行くわ。面白い事になりそうね。楽しみだわ。」


「は…?何を意味の解らない事を。」


少しオドオドしだしたわ。やはり、本物ではないわね。この用紙は。


「そんな事出来るはずないだろう。お前なんかが伯爵に会えるはずがない。」


「あら、そうかしら?だったら、『ニナ・スミスが持っていく』と、エイダに伝えてくれるかしら。そう言えば彼女には通じるわ。」


「………」


私がそう言うと、男は怯んでエイダのもとへかけていった。


話を聞いても焦る様子はない。さすがはメイド長。ちょっとした事でオロオロはしていないわ。信じたくはないけど、彼女がボスね。



私の様子を見て院長が驚いている。


「君は一体…」


「院長、今は何も聞かないでください。」


あんな態度をとってたら、びっくりするよね。しかも私が持っていくとか言ってるし…


「…わかった。」


少しして冷静な顔でエイダは院に入ってきた。


「ニナ、お久しぶりですね。まさかここにいたなんて、驚きました。」


「ええ、お久しぶりね、エイダ様。伯爵に会えるように頼んで頂けたかしら?」


「頼んでいますが、伯爵は多忙ですので会う事は難しいですね。」


「そうですか。わかりました。」


「受取書を渡しなさい。」


「大丈夫。私が持って行く予定よ。」


「そんな予定は聞いていません。私の仕事です。」


「それは伯爵が貴女を信用していないからかもしれませんね。」


「貴女とくだらない口論をするつもりはありません。」


エイダじゃない…そうであってほしい。


「私が持っていくわ。でなければ院長が伯爵に会える日はいつになるのか解らないもの。」


「多忙で会えないと言ってるでしょう。」


「だからこれを私が持って行って頼んでみるつもりよ。」


私は受取書をエイダに見えるように持った。最終的に受取書を伯爵に渡すのはエイダよ。これが本物ならば問題はないの…


「早く渡しなさい。」


あぁ、この用紙を見て驚きもしないなんて…。



「いい加減にしなければ、伯爵に伝えますよ。」


「ええ、どうぞ。願ってもないわ。」


「はぁ…、ただの教育係が偉そうに。」


「もちろん、ただの教育係には何の力もないわ。けれどマール君はどうかしら?」


「マール坊っちゃんは貴女に会ったりしません。」


「それを貴女に言われる筋合いはないのよ。何十年仕えても、マール君の前では塵同然よ。」


「早く用紙を返しなさい!」


「ええ。どうぞ、お返しするわ。」


私が返すとホッとした顔をしていた。

安心して気が緩んだのね。


「こんな所でも、数日いれば情がわくのかしら。どこもかしこも埃だらけ。汚ならしい。」


「…汚いですって?受取書を偽造するような心の汚い女に言われる筋合いはないわ。」


「え…偽物っ!?」

私が言った事に驚いたのか、院長が大きな声で言った。


「…馬鹿な事を言わないでちょうだい。」


「そうね、ここで言い合うつもりはないの。伯爵の目の前で勝敗をつけましょう。後ろめたい事がないなら逃げないわよね。」


「…当然でしょう。」


「ふふ、貴女を見ていればわかるのかしら。主のサインを偽造した使用人の末路はどうなるのか。伯爵はどこまで貴女を許すかしら。」


「っ!?」

エイダの顔が青くなった。


やっぱり…。


「何を根拠に…」


「…何が違うって、筆跡よ。」


「貴女にそんなもの解るわけがないでしょう。」


「用紙の全ての字を判断しろと言われれば難しいけれど、そこに書かれている伯爵のサインを見ればわかるわ。サインだけは絶対他の人に書かせたりしない。本人が見れば一目瞭然よ。」


はじめからこの用紙が本物なら、偽造のサインなんて必要ない。



エイダ本人が何も知らないなんて事もあり得ない。受取書を伯爵に渡すのはエイダなんだから…。


「貴女はこれを見せても驚かなかった。この存在を知ってるかどうか、私はそれを試したのよ。」


筆跡…前に受取の控えを2枚持って帰った。その時気付いたのよ。


残り2人の男は、エイダが口を割れば解るよね。


「明日伯爵の所へ行くわ。その時までに私に勝つ算段、…この先をどうするか決めるといいわ。…あと、お金は全額置いていきなさい。」


エイダは青ざめて帰っていった。



「ニナ…」


院長には言わなきゃ…


「私はラドクリフ伯爵のご子息、マール君の教育係をしています。理由があってここに逃げ込んで来たのですが、帰る時が来てしまいました。」


「……」


「私が教育係である事は、皆に言わないで下さい。」


「ああ、わかった。それにしても、さっきは格好よかったよ。」


院長にクスクス笑われた。


「そうでしょうか…」


可愛げがないとも言えるけど…


「あっ!休憩!院長、休憩です!お茶を入れるの手伝ってください!」


「え?ああ…」


「私は皆を呼んでくるので!」


バタバタと駆けているニナを見て


「強い…」


と、院長は思った。




その日の夕食。


またパンとスープだけだったけれど、今月からは以前のように色々食べられるよね。


「皆、聞いてほしい事があるの。」


「なーにー?」

「おかわりか?」

皆クスクス笑いながら話している。これを言うのはとても辛い。


「明日、ここを出る事になったの。」


「……」

「……何で?」

「オレたちのことキライになったのか?」


「そうじゃないの。」


「イヤ!ずっとここにいてよ!」

「勉強も、もっと教えてよ。」

「そうだよ!変な奴からだって皆でまもるから。」


「ありがとう。けど絶対また来るから、そんな悲しい顔はしなくていいのよ。」


「ぜったい?…ほんとう?」


「ええ、何があったって来るわよ。」


そのうち脱走するつもりだしね!


この子達もだけど、マール君の事が気になって仕方ないし、1度帰らないと!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ