表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/55

ボナースのニーナ

 馬車は伯爵邸に向かってるけど、私はそこへ着くまでにボナースへいかないと駄目なのよね。


でも護衛がついてるし。

護衛というか、ただの見張りだよね。私が逃げ出さないように。まさに今、それを考えているわけだしね。


『吐きそうだ』とか言ったら馬車からおろすんじゃないかしら。汚しちゃまずいって思うはずだもの。こんな綺麗な馬車。


知ってる道に出て来た。やるなら今しかないわ。

「…っうう」

演技スタートよ。

「どうした?」

「…気分…が…吐きそう…ぅぷ」

「ちょっ…ちょっと待てっ!!ここは駄目だっ!おい!馬車を止めろ」

「ぅ…もぅ」


「出ろ!外で吐け!」


…こんなにも上手くいくなんて。


フラフラと演技をして外に出る。普通なら側にいるべき護衛は私から距離をとっている。予想通りではあるけど、人としてどうなの?



私はその隙をついて、馬車で追う事の出来ない細道へ逃げ込んだ。


「おいっ!待てっ!!」


待ちません!


辻馬車がひろえる場所への近道。地元の人しか通らない入り組んだ道よ。職探しで街を歩き回ってた私に勝てるわけないわ。


近くにいた馬車にのって行き先をつげる。

「おじさん!!ミエルへお願い!」

「なんだお嬢ちゃん、急ぎかい?」

「ええ、とっても!」

「了解。」


うん、追い付かれていないわ。場所すらわからないはずよ。


ボナースとここで言ってしまえば、何かあった時に見つかりやすい。私は1つ手前の町を指定した。


「ありがとう、これ代金ね。お釣りはいいわ。」

「あんがとよ。じゃ、気を付けてな。」

「ええ、おじさんも気をつけて。」


ここからボナースまで5分くらいだわ。

気合いを入れるのはここからよ!


もう外は暗い。ここで失敗したら終わりよ。


「すみませーん!院長をお願いします!!」


「………」


やっぱり返事はないよね。ミラノさんはもう帰ったのかしら。彼女がいれば支援金の話という事で入れてもらえたんだけど。


お願い誰か出て来て!!

いくらなんでも野宿は無理よ…。


放置、孤独、裏切り、誘拐犯扱い、牢……

既にここまで経験済みよ。


追われて、野宿して、捕まって、監禁(多分)、結婚…そのうち跡継ぎ…。


次待ってるとしたらこれだよね。


私の楽しい未来の全てを奪われるじゃない!いくらなんでも悲しすぎるよね!


ドンドンドンっ

「どなたかいらっしゃいませんかー!」

「うちに何かご用ですか?」

「…っっうわ!?」

「あの、どうしました?」


そろりと振り返ると30代後半くらいの男性がいる。


「…すみません、驚いてしまって。」


開けてもらう事にばかり気をとられて、全く気がつかなかったわ。

この時間に院に来るという事は…


「貴方はボナースの院長?」

「ええ。そうですが…」


やったわ!

今1番会いたかった人に会えた!

「お願いしますっ!数日間、私をここに泊めて頂けませんか?宿泊代ならしっかり払います。」


「…え…と。とりあえず、中へどうぞ。」

「ありがとうございます!!」


とりあえず、ボナースに入れてもらえたわ。




「みんな、ただいま。」

院長の声にみんな集まってきた。


「院長おかえりなさーい」

「ああ!!何で泥棒がここにいるんだ!帰れ!!」

「え?泥棒?」

「違いますっ!」

今でも泥棒扱いするなんて、なかなかしつこいわ。


「院長!この人が私達に酷い事を言った人です。こんな人追い出して下さい!!」


それは困るわっ!


「困ってる人を訳も聞かず追い出すなんて、あまり感心できる事ではないよ。」


「いえ、本当に言い過ぎてしまいましたので。ごめんなさい。」


「………」


相手は全然納得はしてないようだけど、今は出来るだけ事を荒立てたくないのよね。



そのまま何事もなく、私は院長の部屋に案内された。


「どうぞ。」

「ありがとうございます。いただきます。」


ミラノさんと違って、きちんとお茶も出てきた。何だか意外だわ。毎日朝から晩まで帰ってこない人だと聞いていたし、いい加減な人を思い浮かべてたんだよね。


「私はここの院長のレオ・トンプソンだけれど、君は?」


「私はニー…ニナ・スミスです。」


「スミスさん、貴女はこの院に来た事があるんですか?さっき『泥棒』『酷い事を言った人』だとか言われていましたが…。」


ミラノさん、伝えてくれてないんだ…。


「以前に市で会った2人は元気かな…と思いまして。」


「ああ、貴方が2人の話していた女性ですか。本当にありがとうございました。」


「いえ、当然の事をしたまでです。」


支援金の事で来た…なんて言えないわ…。



「ところで、一体何があったのですか?先程の勢い、普通には見えませんでしたが。」


「…私は無実の罪で追われてるんです。犯人に顔が似てると言われて…。何を言っても信じて貰えず、家にも帰れなくて。」


『罪』ではないけど、追いかけ回されてるのは事実だしね。


エドワードにしてみれば、これからは堂々と『逃げたニナ・スミスを追え』って命令が出せる。今までみたいに遠回しじゃなくても私を捕まえる条件が出来てしまったよね。


「ここで寝泊まりさせて頂けませんか?

お願いします!」


もう私にはここしか無いの!


「自分が食べた物のお金は払いますし、長い間じゃなくていいんです。」


「わかったよ。そんなに困っているなら暫くここにいるといい。ただ…空いてるのは屋根裏部屋になってしまうんだが…」

「…っありがとうございます!寝泊まりさせて頂けるだけで感謝します。」


案内された屋根裏は想像していたよりましだった。蜘蛛の巣だらけだったらどうしようと思ったわ。


「掃除道具は自由に使ってくれていいから。では、私はまだやる事があるので、これで。」

「ありがとうございます。」


よかった、とりあえず寝るところは確保したわ。けどこれからどうしよう…。

仕事を探すにしても…今の状態で紹介所なんてありえないよね。


それに私はお財布以外何も持っていない…。何かを買いに行くにしたって、見つかる危険があるのよね。


そして何より『子供達』よ。仲良くしなくてもいいけど、敵意を向けられるのは疲れるのよね。今の私にはそこまでの余裕がないのよ…。


問題は山積みだわ…。


「はぁ…」

今日はとりあえず…

「掃除しよう」


このままじゃ寝られないもの。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ