大ピンチの婚約者2
「ごめん…嘘だよ。追いかけたりするつもりはない。ここに君の知り合いなど招待していないし、ニーナが婚約者なんて話もね。」
…だったら地質学者は偶然いただけなの?
「私はニーナではないと、わかって頂けたという事でしょうか?」
「本当のところ、どちらでも構わない。」
「どういう事でしょうか。」
「君じゃなきゃ駄目だという訳でもない。」
何だかとても雑な扱いをされてる気がするわ。これだけ人を追い回しておいて。
「だったら何故私をニーナだと仰っていたのですか?」
「可能性があるのが君だっただけだよ。」
「他にもいると思います。」
「そうだね……。他の女性もあやしい人はいた。そっちも聞いてるところだよ。君と似た容姿の子とブロンドで目がグリーンの子。どちらも俺が持ってる邸の近くに住んでいた子だ。」
「そうですか。きっとどちらかがニーナですわ」
まさか、まだ信じてたなんて!予想外だったわ。もうその『ブロンドのニーナ』の話は信じてないと思っていたもの。
けど一緒に捜索はしていたんだわ。もちろん姿絵を重視してるでしょうけど。
他にも候補がいるって、いい話を聞いたわ。私がニーナの可能性は低いって思ってきているみたいだし。
「ところでニナ。君は服を売った事はない?」
「え?」
何なの急に…
「ワンピースだ。淡い紫色の柄のはいった物だ…」
「ワンピース」
私が質で売った服…どんなだったっけ。興味もなかったから憶えてない。
「ニーナの服は全て彼女の為に作らせたものだ。」
「それは素敵なワンピースなのでしょうね。」
…ワンピースが全て1点物って。最悪だわ…
生地やデザインを見れば、作り手ならすぐにわかるわ。
「とある質屋が売りに来たらしい。心当たりは?」
「ありません。」
「そう。」
なんなのよ…その胡散臭い笑顔は!
いったん私を油断させておいて、本当はまだ全然諦めてないよね?
盾を下ろしかけたところに、槍で突いて来ようとしてるもの。なんて嫌な男なの!
「あの、そろそろ離れてくださいませんか。」
「ああ、すまない。」
「では、私はこれで…」
これ以上何か質問される前に逃げた方がいいよね。私を疑ってるみたいだけど、連れていかれないって事は、はっきりとした証拠がまだないからだもの。
「…待て。1人であまり彷徨くな。」
「何故ですか?」
「目をつけられている。俺といたというだけで興味津々と言ったところだ。あの侯爵はいい噂を聞かない。お前は女だ。気を付けろ。俺でもクリフでもクールでもいい。その3人の誰かの側にいるんだ。」
「貴方に言われなくても、大丈夫です!」
「はぁ…そう思えないから言ったんだ。」
心配してくれているんでしょうけど、貴方に心配されても嬉しくないわ。こうなったのは全部そっちのせいなんだから。
「ではクール様のところへ向かいます。失礼致します。」
貴方といるくらいなら1人がましだわ。
「わかったか?」
「間違いない。あの女はニーナだ。」
クリフの問いに俺は答えた。
ニナは焦りをあまり顔に出さない。たが、今日は近くで観察できた。クールの話をした時、一瞬だが体に力が入った。そういうのは詐欺師でもないかぎり隠せない。
俺に放置されて家財を持ち逃げされた状態で生きるすべを見つけてるんだから、一筋縄でいくわけがないが…
逞しすぎるだろ…。どうすれば伯爵令嬢があんな風に育つんだ…。
・・・・
「何を膨れっ面してるんだ。」
クール様が少し呆れた顔をしている。
「べつに、いつもと同じよ。」
「よく言うよ。また一杯食わされたって顔だな。簡単にはいかないって言ってるだろ。」
「べつに、何も気が付かれていないわ。」
「気付いてても、捕まえる時は逃げられないように囲ってから…俺ならそうする。最初からめぼしい女を見つけてるのに、今更中途半端に面倒な勝負に出る訳がない。」
「何だかクール様が敵に思えてきたわ。見つからないように協力してくれてもいいのに。」
「今ここで俺が何かすれば全部逆効果だろ。数回しかあってないとニナが言いきったんだろ?」
「そうだけど…。少し前まではここまで強引な事はしなかったし、時々不安そうな顔をしてたのよ?」
「さっきも言っただろ。相手が本気になってきてるだけだ。まぁ、いきなり人前に出てくるとは思わなかったが…。」
「そう思うのはクール様と殿下は思考が似ていると言う事?」
「冗談じゃない。俺はあんな馬鹿な女と付き合うなんてありえない。」
「いつも可憐な優しい子と仲良くしてましたからね。クール様は。あとカールも。」
「その方が可愛いだろ。」
「それは聞き捨てならないわ。」
私の事を可愛くないと言ってるようなものじゃない。
「すまん。俺とカールが逞しく育ててしまった結果がクソ王子との結婚だ。」
「それがこの結果だったなら、2人を恨むわ。」
「だが逞しくなければ死んでたぞ。」
「卵が先か鶏が先か…って事になるじゃない。」
「ニナも可愛いぞ。」
「『鍛えぬいた結晶』としてね。」
「可愛い事にはかわりないだろ。それより、何故堂々と俺の側に来た?疑われてるんだろ?」
「いいのよ。エドワード本人がそうしろって言ってるんだから。1人になるなって。」
「気に入られてはいるんだな。」
「……え?」
「俺の側なら他より安心だろ。確実に。『幼馴染み』だとわかってるんだから。」
「……わかられてるかな?」
「もう95%くらい。まあ気にするな。あとの5%は不安要素だ。」
「何よ?その不安要素って。」
「俺だ。」
「クール様が?」
「俺はニナをニーナだと知ってる。ならこの国でどんなに隠したって、俺の一言で伯爵に伝わるし国王にだって伝えられる。」
「それだけの理由があっても5%なの!?」




