非常事態の婚約者2
「ニナ、君は個人的に殿下と付き合いがあるのかい?」
伯爵が困ったような驚いたような顔をしている。嘘をつくのはよくないよね…。
下手をすれば、伯爵の進退にもかかわるもの。
「以前、クリフ様とお会いした事があったのですが、その時ちょうど殿下にお時間があったようで、3人でお茶を…」
間違いではないよね…。いつもクリフが来るんだから。内容はどうあれ…。
「出来れば一言言って欲しかったよ。」
「申し訳ございません。私も何故殿下が来るのか、実のところあまり理解できていません。…ただ『カタサ』の言葉を話せる人を探していた…と。」
表向きはそう言ってたよね。本心はわからないけど…。
「そうか。通訳ではなくニナを…まぁ殿下に招待されたとあれば、私とて断る事は出来ない。きっとニナなら大丈夫だろう。」
「くれぐれも迷惑にならないよう、気を付けます。」
「いや、ニナこそ気をつけて。変な男に捕まらないように。」
「はい。」
やっぱり心配はそこよね。女1人だと声をかけられやすいもの。エドワードが連れてきた女っていうのだけで、何か言われるだろうし。
…全てエドワードのせいよ。私の世界に入ってこないで欲しいわ。
2日後の朝
「ニナ、君宛に手紙が届いたよ。」
…手紙。もしかして招待状?
じゃなかった…。
ステーシーからの呼び出しだわ。絶対耳に入ってるとは思ったけど、こんなに早く呼び出されるなんて。
マール君と過ごすのは午前中だけだったから、呼び出された時間に着く事ができた。
「すみません。ニナ・スミスですが」
「いらっしゃいませ、ニナ様。以前と同じ1番奥の部屋でお待ちですので、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
コンコン
「ニナです。」
「どうぞ。」
何だかステーシーの声が低い気がする…。
「こんにちは。」
「…いいから、そこにお座りなさい。」
怒ってる…?
「貴女、今度の舞踏会に招待されてるって本当なの?」
「うん。」
「わざわざ王子が伯爵邸まで行ったと聞いたけど。」
「……」
「はぁ…まさか本当だとはね。」
「それよりも大変な問題があるの!その舞踏会に、私の知ってる人が2人はいるって…」
「そりゃサナス伯爵の娘なんだから、知ってる人もいるでしょ。」
そうだよね…
「あの王子も、何で急にニナを招待しようと思ったのか、心当たりは?前から怪しまれてはいたけど、決定的な証拠は無かったんでしょ?」
「王宮で一緒にお茶を…」
「…あなた馬鹿なの?」
「そんな事言ったって、断りきれなかったんだもの。」
「その時、何か気が付かれた様子は?」
「…私の事を見た事がある人がいて、でも『違う』って言いきって帰ったわ。それに…」
「それに?」
「ううん、何でもないの。」
ニーナ…婚約者か妹、どちらだと思ってるの?ステーシーにだって『妹』の存在は言えない。何かあっては困るもの。
「あと考えられるのは、意外とニーナの事を気に入ってるとかね。」
「それはないわよ。」
「そんなのわからないわよ。気の強い女が好きみたいじゃない。公爵のパーティーで会った時、惚れられちゃったのかもよ 。」
「それだと私はシャロンレベルの女だという事かしら…。」
「安心しなさい。図太くて強いのは圧倒的にニーナよ。あんな女とは比にならないわ。」
…何でかな、褒められてるように聞こえないわ。
「ステーシー、…この件はクール様には秘密に」
「もう言ったわよ。」
「ええっ!?」
「当然でしょ。連絡しなきゃ私の命が危ないわ。」
命?
「おそらく自分も出席出来るように事を運ぶわよ。あの男。」
「…さすがに無理だと思うけど。」
「クールなら簡単にやってみせるわよ。物凄く切れ者で通ってるから。彼に任せた仕事で上手くいかなかった事がないっていうほどよ。」
「そんな凄いの?クール様って…」
「ええ。エドワード王子もシャロンって女と付き合うまではクール以上だったって聞いたけど。女で人生狂わされてるようじゃ駄目ね。ニーナ、結婚しなくて正解よ。逃げ切りなさい。」
褒めてるのか、貶しているのかわからないけど、2人ともそんなに仕事が出来る人だったなんて。…エドワードの方は信じられないけどね。
エドワードって何であんなに感じが悪いのかしら。…もしかして私だけにあんな態度だって事はないよね?
もしそうだったら余計に酷い男じゃない!仮にも婚約者もしくは妹候補なんでしょ!?
「何をムスっとしてるのよ。」
「してないわよ。」
「そうは見えないけど。まぁいいわ。舞踏会では出来るだけ目立たないようにしなさいよ。」
「もし私がニーナだって気がつかれたら…そのまま帰してもらえなくなるよね?」
「当然でしょ。最悪エドワードと同じ部屋に詰め込まれるわよ。」
「婚約者っていうだけで、結婚してないのにそんな事ないでしょ!?」
「普通ならね。でもシャロンっていう邪魔な女を引き剥がすのには都合がいいじゃない。」
「都合のいい女扱い!?」
「これは最悪の場合よ。」
嫌よ…せっかくここまで苦労を乗り越えてきたのに、最終的に色んな意味で都合のいい女扱いだなんて…。
監禁される可能性が濃厚よ!!
誰が私をニーナだと言っても、しらばっくれるのよ!図太くて強い私なら大丈夫!…なはず…。
「そうそう、今日はね、これを渡そうと思ったのよ。」
ステーシーが机の上にポンと紙袋を置いた。
「見てもいいの?」
「あげるわ。闇市検挙してる時に見つけたのよ。」
開けてみると懐中時計が入っていた。それはどう見てもお父様に貰ったもの。
「あまりにも高級な物が並びすぎてたから、別邸から持ち出したっていうのはすぐに解ったわ。そこにあったのよ。サナス伯爵が持ってた時計と似てたから持ってきたんだけど…違う?」
もう絶対返ってこないと思ってた。
「ううん、お父様のよ!!ステーシー、ありがとうっ!一緒に手鏡はなかった?」
「手鏡…それは気がつかなかったわ。けど、闇市に物が流れてるのがわかってるなら、3人の足取りは解りやすくなったと思いなさい。」
「…もしかして、誰か捕まったから私の事がわかったのかしら…」
「今のところ3人が捕まったって情報は入ってないわ。」
「よかった…。」
「それじゃ、とりあえず相談料として10ニードルね。」
「相談料っっ!?」
「嘘よ。舞踏会ではクールを頼りなさい。いいわね。」
「うん。わかったわ。ステーシー、ありがとう!」
「どういたしまして。さ、お茶もまだだし、今からは別の話をしましょう。一人暮らしに向けてのね。」
「うんっ!」
元気よく返事しすぎて、笑われてしまった。
家に帰ると
招待状が届いていた。
全然いらないわ。ゴミよ!資源の無駄よ!
舞踏会は……え?もう3日後じゃない!
いつからこの舞踏会は決まっていたの?このギリギリで招待されても困るわよ!
『ドレスは此方で用意致しますので、何もご用意頂かなくて構いません』
嫌よ…用意されたドレスを着るなんて。それって特別扱いされてる証拠になるじゃない…。
かといって着ていくドレスなんてないし…。
今回は全て先手を打たれている気がするわ…。




