嫌われるニーナ2
「こんにちは。久しぶりね。今院長はいないのかしら?」
「院長は毎日出掛けてていないの。」
「…毎日?あなた達を放っておいて?」
何をしに行ってるのかしら。
「他にも大人はいるから大丈夫なんだけど…」
「けど?」
「ジョセフィーヌ!何をしてるの!勝手に外に出ては駄目でしょう!」
出てきたのはボッテリとしたオバサン。
とても皆と同じもの…を食べてる訳では無さそう。
ここで毎日住み込みではないだろうし、それは問題ではないけど、外で遊ばせてあげてないなら何をしているのかしら。
文字も書けないって、教師じゃなくてもそれくらい教える事はできるはずよ。
ちょっと潜入してみたいわ。
「すみません。私はここに行くように…と言われて来たのですが、門前払いでしょうか?」
「誰に頼まれたんだい?」
「ラドクリフ伯爵からです。」
「そんなの聞いてないね。」
「それはそうでしょう。貴女達が知らなくても、伯爵は用事があれば遣いをよこすわ。」
う~ん、さすがに信じてくれない?
そうだよね、伯爵の名前を出せば入れてもらえるなら、犯罪者だって入れちゃう訳だし…。
何か…もしかして手形みたいなのがあるのかも…。そんなのわからないし、何とか押し進めるしかないよね。
「『入れていただけなかった』…とお伝えします。たとえ私が伯爵からの遣いでなくても、客人に対する院の対応はこういうものなのだ…と。」
ジョセフィーヌは今日もヨレヨレの服を着て、肌もカサカサ、顔色もあまり良くない。これが彼女だけ…なら、もっと大変な事よね。確かめないと!
「…わかったわ。ついてきなさい。」
言われなくても行きます!
「ありがとうございます。」
院の中は清潔にしてあるとは言えないわ…。棚も埃がかぶっている所があるし、服は洗濯していない物があちこちにある。15人いるのだから、仕方ないといえばそうだけど。けれどこんな状況を日常化するのはよくないよね。
人数が多いから汚れるけど、その分掃除する手だって多いんだから。
「ぃたっ!」
キョロキョロしていると、また泥団子が投げられた。
それを見てても大人が何も言わないってどうなの?こんなの無法地帯になって当然じゃない。
誰か駄目だと言ってくれる大人はいないのかしら…
「あの、ここには大人は貴女しかいないのですか?」
「いませんね。」
この人、この子達の事を心配したりはしていないよね…見た様子では…
「………っ」
またしても泥団子…私もどこかで作って投げたいわ…。投球なら得意よ!
はぁ…私すっごく嫌われてるよね…。
けど見たところジョセフィーヌだけが特別着古した服を着せられているようではないし、それは安心した。
…私はどろどろだけど。
ここまで子供に嫌われるとは、思ってもみなかったわ。
ものすごく仲良くしたい…とか、こちらはそんな事は思っていないけど、物を投げつけられたり…酷いよね。
…なるほど、この人もそう思ってしまったのかもしれない。これが毎日続けばそうなるよね。
案内されたテーブルに腰かけたけど、お茶は出る様子もない。
そこは構わないけど、こんな風に来客の時の様子を見せるのも大事だと思うわ。耳と目で入ってくる情報は大切だもの。
「院長は毎日何処へ出掛けているのですか?」
「知らないね。私がここに来ると入れかわりで出ていくんだから。冗談じゃないよ。これだけの子供を1人で見ろってんだから。外で遊ばせても、勝手にどこかへ行かれたら困るんだよ。だから買い物以外は外に出すつもりはない。きつい言い方かもしれないけどね。」
……そうなるのは当然のような気がするわ。1人でも誰かがいなくなったら、どうしようもないもの…。この人のやる事を全て悪い!と言えなくなる。この状況下で、1人で全員みるなんて不可能よね。
「院長が不在なのはよくないですね。何かあるのか伯爵にお話を聞いてみます。」
「あんた、伯爵と直接話を出来るくらいの子なのかい?」
「院についてだけなら話を出来ると思います。」
マール君の教育係です…なんて言ったら警戒されるよね。
「…なら言ってくれないかい。いくら何でも支援金が少なすぎる。どんなに食費を削っても、まともに服も買えない。」
「そんなに少ないんですか?」
「ああ、これだけいて2000ニードル。食費と日用品だけでおわっちまうよ。15人分…小さい子だけならいいけど、そうじゃない子の方が多いからね。その分食費もかさむ。服や何かを皆に買ってやる事も出来ないのさ。」
「……ここが出来てから、ずっと金額は変わらないですか?」
「いや、ここ数ヶ月の話さ。減ったのは。」
…数ヶ月…やっぱり。これって誰かが途中で盗ってるのよね。伯爵が渡してる金額を知らなきゃ、最終的に届くお金がいくらであっても院では解らないもの。
「そうなんですね…。1度伯爵に伝えておきます。」
「ああ、そうしとくれ。」
「少し院の中を見てまわってもいいですか?」
「ああ、けど1人でまわっとくれ。こっちはやる事があるからね。」
「わかりました。」
歩いているとまた泥団子が飛んできたけど、私はヒョイっとよけた。
小さい男の子が投げる団子なんて、油断してなければ避けられるのよ。
窓の側には市で会った男の子がいる。私の方を見て、フイっと目をそらした。
本を読んでる…。あの子勉強したいのかもしれない…。教える人がいてくれれば…って感じだったもの。
一応、勉強するための教科書は数冊あるけどボロボロ。ビリビリに破けているわ。使い物にならないよね。
それに、基礎を教える本がない。辞書だけおいててもね…。
私なら教えられるけれど、この状況…彼だけ『勉強がしたい』なんてきっと言えないよね。
環境って大事なんだわ。
勉強したくても周りがやらない事を自分だけ『やりたい』っていうのは勇気がいるよね。
ここで共同生活してるんだから、尚更。
やる気に関係なく、皆そろって勉強をするという時間をつくればいいのよね。
…ここの子達は何故学校に行っていないの?ここの院の子だから行けない…って事はないだろうし、伯爵も学校へ行かせないなんて言わないと思うのよね…。
それも聞いてみないと。
「っぃ痛い、……あなた達、泥団子を人に向けて投げちゃ駄目でしょ!!」
「っ早く帰れ、泥棒女!」
泥…棒………?
そう言ってまた男の子に泥団子を投げられた。




