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見つかりそうな婚約者

 マール君とは声での会話は出来ないけれど、筆談やジェスチャーで上手く話せている。マール君は5才とは思えないほど字が綺麗なのよね。私より綺麗にかけてるもの。

最近では執事や侍女、女中、料理人、皆と話せるようにペンと筆を持ち歩いて、伯爵邸はほのぼのしている。


皆と仲良くなってはいるけど、まだ『何か欲しい』とか、『こうして欲しい』…とか、我が儘…というか、あまり自己主張はないんだよね。

「マール君はどんな虫が好きなの?」

マール君がとても嬉しそうに書いた文字…

「蝶」

「蝶……そうなんだね」

私の世界で1番嫌いな虫だわ…。今の時期はいないから良かった!!


個人的にはあまり手にしたくないのだけれど、次の休みに図鑑を買って帰ろうかな。


私の財産で買えるかどうかは謎だけれど…。



いつも静な伯爵邸が今日は何だか騒がしい。


「どうかしたんですか?」


「ああ、ニナ!実は今日はカタサからお客様がくるんだが…通訳が流行り病で来れなくなってしまって…変わりを探しているんだ!けれど見つからなくて困ってるんだ!」


「カタサ…少しぐらいなら話せますから、私でお手伝い出来る事があれば…」


「ニナ!それは本当かっ!さっそく伯爵に伝えてくる!」

「よかったわ、あまり使われていない言語だから困っていたのよ」


母国語の1つだったりしますから…

私の国は多文化共生だし、各々の良いところを学ぶ環境が整っているから、殆んどの人が3ヵ国語は話せるのよね。


「ニナ!少し内容を確認しておいてくれ。」

「はい。」

…今はあまり使われていない港を使うように、お互いに協力したい。新しい水路って事をかしら。


30分ほどたった頃、お客様が到着した。


その顔を見てビックリして椅子から落ちそうになった。向こうもそれは同じ。

来たのは恰幅のいい男性と、カールの兄クール様。

外交官だとは聞いていたけど…まさかここに来るなんて、どんな偶然なの!


『何でここに?』

『色々訳があって、明日はお休み?時間があればそこで話しましょう!』

『わかった。』


クールがいれば通訳は必要ない気がするけれど…

お互いに防衛という事かしら。

何を伝えられているか相手任せにしていると、誤魔化されていても確認できないもんね。


もちろん私達が顔見知りという事は悟らせないまま、無事対談は終了。

そして2人は帰っていった。


「ニナ!良くやってくれた!!かなりいい感触だったよ」


「お役にたてて何よりです。」


けれど、明日クール様に説明するのがとても怖い。本当に国と国との問題に発展してしまうかもしれないわ!





「どういう事なのか、聞かせてもらおうか。」

クール様はとてもご立腹。当たり前だよね…。王子に嫁ぐ事になったのに、伯爵の家で通訳してるんだもの。


「王子はとても理解のある方なので、私が通訳をする事に賛成してくれたの。」


本当の事なんて、絶対に知られちゃ駄目よ!


「…なら何故護衛がいなかったんだ?」

「え?」

「馬車すらなかった。」

「…それは、伯爵が迎えに来てくれたので。」

「では『ニナ・スミス』とは誰の事だ?俺達に自己紹介をした時にそう名乗っていたが?そしてそれを伯爵は疑いもなく聞いていた。」


「…偽名を名乗らないと、婚約者なのだと気が付かれたら大変だからよ。伯爵はもちろん私の名前がニーナだって知ってるわ。」


うぅ…視線が痛い……。


「今日は侍女と護衛は何処にいる。」

「…えっ!?」

「昨日は伯爵邸だったからまだいい。だが、今いないのはおかしいだろ。」


これはまずい…

今話をしている場所はクール様がこの国に滞在するために借りてる部屋。

男性と2人になる事なんて、婚約者として絶対許される事じゃない。けれど、私は1人で来た…。

言い訳のしようが無くなってきたわ…


「本当は、伯爵のご子息マール様の、教育係をしているの!」

「はあ?」

「これも許可はもらってるのよ!将来、子育ての役にもたつからって頼んだの!」


お願いっ信じて!!


「馬鹿も休み休み言えよ…。婚約者をそんなに簡単に他人の家に何日もおいておく訳がないだろ。」


その通りです。


「本当の事を言え。でなければ、此方から直接聞きに行く。」


「それは駄目よっ!」

結婚せずに暮らせる可能性を潰さないで!!


「なら本当の事を話せ。」


「…絶対に怒ったり誰かに言ったりしないって約束してくれる?」


「事と次第による。」


全てを話したら、本当に大変な事になるよね。別邸に放置されて、家財持ち逃げされて、牢に入れられました…なんて。


「……会った事がないの。」

「は?」

「王子に会った事が無いの。」

「それは、どういう意味だ…?」

「会いに来てくれないから、向こうは私の顔を知らないみたいなの…。だから伯爵邸にいるのも気が付かない。」


「……ふざけるなよ…あのクソ王子…。会いに来ない…だと。俺とカールが弟みたいに可愛がっていたニーナに……」


弟…


「これは俺達の国を嘗めてるとしか思えない。すぐにニーナと共に国に帰って報告する。」

「帰る?」

「当たり前だ!絶対に連れて帰る。こんな所にいて何かあったらどうするつもりだ!」

「えっ!?ちょっと待ってよっ!」

「待ってられるか!ここはニーナをよこせと言ってきた国なんだぞ。今はこれだけですんでるが、これ以上ここにいたらどんな扱いを受けるかわからないだろ!何かあってからじゃ助けてやれない!」

「駄目よっ!今私が国へ帰ったりすれば大問題じゃない!」

「現に大問題が起きているだろ!」

……そうなんだけど!

「落ち着いてよ、相手は王子なのよ。…それに、私はもう少しこの生活を楽しんでいたいの…」

クール様は呆れている。

「はぁ…教育係はいつまでなんだ?」

「え?あ…今のところ後1年」

本当は今月末までだけどね…

「あのまま邸にいて見つかったら、伯爵はどうなると思ってる…と言いたいところだが、あの邸が1番安全だ。万が一知られた場合は俺が何とかする。ニーナ、何があっても気付かれるんじゃないぞ。」

「ありがとうっ!!」

「声が大きい。」


はぁ…俺も甘いな…

だが、1度も会いに来る事もない王子のせいで、ニーナの自由を奪わせる気はない。暫くはこのままにしておこう。時々様子を見に来ればいいしな…

それに見つかった時は、こちらが優位に立てるようにはしておくつもりだ。


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