見つけられない婚約者2
「伯爵に話を聞けない?」
レオンからそう報告された。
「『正式な手続きも無しに、話をする気はない』と、突っぱねられました。」
それはそうだろう…。
伯爵のいう事は正しい。何故それを聞くのか、誰の命令なのか、証明するものがなければ手は出せない。しかも、息子が拐われた事件を蒸し返したくはないはずだ。
「はぁ…」
正式な手続きなど踏むのであれば、最初から水面下で動いたりはしない。
ラドクリフ伯爵は友人も多い。リード公爵と懇意にしている。リード公爵といえば、王族に負けないくらいの権力がある。
ラドクリフ伯爵に迂闊に探りをいれれば、何処からかニーナ様の事は気がつかれてまう。
もし本当に伯爵とニーナ様に繋がりがあるとしても、それを確認する術はない。
変に疑われて『何もかも説明しろ。』と言われてしまえば終わりだ。
「クリフ様、今度リード公爵を開くパーティーが有るのをご存知ですか?」
「それが何かあるのか?」
「……伯爵は若い女性と一緒に招待されている…との事でした。」
「若い…それがニーナ様かもしれない…と?」
「友人から聞いた話なのでそこまで詳しくはわかりませんが、公爵直々に招待されている女性…と。」
「それは次の公爵のパーティーだな!?必ず出席する!」
公務でもない限り絶対出席するパーティーだ。もし何かぐだくだ言い出したら首に縄を付けてでも行くっ!
これはチャンスととらえていいものかどうかわからない。ニーナ様が消息不明だった事を公爵が知っている…という可能性も無いとは言えない。
「クリフ様、王子があの無作法な恋人を連れて行くのだけは止めなければなりません。招待された女性がニーナ様本人だった場合、大変な事になるかと…。」
それは…最悪だ。
ニーナ様が恋人の存在を知っているかはわからない。けれど、婚約者が出席しているパーティーに、王子がわざわざ恋人を連れてきた…。
そうなると『ニーナ様も王も面目丸潰れ』だ。
「レオン…パーティーの日、あの女を王子に一切近づけるな」
「承知しました。では失礼します。」
今度のパーティーまでに、1つでも特徴を掴みたい。護衛の騎士が誰だったか、まずそこから聞いてみよう…。絶対ばれないように!!
====
今日こそ絶対に就職活動をするっ!!
職業紹介所に行く前に、この前のカフェに行こう。色々お話を聞いてもらったのに、ご飯も食べずに飛び出してしまったしね。
「いらっしゃ~い、あ、あんたはこの前の!」
お店に入るとすぐに気がついてくれた。
「この前はごめんなさい。急に飛び出してしまって。」
「ハハ!いいの、いいの、こっちだって助けて貰ったのに何のお礼も出来てなかったし、今日来てくれてよかったよ。」
「いえ、お話を聞いて貰えただけで嬉しかったので」
誰にも相談できなくて困ってたしね。
「欲のない子だねぇ。で、仕事は見つかったのかい?」
私は首を横にふった。
「全然。何も進んでないので、今日は今から紹介所へ行くつもりです。」
「紹介所ねぇ。今は仕事を探してる人が多いから、未経験者ですぐに雇ってもらうのはなかなか難しいかもしれないよ。」
「そうですよね…」
仕事を探しているのは私だけじゃないし、そうなってくると何も出来ない私を選んでくれるところは少ないよね。
う~ん
でも、悩んでたって仕方ないわ!楽しく暮らすにはお仕事は必須!
「意気込むのはいいけどね、簡単には決めちゃ駄目だよ、悪どい所もあったりするからね。」
「見極めが必要なのね。」
「そうだよ。何か相談があったら店にきな。いつでも話聞いてあげる。もちろん何か食べてって貰うけどね。」
相談…
「よろしくお願いします!」
「ああ、頑張んな。」
美味しい料理を食べながら相談にものってもらえて、このお店を『1人ご飯デビュー』に決めたのは大正解だったわ!
馬車にのって紹介所に行くと、私のように仕事を求めている人が沢山いた。
やっぱり就職って難しいよね…未経験者歓迎だとしても、きっと経験者を優遇するはずだし。
…無理だとは思うけど、教師や家庭教師、何かを教えるような仕事はないかしら?
「お仕事、お探しですか?」
「ええ…そうな…っっ!!」
「こんなところで会うなんて、奇遇ですね。」
「本当、奇遇ですね。」
嘘でしょ…。何故邸で話をした騎士がここにいて、私に話しかけくるの…。
「貴方もお仕事探し…ですか?」
「いえ、家がこの辺りなんです。」
絶対嘘だわ。私を探す騎士であれば、秘密をもらさないと信用されてる者よ。王都に家があるに決まっているわ。
…まさか、私を付けてきてたとかじゃ…ないわよね?
私がどう…と言うよりも、伯爵に話を聞けないから、辺りを調べていたりするのかもしれないわ。そしてたまたま出会って話しかけられた…とか?
「妹とは会えましたか?」
「いえ、未だに。」
「そう、早く会えるといいですね。では、私は行くところがありますので失礼します。」
「あの…」
まだ何か話そうとしてたみたいだけど、聞こえなかったふりをして逃げた。
この街でも油断は出来ないわね。