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第17話〜水色

 百合は歩く。一歩一歩、ぶつぶつ言いながら。


「航さんに会ってお弁当を渡す…人にどう見られたっていい…、それから昨日の…昨日の…。」


 百合の足が止まる。


「昨日の…あのおでこの…。」


 やさしい風が百合の頬を撫でる。


「だめだめ考えちゃ…。」


 再び百合は歩き出す。工場が見えてきた。百合の緊張はやはり高まる。昨日と同じ、門の少し手前で足が止まる。


 百合は目線を下に向けた。それ以上は上げられない。百合は航を探す。そして見つけた、航のスニーカー。そのスニーカーは近付いてくる。百合は上を向く。航だった。


「おう、おはよう。」


 いつもの航、やさしい笑顔。百合はホッとし、ホッとした顔をする。


「おはようございます。」

「今日も頑張ったな。」

「はい。」


 航に会えて安心した百合は、緊張から解かれ昨日のことを思い出してしまう。顔が赤くなってしまった。目線を少し下に下げる。


「どうかしたか?顔赤くして。」

「な、何でもないです…。」

「…あ…。」


 航も思い出す、昨日のことを。気まずい恥ずかしい気持ち、空気、空間。


「…今日も、公園でいいか?」

「はい…。」


 百合は変わらない、目線も顔色も。すると航は言う。


「おい、またデコピンするぞ。」

「い、嫌です!」

「やっと向いたな、こっち。」


 航はやさしい目、航のやさしさが百合を笑顔にする。


「航さん?」

「なんだ?」


 百合は微笑む。航へ向ける、百合の初めての微笑みだった。


「行ってらっしゃい。」


 航は微笑み返す。


「行ってくる。」


 その日も朝顔が咲いた。昨日より少し大きい朝顔。


 そしてお昼の時間。百合からのお弁当を見る従業員が騒ぐ。


「航先輩、今日も豪華っすね!」

「今日のもうまそー!」

「いい彼女っすね!」


 航は少し控え目に言う。


「だから、そんなんじゃねーよ…。」

「先輩が照れてる!」

「何恥ずかしがってんすかー!」


 取り巻き達が騒ぐ中、航は見つける。百合からのメッセージカード。百合からの想いやり。


  今日の卵焼きはどうですか?

             百合

 

 航は百合の想いやりを強く感じた。


「ありがとな…。」


 朝顔と夕顔が咲く日々が続く。その日々が続くにつれ、航はお弁当より、百合からのメッセージカード、百合からの一言が楽しみになっていった。何の柄もない、真っ白なカード。百合の文字が引き立つ。


 .

 .

 .

  今日はいつもより暑くなるそうです

  今日のお弁当の出来はイマイチです…

  雨続きますね、体調崩さないようにしてくださいね

  水分補給、ちゃんとしてますか?

  このお弁当で、少しでも疲れが取れますように

 .

 .

 .


 毎日届く、百合からの想いやり。ある日。本当に一言だけ。


  会いたい


 それを見た航はすぐにどこかに電話をする。


「先輩、お久ぶりです。…はい。で、先輩、お願いがあるんすけど…。」


 翌日、待ち合わせ場所は公園ではなく駅を指定してきた航。百合は不思議に思うこともなく、迷わず駅に向かう。


 百合は駅に着くと、航は既に来ていた。少し離れた所から、百合は感じた。いつもとは雰囲気が違う航を。その日の航は、ラフな水色のシャツにジーンズ、そして履きこなしたブーツ。手には百合のお弁当の紙袋。


 服装だけではない、どこか落ち着いた雰囲気をしている航。百合が見惚れない訳はなかった。ぽーっと航を見る百合。そんな百合を航は見つける。航は手招きをした。百合は小走りで航に向かう。


「お疲れ。」

「お疲れ様です。」

「こっちだ、行くぞ。」

「はい!」

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