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第15話〜お昼時間

 自分の会社まで歩く百合。さっき航に会い、お弁当を渡した。その事実を自分自身で確かめ、噛みしめる。仕事は上の空。そしてお昼の時間があっという間に来た。いつものように葵が迎えに来る。


「ユリー!お疲れ!」


 喫茶室・ジョリン。そわそわしている百合に、葵も舞もすぐ気づき、心配になる。


「ユリ、どうかした?」

「え??」

「何かに脅えてるようには見えないし…。」

「あ、あの…実は…。」


 百合は深呼吸をし、目を閉じる。


「今朝、お弁当、渡してきました…。」


 葵、舞。2人とも目を見開く。


「え、お弁当って、あのお弁当箱選んだ人…?」

「出勤前に??」

「はい…色々と、緊張しました…。」


 2人は喜ぶ。百合本人より喜んでいる。


「やったねユリ!おめでとう!」

「え…?」

「ユリ偉い!」

「偉いって…。」

「有言実行!すごい!」

「そう…でしょうか…。」


 自信がないような顔をする百合。事実を噛みしめながら出勤したはずが、まだふわふわし、確かな実感がなかった。そんな百合に、2人はいつものように優しかった。葵は百合の腕を優しく握る。


「ユリは頑張ったんだよ?」

「前進したね、ユリ。」

「成長もしたんじゃない?初めて会った頃なんて、私たちにもビクビクして、すぐ顔赤くしてたのに。」

「確かに!」


 百合はまた2人に励まされ、背中を押してくれた。


「ありがとうございます、いつも…。」


 百合は控え目に笑って礼を言った。


「あ!またその笑顔!ずるい笑顔!可愛いすぎる笑顔!」

「え…。」

「あー、練習するって言ってしてなーい!」

「だから舞には無理ー!」


 そんな頃、工場でもお昼の時間。航は百合に言われた通り、お弁当を冷蔵庫から出し、レンジで温める。そのお弁当に最初に気付いたのは社長だった。


「なんだ?航。今日は愛妻弁当か?お前も隅に置けねぇなあ!」


 それを聞いた他の従業員たちは航に食い付く。


「先輩!まじっすか!」

「彼女いたんすか?!」

「あ、今朝いたよな、すげースタイルいい女!」

「今度、紹介してくださいよ!先輩!」


 航は散々いじられる。めんどくさそうに航は答える。


「うるせーな、そんなんじゃねーよ。」

「じゃあ、何なんすか?」


 航は止まる、考える。


「…なんだ?」

「何すか、それ!」

「やっぱ愛妻弁当じゃないっすかー!」

「俺もいねーかなー、作ってくれる女。」

「お前は無理だよ!」


 周りは盛り上がっている。そんな中、航は巾着袋の底に何かが残って入っているのが見えた。航は手に取ってみる。それは百合からのメッセージカード。


  お疲れ様です

       百合


 百合からの想いやりだった。お弁当と想いやりが巾着袋に入っていた。その想いやりを、航は受け取った。そしてお弁当箱のふたを開ける。


「すげー豪華!」

「うまそー!」

「先輩すごいっすね!」


 また取り巻きが騒ぎ出した。それは見事なお弁当だった。バランスのいいおかずが綺麗に並び、配色も綺麗だった。そして忘れない、卵焼き。おかずの真ん中に入っていた。航は思わず言った。小さな声で。


「あいつ…。」


 そう言う航の目はやさしかった。


「ありがたく、いただくぞ…。」


 そんなふたりのお昼時間。

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