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第1話〜レセプション

 WELCOME to our Wedding Reception

  KOUJI & TOMOE


 百合ゆりは、数か月前に寿退社した先輩・友江ともえの結婚式に来ていた。

 

 ジューンブライド。前日までは雨が降り続いていて、当日の天気が少し気になっていた百合。しかしその日は晴天。まるで空からも祝福されているかのように、青い空が眩しかった。


「緊張する…。」


 百合の先輩2人、合わせて3人で出席。百合は結婚式などのお呼ばれは初めてだった。あがり症の百合。とても緊張していた。


 会場はとても大きく真っ白だった。会場外の廊下を歩くと、中庭があり、小さなプールがあった。黄色とオレンジ色のガーベラの花が沢山浮かんでいる。


 受付を済ませ、チャペルへ向かう。真っ白な内装に、真っ青なバージンロード。そのバージンロードには、白い花びらが広がっていた。


 式が始まる。新郎が入口で深々とお辞儀をし、ゆっくりと前に進む。そして新婦、友江が来た。真っ白なドレス。プリンセスラインのドレスだった。華やかな笑顔の友江にぴったりのドレスタイプ。重なったレースが何段もあり、後ろには大きなリボン。長い裾がフワフワし、後ろ姿も綺麗だった。友江はとても美しかった。


 百合はこの時、新郎を初めて見た。とても優しそうな人だった。裏表などない、純粋な人なのだろうと、百合は思った。友江を想いやる目。それを見るとさらにその優しさを感じた。

 

 新郎と新婦、愛を誓い合った。


 ゲストは祝福する。友江は目を涙で潤ませながら笑っていた。とても幸せそうだった。百合は少しだけうらやましく思いながら、小さく拍手をし友江を祝った。


 披露宴会場へと移動する。


「ユリ、何そのワンピース。」

「えっ!何かだめでしたか??」

「ダメじゃないけど、そんなワンピース着たらスタイルいいのが余計目立つじゃない。一緒にいるのが恥ずかしくなる!」

「そ、そんなこと言われても、結婚式なんて初めてで、お店で店員が言った通りに買っただけです…。」


 百合はスタイルがよかった。身長は高すぎず低すぎず、少し細めで体のラインが綺麗だった。そんな百合は、ベージュにゴールドのラメが輝く膝丈のマーメイドタイプのワンピースに黒のボレロを羽織り、黒いピンヒールのパンプスをはいていた。シルエットがとても綺麗だった。


 お呼ばれが初めての百合。会場内の内装と装飾、自分が座るテーブルと席、自分のネームプレート、全てが新鮮で全てに関心していた。


 披露宴が始まる。新郎新婦が入場し、2人の自己紹介と馴れ初めから始まった。ウェディングケーキのケーキ入刀、そして乾杯をした。歓談の時間。緊張が少しおさまり、料理とおしゃべりを楽しんでいた時。ふと隣のテーブルに目がいった。空席が2席ある。結婚式に欠席する人もいるのかと思った百合だった。


「ユリ!何してるの?行くよ!」

「え?!」


 中庭へ集まるゲスト。バルーンリリースだ。


「先輩、これ何ですか?」

「これで2人を祝福するのよ!はい、これ持って!」


 先輩に渡されたバルーン。ピンクのハート型をしていた。


「かわいい…。」


 百合が見惚れてすぐカウントダウンが始まった。


 5、4、3、2、1…


 そして一斉に無数のバルーンが舞う。青い空に向かって飛んでいく。とても幻想的だった。


「きれい…。」


 沢山の拍手が鳴る中、百合はどこか切ない目で見ていた。

 

 そのバルーンの写真を皆撮っている。百合の少し前に立っている女性も必死になってスマホで写真を撮っていた。その女性は写真に夢中でスマホしか見ておらず、写真を撮りながらどんどん後ろにさがってくる。空を見上げる百合は、その女性になど気にもとめていなかった。


 どんどんさがってくる女性は百合とドンっとぶつかる。驚く百合。ぶつかった衝撃でよろつく2人。気づけばすぐ側にプールがあった。2人は倒れこむ寸前。


 その時。百合は左腕を掴まれ、引っ張られる。


 バッシャーン


 プールを振り返ると、百合とぶつかった女性はプールに落ちてしまっていた。


 何が起きたのか、なぜ自分はプールに落ちなかったのか、驚きながら考える百合。そして思い出した、自分は誰かに腕を掴まれたことを。


「よかったな、あんたもああならなくて。」 


 少し笑いながら言うその声を見た。白いシャツに濃い紫色のネクタイをした、背の高い男。


 一目惚れだった。


 その男は百合の腕をそっと放す。プールに落ちびしょ濡れになった女性を、他の男性らと一緒に引っ張り上げようとする。しかしプール内が滑ってなかなか女性を上げられない。


 困り始める男性陣。するとその濃い紫色のネクタイの男は女性の腕を強く掴み、勢いよく女性の体ごと引っ張り上げた。やっと女性は地面に上がることができ、すぐさま立ち去っていった。


 百合はまだ驚いている。プールに落ちそうになったことと一目惚れの胸の驚き。


 濃い紫色のネクタイの男は手で服の水をはらっている。百合の心の驚きはそのまま、とっさにバッグからハンカチを出す。その男に大きな声で言う。


「使ってください!」


 百合はハンカチを男に向ける。百合に気づく男。


「悪いな。」


 少しはにかみながら百合のハンカチを受け取り、服を拭き始めた。しかしその男の服は見た目以上に濡れており、百合のハンカチもかなり濡れてしまった。一通り拭き終わった男がそのハンカチを見る。


「あ…悪い、すげー濡れたな…。」


 百合はまたとっさに大きな声で言う。


「いいんです!大丈夫です!」


 すると男はまたはにかむ。


「悪いな。」


 そう言い、百合にハンカチを渡しその場を去っていった。百合は少しの間、その場を動けずにいた。

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