自分との遭遇
赤ん坊は話せないし、思うように動けない。
だから、赤ん坊は意思疎通の方法として泣くのだと――同じ立場になった、オリヴィアは痛感した。前世では無表情や鉄仮面とまで言われたので、最初はちょっとしたことで泣いてしまう自分に戸惑ったものである。
……だが、前世と違うことは他にもあった。
「まあ、オムツですか？ それとも、お腹が空きましたか？」
「オリヴィア、大丈夫よ……母様が、ここにいるわ」
オリヴィアが泣いたらハンナ達使用人が、そして母親であるウーナがすぐ駆け寄って抱き上げてくれる。そして嫌な顔一つせず、むしろ笑顔でオリヴィアの面倒を見てくれる。
前世では、赤ん坊の頃の記憶などはないが――こうして声をかけられたり、抱かれたりした記憶がまるでない。だから当たり前だとは思えないし、ありがたいことだとも思っている。
（ありがたいけど、申し訳ない……出来るだけ泣くのを我慢して、早く動けるようにならないと）
……あいにく我慢は、逆に大きな声になったり余計に手をかけさせることになったので、すぐに諦めることになったが。
早く動けるようになる為に、オリヴィアはこっそり手足を動かしたり（ハンナ達がいない隙に）寝返りを打ったりして、まずはお座りとハイハイを目指すことにした。
※
そうして頑張ったおかげで、オリヴィアは生まれて五か月という、比較的早いペースでハイハイが出来るようになった。
正確に言えばお腹を床につけた状態の、匍匐前進のようなずり這いだったが――おかげで、オリヴィアの行動範囲は格段に広がった。それから壁に立てかけた姿見で、初めて転生後の自分の姿を見ることが出来た。
ふわふわの榛色の髪。
雪のように白い肌と丸い頬。
大きな目は、父親と同じ緑色をしている。
（……髪と目の色は、それぞれ分け合って。顔はエリオットが父親似で、私は母親似なのね）
赤ん坊なので美人とは言えないし、色彩的にエリオットのような『天使のような』とも言えないが、人形のように愛らしい。家族や使用人達からの誉め言葉は、お世辞ではなかったようだ。
（母親似なら、嫌われないかな……いや、でも顔の作りが良くても、前世みたいに愛想が悪かったら余計に駄目かもしれないし……やっぱり、もっと頑張って働けるようにならないと）
そう心の中で結論付けると、オリヴィアはキッと顔を上げ、再びハイハイならぬずり這いを始めた。
そんな彼女の思惑には気づかず、ハンナ達使用人は部屋の中で一生懸命にずり這いをするオリヴィアの姿を見て、ほっこりと和んでいた。
