美味しいだけじゃ終わらない?
実は先触れで、ジョルジュは味が濃いものが苦手で、更に少食だと聞かされていた。ただし、オリヴィアのレシピで作られたお菓子は気に入ったので、乳製品ならあるいは、とも。
それ故、昼食兼おやつとしてサイズを小さくしたクリームパンを、そして夕食はジョルジュ用にはマグカップに入れたシチューと、大皿に皆でつまめるような一口サイズのバケットにチーズや野菜、チキンなどを載せたカナッペにした。夕食には珍しいが、昼のパーティーやお茶会には出てくるメニューだ。これなら、自分で食べる量が調整出来る。
「……美味しい」
とは言え実際、一緒に食事をしてみると──確かに、歳の割には食べる量は少ないが、ジョルジュの目の輝きは先程と変わらなかった。笑顔こそないのだが美味しそうに頬張り、目を輝かせているのを見ると、聞いていた通りに乳製品料理を気に入ってくれていると解る。
「良かったです」
「明日も、これがいい」
「気に入っていただけて、嬉しいです。スープや具は、変えますが……明日も、朝食に作って貰いますね。あ、でも昼はまた別なものにしますよ?」
「うん」
話しかけられて答えたオリヴィアに、ジョルジュが頷く。現世は同じ年だが、前世もプラスすれば子供──まではいかなくても弟感覚で、表情こそ乏しいが素直で可愛いなと思った。しかしオリヴィアの事情を知ってはいるが、両親達の意見は少し違うようである。
ジョルジュと騎士に部屋で休むよう促すと、オリヴィアは父であるオーリンに呼ばれた。母と兄、それからヴァイスと共に両親の部屋に行った。そして、部屋に集合したところでオーリンがおもむろに口を開いた。
「……殿下は、オリヴィアを気に入ったようだ」
「え? お菓子や料理をじゃないですか?」
「それはそれ、これはこれだな!」
「オリヴィア……あんなに露骨なのに、そう思うの? それはちょっと、殿下が可哀想だと思う」
オリヴィアの言葉に対して、ヴァイスがビシッと前足を向けて言うし、兄・エリオットが真顔で言う。そんなヴァイスとエリオットに頷きながら、オーリンが話を続けた。
「たとえ、料理目当てだとしてもだ。殿下『から』誰かに近づくと言うのは、初めてらしい。だから先触れが来た時に、無理を言うかどうか受け入れて欲しいと陛下からお言葉があったのだ」
「そうだったんですか……」
急な来訪に対して、皆が奔走していたのはそういう事情もあったのかと納得する。しかしそこで、オーリンが真顔で妙なことを言ってきた。
「ああ。そしてオリヴィアが嫁ぐのではなく、殿下がオリヴィアの婿になるのなら話は変わってくる」
「え?」
父の説明に、オリヴィアは首を傾げた。断った筈の話が浮上したのもだが、結婚するのは同じなのに嫁入りと婿入りの違いがどうも今一つピンと来ない。
そんな考えが顔に出たのか、母であるウーナがオリヴィアの疑問に答えてくれる。
「以前、元々の予定だと殿下は学園を卒業後、公爵位を与えられると話したでしょう?」
「はい」
「それは『公爵位』が王室の血縁者、もしくは国政の重要人物に与えられる爵位だからよ。第二王子のジョルジュ様に与えられるのは、当然よね……一方、貴族であり領地を治める私達も、ご先祖様から引き継いだ爵位を複数持っているわ。もっとも、辺境伯より下だから子爵か男爵になるけれど」
母の説明を聞いてオリヴィアは昔、図書館で読んだ本を思い出した。日本では一つの家に一つの爵位の考え方だが、ヨーロッパでは所領に爵位が付随していたり、あるいは陞爵した場合に以前の爵位を保持したまま新しい爵位が追加になるので、一貴族が複数爵位を持つことも珍しくはないそうだ。そして、この異世界の爵位はヨーロッパ方式らしい。
そんなウーナの説明を引き継いで、オーリンが話を締め括った。
「辺境伯は、エリオットに継がせる。それは、変わらないし譲らない。だから、殿下が……と言うか、陛下達が殿下が下位貴族になるのを了承するかという問題はあるが、もし了承されればオリヴィアは爵位を継いで、殿下は婿入り出来る。そしてオリヴィアは今のまま、領地でレシピ考案などを続けられる」
「っ!?」
一旦、無かったことになった筈の婚約話が、一気に現実味を帯びたのにオリヴィアは目を丸くした。




