思いがけない大物が
立って話をするか座ったままか一瞬、迷ったが七歳児だと逆に低くなってしまうので、オリヴィアは座ったまま口を開いた。
「お父様、お母様、お兄様……お話があります。まず、聞いていただけますか?」
「あ、ああ」
「オリヴィア?」
「どうしたの?」
オリヴィアの言葉に家族が、そして控えていたハンナ達や皿を片づけに来たヨナスが戸惑っているのが解る。
そんな面々の視線を受けながら、オリヴィアは
「私には生まれる前の、異世界の記憶があります。今まで、ヴァイスに聞いたと話していたのは、前世の……異世界の食べものや、飲みもので。十五歳で死んだ私が、それらを作って幸せになるように、女神様はこの世界に生まれ変わらせてくれました」
そこで一旦、言葉を切って、私は話の先を続けた。
「私の幸せはケフィア他、乳製品をレシピを広めて、恩人である女神様に奉納することです。そのことを、賛成までいかなくても黙認してくれる方でなければ、結婚することは出来ません……ごめんなさい」
だから、気になる男の子とか、それ以前の話です。
そう話を締め括ったオリヴィアに、皆、顔を見合わせて──しばしの沈黙の後、父・オーリンが口を開いた。
「……実は、オリヴィアをジョルジュ殿下の婚約者候補に、という話が来たんだ」
「えっ?」
オーリンから聞いた名前に、思わずオリヴィアは声を上げた。
まだ家庭教師はついていないが、流石に王族の名前と年くらいは解る。そして、ジョルジュというのはオリヴィアと同じ年の、第二王子の名前だ。ちなみに、第一王子は兄・エリオットと同じ年である。自分達兄妹と同じなので、余計に年も覚えていた。
だが、覚えていたのと婚約者候補になりたいかとでは全く別の話だ。
(そうか……辺境伯令嬢だと、そういう話も来るんだ……)
言葉だけだと『伯爵』だが、辺境伯は隣国国境の防衛も担っている。落ち着いて考えれば、ありえない話ではない。
「候補だから、オリヴィアの他にも同じ年頃の令嬢に話を持ちかけて、王宮での一年の教育の後に正式に婚約者が決まる。元々、オリヴィアの気持ちを確かめた上で返答するつもりだったが……オリヴィア」
「はい」
「今の話を聞いて、考えが変わったよ……お前のやりたいことに対して、王子妃は諸刃の剣だ。殿下は学園を卒業後、公爵位を与えられる予定だ。もし殿下と親しくなり、婚約者となれたなら色々と出来そうだが……さっきも言ったが最低、一年王宮で教育を受けなくてはいけない。正式な王子妃となったらもっとだ。その間、新しいレシピ作成などは出来ないし、王宮にはヴァイス様を連れてはいけない」
「……あっ……」
話の前半を聞いて、少し心が動いたが──後半の内容に、思わず声が出た。そうだ、仮にも王子妃なのだから、少なくとも候補であるうちは自分のやりたいことは我慢しなければ。
……けれど、そこまで考えてオリヴィアは「ごめんなさい」と一同に頭を下げた。