これまでのこと、これからのこと
「……だったら、オリヴィアに好きにさせてくれるところに嫁げばいいだろう?」
「えっ?」
ヴァイスの言葉に、部屋の寝台に腰かけて話をしていたオリヴィアは驚いて声を上げた。そんな彼女に、寝台の足元にいたヴァイスがクリッと金色の瞳を動かして言う。
「ただ、大変だぞ? 選ぶ立場になるってことは、相手からも値踏みされる……オリヴィアに、その覚悟はあるか?」
「ヴァイス……」
「あと、親や家族に結婚を押し付けられたくないんなら、まずはそれをしっかり伝えなくちゃいけない。何なら、前世のことも話さなくちゃいけなくなるかも……そこまでして、女神との約束を果たしたいか?」
「…………」
言われて、結婚以前の問題だったとオリヴィアは気づいた。
今は、まだオリヴィアは子供で。更に、幻獣であるヴァイスがいるので好きなように乳製品のレシピを提案し広めていたが──兄を見ていると、そろそろオリヴィアにも家庭教師がつくと思われる。勿論、令嬢としての勉強や作法を疎かにするつもりはないが、今までのように乳製品に対して集中することは出来ないだろう。
(これからも、やりたいことをやるには……前みたいに、いや、前以上に家族と向き合わないと)
言われるまで気づかなかったが、三歳の時のようにまた自分だけで考えて、勝手に自己完結しようとしていた。
前世については、家族を戸惑わせてしまうかもしれない。あと、受け入れられたとしても結婚については別問題で、奉納祭については別の誰かに頼まなくてはいけないかもしれない。
……だが、少なくとも前世の家族のように嫌われはしないと思うし、今のように自己完結するより悪くなることもないだろう。
「うん、やりたい……前世では興味があっても、思い通りには出来なかったから。生まれ変わった今は、思う存分やりたいの」
「そうか」
「出来るなら最悪、結婚しなくてもいい……ありがとう、ヴァイス。夕食の時に、お父様達と話してみるわね」
「ああ」
オリヴィアが決意を口にすると、ヴァイスが頷いてくれた。
それに背中を押され、気合いを入れたオリヴィアは夕食の時間になったところで、ヴァイスの背に乗って食堂へと向かった。その後を、いつものようにハンナ達数名のメイドが付いてくる。
そして家族と共に席につき、オリヴィアが口を開くタイミングを計っていると──食事が終わったところで、父であるオーリンがおもむろに口を開いた。
「……オリヴィア? つかぬ事聞くのだが……気になる男の子とか、いるかい?」
「えっ?」
もしかして、まだと思っていた婚約の話が来てしまったのだろうか?
血の気が引いたが、すぐにここは何としても前世のことや、やりたいことについて話さなくてはと思い至り、オリヴィアはキッと顔を上げた。