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お礼だけじゃなかった

 オリヴィアとしては送り迎えはされるが、店には一人で行くと思っていた。しかし、それを口にすると「そんな訳あるか!」とヴァイスに怒られてしまった。

 そんな訳で、ヴァイスが付いてきている。更に、ヨナスが「相手が暴走したら、同じ料理人の俺が止めます!」と言って同行してくれた。彼の場合、物理(拳)になりそうなので、暴走しないことを祈ろうと思う。


「「いらっしゃいませ。ようこそ『マガサン・オリヴィア』へ……お嬢様っ」」

「ごきげんよう。注文は、少し待ってね?」


 今日のオリヴィアは、護衛も兼ねているヨナスに抱き上げられている。万が一、料理人達に駆け寄られてもヨナスが守れるようにだ。左手だけでオリヴィアを抱き、右手は空けて臨戦態勢なのだから恐れ入る。もっとも、給仕をしている侍女達はオリヴィアがヨナスに守られていることに、目に見えてホッとしているが。


「……ごきげんよう、皆様」


 そしてオリヴィアを抱いたヨナスと、足元を歩くヴァイスはオリヴィアとの対面を望んだ料理人三人のところへ向かった。そして、ヴァイスは別だがこの中で一番、身分の高いオリヴィアが口を開いた。上の者から話さなければ、下の者は口をきけないからだ。

 それ故、オリヴィアが話しかけたところで料理人達は皆、身を乗り出すようにして言った。


「お嬢様……ありがとうございます!」

「お嬢様のレシピのおかげで、目に見えて肌が綺麗になりました!」

「娘から、褒められました……ありがとうございますっ」


 口々に言って、三人で深々とオリヴィアに頭を下げてくる。


(本当に、お礼だったのね)


 ちょっと勢いに腰が引けたが、相手の言葉に安心しかけた。だが、三人がほぼ同時に顔を上げたのでオリヴィアは驚いて固まった。


「レシピの公開は、待ちますが……奥様が、店に来たいと」

「我が家のお嬢様もです」

「娘もですが、俺も同じ館の同僚達に頼まれました」

「「「ただ一度に押しかけたら、ご迷惑かと思って……それか、持ち帰りは可能でしょうか!?」」」

「……持ち帰り?」

「その発想はなかったな」


 確かに、髪艶や肌艶が良くなるとくれば女性陣は気になるだろう。

 とは言え、想定外のことを切り出されたのにオリヴィアは戸惑い、ヴァイスは感心したように言った。

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