彼らの正体と、そして
デートらしい男女は、ロールケーキとシュークリーム。親子らしい女性と男の子は、ロールケーキとクリームパン。それから男性三人は、それぞれロールケーキとシュークリームとクリームパンを一つずつと、ケフィアを三人分頼んだ。飲み物は好みがあるので、ケフィアと別に紅茶とジュースを用意していたが――先程手にしていたものと、男性達が頼んだのにオリヴィアは「もしや」と思った。
そしてオリヴィアの、あと客以外の面々の予想は当たった。
「レシピのお菓子が実際、食べられるのは良いな」
「そうだな。レシピ通りに作ってはいるが、やはり元祖と遜色がないか心配だったからな」
「この飲み物も良いが、これはまだレシピがない……また飲みに来よう。レシピ公開が、楽しみだな!」
男性で、年の頃は三十代から四十代な彼らは、どうやら料理人らしい。一つずつ頼んだお菓子を三人でシェアし、全部を味わいながら時折、オリヴィアが公開したレシピを見ている。成程、確かにレシピで再現は出来るだろうが、パーティーやオリヴィアの館に来た時のお茶菓子として出されるのだから、料理人の口にはなかなか入らない。そんなお菓子が食べられるなら、確かにこうして店に来るだろう。
(話はしているけど、別にうるさくはないし。今日が日曜だから、来たのかしら……一回食べたから、満足したかな?)
そう思い、オリヴィアは他の客へも目をやった。
辺境伯家で作ったので砂糖が使われているが、そもそも砂糖の値段が高いので平民はあまり砂糖を使わない。代わりに、蜂蜜や果汁を使っている。
だからこの店の設定価格は少々、高め(お菓子一つが、昼食メニューと同じくらい)だ。それ故、来店後に驚かないよう店の前の看板でもメニューと値段を出している。結果、値段を了承した客達は砂糖の上品な甘さと、口当たりの良い生クリームとカスタードクリームを堪能していた。
残念ながら、ケフィアを頼んだのは料理人と思われる男性陣だけだったが。
(初日だし、お菓子以上に馴染みがないから……慌てない慌てない)
そう自分に言い聞かせ、しばらく客の入れ替わりを眺めたり、子供に話しかけられたり(親は恐縮していたが、肖像画と同じなのだから当然と言えば当然だ)し、二時間ほどでオリヴィア達は帰宅した。
……そして、開店してから一か月ほど経った頃である。
「お嬢様! 女神様のご加護が……あの、料理人らしき方々にっ」
「「え?」」
リタと侍女達の報告に、オリヴィアとヴァイスは驚いて声を上げた。