肖像画だけではなかった
ヴァイスが提案した『オリヴィアのレシピが食べられる店』が開店したのは、三か月後のことだった。
店自体は一から建てるのではなく、閉店していた元食堂を改装したのだが――パン窯の用意と、店に飾るオリヴィアとヴァイスが描かれた肖像画を用意する為だ。ちなみにこの肖像画は、一年ごとに新しいものに変えるらしい。
ちなみに最初はオリヴィアだけの予定だったが、オリヴィアがヴァイスも道連れにした。モデルの時、動かず大人しくするのはちょっと大変そうだったが、出来上がった肖像画にヴァイスは金色の目をキラキラと輝かせた。そして店に飾られた今も、同様に楽しげに肖像画を見上げている。
「おー、描き上がった時も見たけど、店に飾るとますます良いな」
「幻獣様、ありがとうございます」
ご機嫌なヴァイスに、リタが嬉しそうに答えて頭を下げる。
(ちょっと恥ずかしいけど、喜んでくれるなら……うん、良かった)
今日は開店初日ということで、オリヴィアも家族と一緒にリタの店に来ている。
肖像画に描かれた時と同じ黄色のドレスを着た彼女だったが、迎える側になると客が緊張してしまいそうなので、リタから客の一人として家族と共にテーブルに着くよう言われている。
そんなオリヴィア達のテーブルには、ロールケーキとシュークリーム。そしてクリームパンと、飲み物としてケフィアが人数分並んでいる。ちなみに、並べてくれたのはリタ――ではなく、辺境伯家の侍女二人だ。リタが料理に専念する為、更にオリヴィアのレシピが扱われる店だからと辺境伯家の侍女達が手伝うことになった。その代わりリタも含めてあくまで本業は辺境伯家の侍女なので、この店は週に三回、一日おきの営業となる。
(この世界でも土日は休みだから、平日のみの営業にしようと思ったけど……休みの日だから来るお客様もいるだろうって今日から、日曜日からの営業になったのよね。代わりに金曜日を休みにして、金土の連休にしたけど……ありがたいなぁ)
しみじみしていると、開店時間になったらしくリタが厨房から出てきた。料理人の彼女は普段は厨房にこもるらしいが、開店時だけは他の同僚達と共に客を迎えるそうだ。
「「「いらっしゃいませ。ようこそ『マガサン・オリヴィア』へ!」」」
マガサンは『店』という意味の言葉。つまり『オリヴィアの店』という名前である。肖像画同様恥ずかしいが、某クッキーのお店も似たようなものだと自分に言い聞かせた。
そしてドアを開けた途端、デートらしい男女が一組、家族連れらしい客が二組。あと。何かを手に持った男性達が三人入ってきた。




