日常
稽古を始めて4ヶ月が経った。今では我も昔の我に戻った。思い込みが洗脳と化し、我の意識を変えたのだ。
そんな我の変化と共に季節も変わった。
最近は冷え込んできて、冬の訪れを感じる。今日は更に冷え込んでいる。
そんな日でも稽古は欠かさず行っている。我はあれ以来刀へ魅了され稽古をつけてもらう日々を送っている。と言っても、1ヶ月を過ぎたあたりからお爺様にストップをかけられ、稽古は2日に1回となった。
それでも、休みの日はコソッと刀を振るう際の独特な歩法を練習したり、部屋で瞑想をしたりとバレないことをしている。
今日も引き続き稽古をする。だが、今日から新しい訓練メニューが追加されるため、少し興奮している。
着装を終え、興奮を胸に練習場所に向かう。
「カルロス、今日から何を始めるの?」
「実践です。この刃を潰した刀を使います」
実践か。早く始めるに越したことはないな。結局のところ勝敗を分けるのは経験の差と言っても過言ではない。
それを今から始めれるのだ。正直言って胸が踊る。
「殿下、興奮しているところ悪いですが、実践は午後に行います。まずはいつもしている訓練をします」
「分かってるよ」
それから淡々と日課をこなす。まずは瞑想から入る。これは雑念を失くし集中するためだ。その後は素振りなどの反復練習だ。敵がいるのを想定しながら刀を振るう。
その後、練習を終えお昼休憩に入った。毎度のことだが、クロムとジルが昼食を持ってここにやって来た。
「殿下、お疲れ様です」
「クロム達もお疲れ」
そして、我とカルロス、クロム、ジルで昼食をとる。今日のメニューは天ぷらだ。海老やササミ、魚、野菜と種類は様々だ。その他にはお吸い物や昆布出汁のきいた蟹のスープ、そして大好物の白米だ。
白米は神だ。どんな料理にも合い、それ単体でもとても美味しい。白米は偉大である。
「殿下はいつも本当に美味しそうに食べすね」
「そりゃ美味しいからね。カルロスは違うの」
「いえ、ただとても微笑ましいなと。殿下の笑顔を見てると元気が貰えます」
「副団長もですか?実は私もです」
「クロム、そんな騒いでははしたないぞ」
「ジルは真面目すぎなんだよ」
クスクスッ。改めて思うけど、こんな楽しい食事はこの時くらいだな。いつもは食事中は声を荒げることはジルの言う通りマナー違反とされている。
だけど、我としては騒がしい方が楽しんだよな。それに、はしゃいで、笑いあってする食事の方が美味しく感じるしな。
「殿下、どうされました?何か面白いことでも?」
「いや、ただこれがいつまでも続いたらなってね」
「はぁ……」
ジルはなんだか分からなかったみたいだ。こういう所見ると、本当にジルは真面目だなと思う。
それから、ワイワイとしながらも昼食をとる。そして、こんな楽しい時間も終わりをつげる。
昼食を終えるとクロムとジルは空の弁当箱を返しにに向かった。その間我らは世間話をして2人を待った。
「それにしても、本当に殿下は上達が早いですね。私も目を見張るほどです」
「そうなの?」
「はい。それもこれも、殿下が真面目に取り組んでいる証拠ですね」
カルロスは頭を撫でながら褒めてくれた。少し照れくさかった。いつもこういったことは我が王族だからかお爺様くらいしかしてくれない。だから嬉しかった。
「カルロス、カルロスは魔法と刀どっちを選んだ方がいいと思う?一応、我の職業は魔術師だが……」
「両方すれば良いのではと。殿下なら出来ると思います」
「なるほど。その手があったな。だが、どちらも中途半端になりそうでな」
「殿下は優秀過ぎてご自身の歳をお忘れですか?殿下はお若いのですからなんだって出来ます」
「そうだね。できるだけ頑張るよ」
話が終わる頃ようやく2人が帰ってきた。
それと同時に午後の練習の開始だ。
「クロム、ジル、今日からお前たちには殿下の相手をしてらう。勿論私もやるが、お前たちが主立ってやることになるからな」
「俺達が殿下の相手を?」
「ああ。実践は今日が初日だ。だから、お前たちは今日は攻撃禁止だ。分かったな」
「分かりました。ですが、何故攻撃禁止なのですか?それでは実践の意味が……」
「言っただろう。殿下が実践をするのは今日が初だ。まずは殿下に人と対峙するところから始めてもらうのだ。お前たちも最初はしただろう」
「──思い出しました。今となっては黒歴史ですね」
「ジルはやっちゃったからな」
「笑うな」
ジルがあんな赤面になるのは初めてだ。さて何があったのやら。気になるなぁ……。
「とにかく2人ともこれだけは言っておく。もし殿下にお怪我させたらどうなるか、わかってるな」
「「は、はい。副団長」」
カルロス、笑顔でそれ言うとか怖えぇ。クロムたち少し青ざめてるし。
そんなこんなで実践を開始した。まず始めにするのはジルだ。クロムは加減が分からず怪我させそうだからという理由で引き受けてくれたらしい。
そして、我とジルは互いに持ち場についた。
実践という緊張感が漂う中火蓋は切って落とされた。