朧月の夜
気がつくと僕は暗闇の中にいた。そこには僕ともう1つ眩い光を放つ光の玉のようなものがあった。その玉は大きく、僕の視界を覆うほどだ。
その他には何も無くただ暗闇が続いている。
興味本位で 光の玉へと近づく。近くにいくと暖かさをほんのり感じた。また、声が聞こえる。何かを僕に伝えようとしてる。ただ、その声は妨げられているかのようにかすれてなんと言っているかは分からなかった。だが、その光が僕へと話しかけているのは分かった。
暫くはそこに停滞していた光の玉だったがある時を境に僕を包み込んでいった。
そして、光が僕を完全に包んだ時、僕の頭の中に何かが流れ込み僕の意識はそこで途切れた。
何かが揺れる振動で目が覚める。うっすらと誰かの顔が見える。相手もこちらに気づいたのか呼びかけているのが分かる。
その声で意識が冴えて来た。そして、次第に状況を理解した。我が何者であり、どのような状態か。この者たちは何者なのか。この者たちとは関係の無い記憶は何なのか。全て理解した。
我は魂の融合をした。ただし、元の我の魂は大半が損失していた。残ったのは記憶くらいだ。感情は完全に消失している。
残された僅かな記憶にはこの者たちは誰なのか、それと教養だ。その他の大半は初代様の記憶が占めている。
我が考えを張り巡らせている最中、急に体を揺さぶられ正気に戻った。
「ルフ、ラルフ、ラルフ!」
「おお、我としたことかすまなんだ。少し考え事をしていてな」
「ラ、ルフ?一体どうしたというのじゃ」
「ああ、それに関してはおいおい話すとして、取り敢えず今は城へと急いでくれ」
「今城へと向かってるところじゃ。それより、少し口調を柔らかくできんかのう」
「善処しよう。それとエリクサーはないか?我が国の宝となってるはずだが」
「どこでそれを知った?」
「それも後ほど。急がねば体がもたぬ。魂が無事でも器が壊れれば意味が無い」
「よく分からんが儂らもエリクサーを使うつもりじ
ゃ」
「そうか。我は少し寝る。あとは頼んだぞ」
見覚えのある天井で目覚める。城の天井だ。
「目が覚めたかのう、ラルフよ」
「爺か。ここにいるということはエリクサーを使ったようだな」
「そうじゃ。じゃが、エリクサーで傷は治せても失った血は治せん。暫くは安静にしとくのじゃぞ」
「分かってる」
爺の言う通り血を多量に失っている。そのせいか自然に瞼が閉じていく。我はそのまま身に任せ眠りへとつくことにした。
ここはどこだろう。
空は暗く数多の星があり、綺麗な月が辺りを照らしている。
我の周りには大きな池の周りを緑の草木が生え、色鮮やかな木々が生い茂っている。また、その池には数多の魚たちがゆうゆうと泳いでいた。
その中で我は今その池の中央にある草木の上に立っている。
「お主、こちらへこんか」
後ろから俺を呼ぶ声がする。聞き覚えのある声だった。
後ろを向くと、そこには寝殿造の家があり、その縁側に若い男性が1人座っていた。
我は男のもとへと橋を渡り向かった。
「我になにようか?」
「いいから、座れ」
なんの用か不思議に思いながらも、我は言われるがままにその男の隣へと座る。
「それでお主、我になにようだ?」
「ふむ、なるほど。私の魂に影響されてか」
訳の分からぬことを言う。我を無視し何を言っているのやら。
「だから、なんの用かとっ!」
「安倍晴明。覚えているだろう」
「ああ、我と魂を融合した者だ」
「そう。私は安倍晴明だ」
「だが、あの時とは別の」
「この姿は若い時のものだからな。違っていて当然だ。それよりも、随分私に影響されているな」
「しょうがぬではないか。我のもとの魂はほんの僅かしか残っておらなんだからな」
「前に戻りたくはないか?」
「そう言われてもな。我には前の記憶がなくてな」
「私は昔のお主を見てきた。だから、私がそれにそって教えよう」
「そうか。では、頼む」
「まず我というのはやめろ。昔は僕と言っていたぞ」
「僕か。ピンと来んな。これは変えねばならぬか?違和感しか何のだが」
「ふむ。精神年齢が上がってるせいか。致し方ないな。変えないでよい」
「分かった。他には──」
それから、我は晴明の指導のもと昔の我へと近づけていった。
そして、数時間が経った。その頃には我は元の我に限りなく近づいていた。
「ここまでのようだな」
「どうしたのですか?」
「私が消える時間が来たのだ。それにしても、随分と変わったようだ」
「はい。それも全て晴明様のおかげです」
「そうか。では、お別れだ。少しの間だったがお主と相見えて話せて良かったぞ。それではな」
「我こそ命を救ってもらっただけでなく、ここまでしていただき有難う御座いました」
その会話が終わるのと同時に晴明様は消え、我の意識も薄れていった。
投稿が遅くなりすいません!!
今後、主人公の一人称は 我 になります。