墓穴
次の日、朝食を取り終えたあとお爺様に来るように言われた。執務室に向かうと、お爺様とラキシスがいた。
「お爺様、何用でしょう?」
「少し話があってのう。ラキシスから話を聞いてな」
ラキシスから聞いた。ラキシスはお爺様に従順だ。もしかしたら、昨日魔法を習っていたのがバレたのかもしれない。真顔なのがそれを物語っている。
「もしかして、昨日のことですか?」
「うむ、そうじゃ」
うん。これは謝るしかないな。
「ごめんなさい、お爺様。休みの日に魔法を習いに行ってしまって」
「ん?なんのことじゃ。まぁ、それは後で聞くとして、コレから重大なことを話す。ラルフよ、これは他言無用じゃぞ」
完全に墓穴を掘った。その事が頭で巡っていた。ラキシスも少し呆れていた。まぁ、ラキシスのフォローはしよう。
取り敢えず一旦落ち着くことにした。そして、冷静を取り戻した。昨日の1件のことは今は忘れて、これから話される重要事項を聞くことにした。
「ラルフよ、ラキシスから聞いたのだが、無詠唱且つ、即時発動で魔法が使えるというのは誠か?」
「は、はい。それがどうかしました?ラキシスには当然のものだと教わりましたが」
重大なことと聞いて、それが飛び出してくるとは予想打にせず内心驚いた。それはラキシスからは初歩の初歩だと教わっているため、特に何も無いはずなんだけどなぁ。
「殿下、実のところ、即時発動で魔法を使える魔導師は今の今まで誰もおりません。また、殿下はそれだけにとどまらず、無詠唱であるにも関わらず、術式よりも遥かに高い威力の魔法を使うことが出来ます。つまり、殿下は歴代最高峰の魔導師ということになるのです」
「……」
唖然としていた。そんなこと急に言われても、理解が追いつかない。
「ラキシス、つまり……」
「殿下は歴代最高峰の魔導師であらせられます」
「分かった。それで僕はどうすればいいの、お爺様?」
「ラルフは魔法陣で覚えておるのだろう。それならば、術式も同時に覚えて欲しいのじゃ。そして、これだけは守ってくれ。人前で使わないでくれ。良いな」
「は、はい、分かりました」
恐らく僕が魔法陣の方を使うことで外交問題の方でも影響が出るのだろう。まぁ、お爺様の言いつけだし従うんだけどね。取り敢えず、話が一段落着いたことだし、部屋に戻るか。
「どこへ行くのじゃ、ラルフ。まだ、話は終わっておらぬぞ」
「え?」
「昨日は魔法をラキシスから学んだそうじゃないか。これはどういうことかのう。ラキシスにも止めておいたのじゃがな」
流石にやり過ごすことは出来なかったか。大人しく怒られますか。
「ごめんなさい、お爺様。魔法の即時発動ができるようになったから、ラキシスに見せたくて、 無理してお願いしたんだ。だから、ラキシスは悪くないよ」
「そうか。それは仕方がないと言いたいところじゃが、流石に目覚めてからまだ体の調子も戻ってないじゃろう。ラルフには少し休養をとってもらうかのう。これから3ヶ月の間、魔法を学びに行くのは禁止じゃ。ラキシスも良いな」
「承知致しました」
「分かりました」
くっ、最悪魔導書さえあれば魔法は覚えれる。ラキシスに学びに行けないのは不本意だが仕方がない。
「それとな、もしラルフが魔法を学んでおった時は、ラキシスの宮廷魔導師の資格の剥奪じゃからのう。弟子の不出来は師が負うものじゃろう」
流石にラキシスに迷惑はかけれないな。後で魔導書返しておこう。それにしても、魔法がダメになったら、することないんだが。
「お爺様、お願いがございます。術式を覚えるのは許可してくれませんか?」
「そうじゃな。それならば、許す。いつかせんといかんからのう」
これで魔法が完全に無くなるということは無くなった。そして、ようやくこの話が一段落ついた所で解散となった。僕は帰る途中、ラキシスの部屋により、術式の書かれた魔導書を借り、部屋に戻った。
僕はそれからクロムが様子を見に来る時以外の全てを魔導書に費やした。そして、ちょうど読み終える頃に夕食の時間になった。
夕食の場につくと、兄様たちが体を案じてくれたりして、少し嬉しかった。
しかし、お爺様はすこし不機嫌だった。
「お父様、先程から御機嫌がよろしくないようですが、どうかなさいましたか?」
お爺様の様子には兄様たちも気づいていたようで、フリード兄様がお爺様に尋ねた。
「うむ、ラルフのことでな。ラルフ、お主今の今まで何をしておった。全て部屋番の者から聴いておるぞ。お主は儂がいいと言うまで魔法禁止じゃ!よいな!」
「は、はい」
流石に兄様たちもお爺様の怒気には驚いたようで、僕に色々聞いてくるが、魔導書を読んでいたとしか答えることが出来なかった。僕にもお爺様が魔導書を読んでいたことに怒ったのかどうか分からない状況だ。恐らく読んでいたことにだと思うが。
その後、朝食を終えると、風呂に入り、特にすることもなかったし、眠りについた。