第1の壁
次の朝、ラキシスの弟子への刑が下された。その時のお爺様、お兄様たちのあの怒りに満ちた表情は今でも忘れられない。
そしてそれが終わると、お爺様の一言で解散になった。
僕はそのままラキシスに連れられラキシスの部屋へと向かった。
ラキシスは向かっている間、口を固く閉じていた。自分の弟子が裁かれるのを見たからなのは明白だった。あんな弟子でもラキシスにとってはかけがえのないものだったのだと、今となって思う。それを奪った僕は憎たらしいだろうな。
「ごめん。ラキシス」
「何を謝ることがございましょうか?」
「僕は自分のことばかりで、ラキシスのこと考えてなかった」
「いえ、こうなったのも、全てわしの落ち度じゃ。殿下に非はありません」
「さあ、済んだ話はここまでにするかのう。殿下、ここには儂がかき集めた魔導書があるのじゃ。殿下にはそれを片っ端から覚えてもらいたい。と言いたいところじゃが、まずは簡単なものから順に覚えていきましょう。殿下にはまずは魔法に魔素を流す感覚を養って欲しいのじゃ」
「分かった。それじゃあ火の魔法がいいかな?1番使ってる魔法だし」
「いえ、ここは風にしましょう。火じゃと儂の部屋が燃えてしまうかもしれぬからのう」
「僕はそんなことしないよ」
「いえ、そういった意味ではなくての、魔法陣の場合は暴発することがあるからじゃ」
「そうなんだ。それなら風の理由も分かった」
それから、手始めに生活魔法という、日常生活にも使われている小風と呼ばれる魔法を使った。それは、そよ風程度の風を生み出す魔法だで、初歩の初歩だ。
陣は1つで使われている古代文字は10個ほどだ。起こす事象、祝詞、対価で構成されている。今回はこれだけですんだが、他のページの魔法陣を見ると、これに過程や、魔素の比率、陣同士を繋ぐ文字を含めて数百に及んでいた。
今はそんなことは置いておき、この小風に集中する。僕は頭の中に魔法陣をインプットし、それに魔素を流しこんだ。といっても術式の時とは違い、見えるはずも無い魔素を認識しそれを液体のように流し込むことは容易ではなかった。
僕はようやくの思いで魔法を発動させた。
結果は威力はそよ風ではなく、扇風機程のものだった。
「殿下、1ついいですかな?」
「なに?」
「殿下はどのようにして魔法を発動させたのじゃ?」
「それは魔素を魔法陣に流し込むようにしてだけど」
「ふむふむ。それでは殿下、次は儂の指示どおりにしてくだされ」
僕は何がいけなかったのか考えたが、一向にその要因がうかんでこなかった。僕は考えることをやめ、素直にラキシスの指示通りにすることにした。
「それでは魔法陣を思い浮かべてくだされ。次に魔素を思い浮かべて下され。その時、魔素は空気中に漂っているように思うのじゃ。そして、それが魔法陣全体へと降りかかるようにするのです」
僕はその言葉のとおりに進めた。すると、あれ程までに時間がかかっていたのに対し、今回はものの数秒で出来た。
「どうじゃ、殿下」
「うん。とてもしやすくなった」
「そうじゃろう。じゃが、これはまだみ完成じゃ。実践では遅れを取ってしまうからのう。
殿下、今日からは反復練習じゃ。ひたすらこれをするのじゃ」
「いつまで?」
「無意識に発動できるようになるまでじゃ。勿論、この魔法が終われば、次の難易度のものに行くがのう」
それから、ひたすら魔法を使った。途中何度かゲシュタルト崩壊を起こしたが、それでも何度もやり続けた。
その日は無意識に魔素を陣に反応させることが叶わなかった。最終的には今間数ミリ程度のラグで発動できるようになったのだが、実践では零コンマでの戦いなのでそれでは駄目らしい。
その夜は寝付けなかった。頭の中でどうすればいいのか考えをめぐらせていた。息するように使うにはどうするのか。その事で頭がいっぱいだった。そして、考えた末たどり着いたのが、魔法陣のイメージを止めることだ。頭の中で魔法陣と起きる事象を繋ぎ合わせるのだ。そうすることにより、起きる事象を想像し、魔素を使うだけで使用可能となる。例えば、小風の場合は手を振りそよ風を発生させることにする。その手を振る際に手から魔素を放出する。その際に。起きる事象と魔法陣は繋がっているため、手から放出した魔素が魔法陣と勝手に反応し、魔法を行使することができるようになるということだ。
つまり、僕は 事前に起きる事象と魔法陣を繋げておき、いざ使う時はイメージ通りに魔素を放出すればいいのだ。
その後、僕は考え事がなくなったせいか、直ぐに眠りについた。
一方執務室ではラキシスと国王サリウスが酒を交えていた。
「それでラルフはどうなのじゃ?」
「はい。素晴らしいの一点につきます。まだ、子供にも関わらず、その内に秘めている魔素の量は人の数倍はお持ちです。いずれ私も抜かれるでしょう」
「そうかそうか。儂も今後が期待だのう。で、近頃はどんなことをしているのじゃ?」
「最近は魔法陣に魔素を通す作業に入っています」
「やはり、そうか。あのスキルがある以上そうなるのは妥当だな。それで進捗は?」
「はい。正直驚きにつきます。私は無意識にできるまでという比喩表現を使ったのですが、殿下は本当に無意識にできるようになろうとなさっています。今日で既にコンマ数秒にまで抑えています」
「ふむふむ。ラルフにはいつも驚かされるな。いやはや、これほどとは思いもせんかったのう」
その後も酒の場は続いた。