4.森の妖精達の国
アイステーシス王国騎士団と魔術師団の合同救援部隊は、白竜騎士団の飛竜達が引く荷台に乗り込んでフェー・ボク王国へと飛んだ。
北へ向けて飛行していくにつれて、心なしか少し肌寒くなっていくのを感じる。
そんな空の旅は、数時間に一度の地上での休憩を挟みながら、一日と半日程度の時間を掛けて続いた。
ようやくフェー・ボク王国領内に入った頃、私は先程まで感じていたはずの肌寒さが薄れているのに気が付いた。
それを疑問に思いながら、フェー・ボクの王都ルーエンに到着したとの報せを受けて、続々と騎士さんや魔術師さん達が荷台から降りていく。
私もグラースさんや彼らに続いて降りていき、殿下の元へ集まった。
王都ルーエンは王国の南部にあり、書庫で調べた通りの草木が豊かな場所だった。
私達が降り立ったのは、白竜騎士団が利用する飛竜の飛行場だったらしい。
ここからはシャールさんの指示通りに、私達が持ち込んだ物資の積まれた荷台を彼が待機させていた馬に繋いで、お城へと運んでいくのだそうだ。
すると、シャールさんが一台の箱馬車を手で指し示しながら振り向いた。
「クヴァール王子とフラム殿は、城までこちらの馬車にご乗車下さい」
「念の為、護衛を同乗させても構わぬか?」
「ええ、勿論ですとも。自分は馬で先導致します」
そうしてシャールさんは自分の馬に跨がり、殿下は一緒に馬車に乗る護衛役にティフォン団長を選んだ。
先に馬車に乗り込んだ殿下の隣には団長さんが座り、私の隣にはグラースさんが並ぶ。
他の人達は引き続き荷台に乗り込む部隊と、歩いてお城まで向かう部隊とに分かれて進むらしい。シャルマンさんやヴァーグさん達と改めて合流するのは、もう少し後になりそうだ。
走り出した馬車から見える景色は、アイステーシス王国とはまた異なる雰囲気だ。
自然を愛するエルフ達が暮らす国という事もあって、大きな木の上に立つ家や、最早木と一体化したような家が立ち並んでいる。
途中で見えた市場らしき場所には、様々な種類の野菜や果物が売られているようだった。到着したのが夕方という事もあり、夕食の買い出しに来た人々で賑わっている。
フェー・ボク王国はその土地柄から農作物が豊富に実り、そこで生活する人々の食生活も、それらを中心とした健康的なメニューが多いのだという。
それだけでなく、優れた身体能力によって狩猟を得意とするエルフ達は、森で狩った新鮮な獲物をハーブ類で見事に調理する事でも知られているらしい。
そして私達人間よりも寿命の長い彼らであるからこそ、薬草学に関する知識も豊富なのだとか。
出来る事なら、私も少しでもその智慧を吸収したいものだけれど……そんな余裕があるのかは、今の所分からない。
何故なら、私達はこの国で猛威を振るう古代種の討伐にやって来たのだから。
私の個人的な探究心よりも、そちらを最優先で解決させなければならないものね。
順調に馬車は走り続け、私達は遂にクロシェット王女の待つお城へと到着した。
馬車から降りて見上げたその外観に、私は思わず目を見開いた。
ここに着いた頃には日がほとんど沈みかけており、オレンジ色の空と夜の闇色がグラデーションを織り成している。
そんな景色をバックにしたお城は、石造りの古城のあちらこちらから伸びる蔦や木の枝が飛び出していた。
どうやらお城の中心部に巨大な樹が生えているようで、そこから伸び続けた枝が葉を茂らせて、小窓から飛び出しているらしい。
そこにはコロコロとした丸い木の実がいくつも生っていて、それが赤や黄色、更にはオレンジ色をした宝石のような輝きを放っていた。
アイステーシスのお城も白い壁と青い屋根が美しい立派なお城だったけれど、このお城は暗い空と木の実の光が幻想的な風景を生み出していて……。
まるで、絵本の中の妖精達の住むお城のような……言葉では言い表せない不思議な情景が、私達の目の前に繰り広げられていた。
「凄く、綺麗……」
無意識の内に、そんな感想が漏れていた。
綺麗だなんて、ありふれた言葉でしか表現出来ないのがもどかしい。
でも、本当にとても綺麗なのだから仕方が無い。
私の他にも、騎士さんや魔術師さん達が息を飲んでいるのが分かった。
こんな夢のようなお城に住んでいるお姫様が、私達の助けを待っているのよね……。
エルフの王女、クロシェット様……どんな人なんだろう。