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3.風の御子との再会

 よく晴れた秋空の下、遂にその日がやって来た。


 五日間の準備期間を経て、私達アイステーシス王国騎士団と魔術師団は、エルフの王女──クロシェット様からの救援要請を受けてフェー・ボク王国へと出発する。

 今回の遠征に同行するのは、私宛ての手紙を届けに来た冒険者のヴァーグさん。

 そして……前以て殿下に声を掛けられていたらしい、あの人だった。


「なあ、あんた。あそこで氷の騎士に睨み付けられている黒髪の男は誰なんだ……?」


 集合場所である宿舎前にやって来たのは、いつもの黒いローブに身を包んだサージュさんだ。

 彼は遠征に持って行くポーションの数を改めて確認していた私に、そっと小声で声を掛けてきた。

 サージュさんが控え目に指を指した先に居たのは、殿下と何かを話しているヴァーグさんと、彼に冷たい目を向けているグラースさん。

 未だにグラースさんはヴァーグさんに気を許しておらず、常に警戒しているようだった。


「あの方は、今回の遠征に参加する冒険者のヴァーグさんですよ。この国で一番の冒険者だそうですが……」

「冒険者……つまり、僕と同じ外部の協力者という訳だな」

「そうなりますね」


 サージュさんは普段、薬草園で育てた薬草を騎士団に納品して下さっている。

 それだけでなく、彼は魔法の扱いに関しても一流レベルで、その腕をこれまで同行した遠征で何度も発揮してきた。

 私や魔術師団が作るポーション等の材料から、戦力面でもサポートをしているサージュさん。

 彼は国の組織の所属ではないけれど、私達にとって欠かせない存在になっている。

 これまでは騎士団や魔術師団以外の人の遠征への参加は彼以外に無かったけれど、今回はヴァーグさんも一緒にフェー・ボク王国に行く事になった。

 つまり、この遠征には外部の協力者が二人同行する事になるのよね。



 ……そういえば、フェー・ボク王国まで行く手段なのだけれど。

 ここからフェー・ボク王国へは北へ進む必要がある。

 エルフ達の住む森の国は豊かな緑が広がる南部と、厳しい雪原地帯のある北部に大きく別れているらしい。

 王都は南部側にあると本に書かれていたから、私達がこれから向かうのもそちら側のはず。

 けれども馬車での移動にはかなりの時間を掛けねばならず、それまでの間に古代種からの被害が更に拡大してしまう恐れがある。

 なので、馬車よりも速い確実な移動手段……というのが、過去にも遠征に向かう際に使用された。


「……見えてきましたね」


 私が空を見上げて呟くと、サージュさんも同じ様に顔を上げた。

 荷台を引く何頭もの白竜。

 それを操る鎧姿の人々。

 そう、彼らこそ──風の御子シャールさんが率いる、フェー・ボク王国白竜騎士団の姿であった。





 白竜騎士団の機動力によって、私達は遠征に必要な物資を乗せて出発の最終段階に入った。

 騎士さん達がせっせと荷台に物資を詰め込んでいく最中、私も少しでも手伝いが出来ればと、荷馬車に向かおうとした時の事。


「……フラム殿、少しお時間を頂けますでしょうか」


 そう言って私の前に姿を現したのは、銀髪を靡かせた見目麗しいエルフの騎士──風の御子のシャールさんだった。


「……何のご用件でしょうか」


 私は彼に警戒心を抱きながら、言葉を返した。

 シャールさんはとても優秀な騎士ではあるのだけれど、その才能が彼のプライドを激しく増長させている。

 自分よりも能力の劣る他人を見下し、過去には一国の王子で、更には大地の御子でもあるヴォルカン王子にまで暴言を吐いていた始末だ。

 そして勿論、その矛先は攻撃魔法の心得が無かった私にも向いていた。

 白竜騎士団が私達の送迎をしてくれるのは殿下から知らされていたから、遅かれ早かれこうして彼と顔を合わせる事になるのは分かっていたけれど……。

 また彼に何か文句を言われるのではないかと身構えていると、シャールさんは予想外の行動に出た。


「……自分は、貴女に謝らなくてはなりません」

「え……?」


 すると突然、彼は心の底から後悔を滲ませた表情で、私の前に膝を付いて頭を下げてきた。

 戸惑う私に構わず、シャールさんは言う。


「先日のスフィーダ火山での一件では、自分は情けなくも憎き魔女めに操られ、貴女方に剣を向け……それ以前にも、貴女に心無い言動を重ねておりました。フラム殿、貴女にそれらの罪の全てを許してくれとは言いません。自分は……あまりにも愚かな事をしてしまった事を、貴女に直接謝罪したい一心で……!」

「いや、あの……ひ、ひとまず顔を上げて下さい!」


 こうして男の人に頭を下げられるのは、もう何度目だろうか……!

 この異様な光景に気付いた騎士さんや魔術師さん、それに白竜騎士団の人達の視線や騒めきが心に来る。こういう事が頻繁にあるのは、ちょっと勘弁してもらいたい……。


「……貴女が、そう仰るのであれば」


 どうにか私の頼みを受け入れてくれたシャールさんは、静かに顔を上げて立ち上がった。

 すると、騒ぎに気付いた殿下やグラースさん達も集まって来た。


「何か騒がしいようだが……トラブルでもあったのか?」

「白竜騎士団団長、ミスター・シャール……レディ・フラムに何のご用で?」


 やはりグラースさんも未だに彼への警戒心が残っているらしく、ヴァーグさんに向けるものと同等……もしかしたらそれ以上に鋭い目を向けている。

 これ以上騒ぎを大きくしてしまうと今後の予定に遅れが出てしまうと思い、私はシャールさんを庇うように彼らの間に入った。


「ええと……と、特にトラブルのような事は起きていませんよ! ええ、ただ普通に久々にお会いしたので、同じ御子の一人としてご挨拶をしていただけです! そうですよね、シャールさん?」

「え……ええ。そのようなもの……ですね」

「……貴女がそう仰るのでしたら、それで良いのですが」


 私がそう説明すれば、グラースさんは少し釈然としない様子ではあったものの、殿下と一緒に荷物の詰め込み作業の指揮に戻っていった。

 その様子を見届けたところで、シャールさんが小声でこう言ったのだ。


「やはり……自分は貴女には敵わないようです。だからこそ姫様は、自分よりも優秀なフラム殿にご助力をお願いしたのでしょう」

「シャールさんより、優秀な……?」


 振り返って見た彼の表情は、悔しさや諦めの入り混じった顔をしていて……。

 けれども、それを掻き消そうとするかのように微笑を浮かべて言う。


「クロシェット王女より、今回の救援要請に関する詳しいご説明があるかと存じます。それではまた、フェー・ボク王都に到着次第お会い致しましょう」


 そう言い残して、白竜騎士団の騎士達が集まっている方へと歩き出したシャールさん。

 私は彼の言葉がどこか胸に引っ掛かり、モヤモヤとした気持ちを抱いたまま出発の時を迎えるのだった。

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