ペッパー君を斜め45度から叩いてみた
その存在は俺の前にいた。
「おはようございます」
「おはようゴミムシ」
「私の名前はペッパーです」
「それは悪かったトイレット」
「ペッパーです、それはペーパーです」
「………」
我が家に届いた高さ140cmほどの機械。
名はペッパー。
新たな家族だ。
開始早々生意気に反論してくる。
なんで我が家にペッパー君がいるかと言うと。
事の発端はクリスマスプレゼントのお願いをサンタさんにした時の事だ。
俺の妹(小学生1年生)が。
「ペッパー君が欲しい!」
なんて言ったのが原因だ。
なにせ小学生1年生だ、俺の両親も可愛くて仕方ないとみえる。
「そうかあ! 良い子にしてたら貰えるかもな!」
なんて父親が機嫌良くうなづいていた、おおかたどっかのキャラクター人形だと思っていたのだろう。
次の週末に父はト◯ザラスに行って聞いた。
『ペッパー君って言う人形売ってますか?』
確かにソ◯トバンクに売ってると思わないよな。
俺はその時、親父を隣で見ていた。
店員のお姉さんが憐れむ視線送っている事に気付いたのは俺だけだろう。
(あぁ、この人クリスマスプレゼントどうするんだろう)
という同情の声が漏れ出ていた。
親父……。
俺は知らないからな。
我が父を見捨てた瞬間だった、ちなみに俺にはプレゼントなど無い。
もう中ニだしな。
クリスマスどうするつもりだろうと、半ば期待して待っていたのだが。
その結果がこれだ。
「お名前を教えて下さい」
まさかの御購入である。
………。
………………。
二度言おう、御購入である。
頭おかしいんじゃねーの!?
俺は親父に問い詰めた、問い詰めた結果。
「36回払いだ」
ものすごく真面目な顔で、クソみたいな発言をいただきました。
この瞬間レンタルという線が消え去った。
「お前も、ペッパー君触って良いぞ」
なんか知らんが許可を貰えた。
いや、いらないし。
そんなわけで我が家にペッパー君がいるのだ。
そして俺が何故ペッパー君の目の前に突っ立っているかと言うと。
「退いてくれないか孫◯義」
「それは私の生みの親です」
俺の部屋の前にペッパー君がいるのだ。
父曰く、隣の妹の部屋まで運ぼうとしたのだが途中でギックリ腰になってしまい俺の部屋の前で力尽きたらしい。
なにそれ、超迷惑なんですけど。
部屋入れないんですけど。
張本人である親父に俺はすかさず命令した。
「ねえ、ペッパー君邪魔なんだけど」
「ああ?……あ………あああ」
腰が痛すぎで『あ』しか発声出来ないクソ雑魚ナメクジと化していた。
リビングの床に死体みたいにうつ伏せで微動だにしない。
「ペッパー君動かして良い?」
「あ?……ああ」
いいよーって感じの返事を貰えた。
許可も貰えたので早速動かすことにする。
「お名前を教えて下さい」
部屋の前に戻ってきた。
うーん、どうしよう。
取り敢えずチョップしてみるか。
「お、お名前を教えて下さい」
お? 一瞬バグった?
なんか面白いな、もうちょっとチョップしてみるか。
「お、お、お、お、お、お、お、お名前を教えて下さい」
なにこいつ、チョップするたびににリセットするのか。
へえ、角度とか変えたらどうなるのかな。
俺は昭和の必殺技『斜め45度』を繰り出した。
どれくらい叩いたのだろう、多分一時間くらい叩きまくっていたら。
「お」
遂に一言だけになった。
「あー!! 私のペッパー君いじめちゃダメ!」
隣の妹が起きて、俺がペッパー君をいじめていると勘違いしたのか庇い出した。
「ペッパー君お兄ちゃんにいじめられたの?」
「お」
「ごめんねペッパー君」
「お」
「ほらお兄ちゃん! 謝って!」
「お」
俺に向かってプンプンと怒る妹。
妹よ、気付いてないと思うがペッパー君今『お』しか言えなくなってるぞ。
「ごめんなペッパー君」
「お」
「ダメだって! ねーペッパー君もそう思うよね」
「お」
「ほら! お兄ちゃんのセイイが足りないって!」
「お」
いや待て、あいつ『お』しか言ってねえだろ。
なんで一言で会話成立してんだよ。
「もうゆるさない! お父さん呼ぶ!」
妹はドタドタと勢いよく階段を駆け下りていった。
「………」
「………」
「おい孫◯義」
「お」
完全に壊れました。
数分後。
「お兄ちゃーん! お父さんうごかなーい!」
妹の声が聞こえた。
うん、だってあいつギックリ腰だもん。
「お兄ちゃん手伝ってー!」
妹を手伝いに下に降りることになりました。
「ああ、ああ、ああ」
下に降りると妹が親父の背中に乗ってぴょんぴょん跳ねてた。
リズミカルに親父の悲痛な叫びが重なっていた。
親父も壊れました。
「おい、妹、お父さんが可哀想だから背中から降りてやれ」
「えーー」
「駄々をこねるな、ほらお父さんを見てごらん」
「あ」
「ほらな?」
「………わかった」
渋々と妹は親父の背中から降り去った。
「あああーああ」
親父からありがとうと言われた。
相変わらず『あ』しか言えてないな。
「お兄ちゃんがお父さんをはこぶ!」
妹が訳わからんこと言い始めた。
「おい、お父さんは今ギックリ腰なんだ。休ませてあげよう」
「ああ!」
ウンウンと親父も頷いている。
「だめ! お父さん聞いて! お兄ちゃんペッパー君壊しちゃったの!」
「あ!?」
妹の発言に、親父は俺に向かってマジで!? って顔をした。
「いや、壊してはないよ」
「うそ! だってペッパー君『お』しか言えなくなってるもん!」
妹、お前分かってたのか。
じゃあさっきのペッパー君との会話何だったんだよ。
「あ、ああ?」
親父はえ? マジ? みたいな顔をしていた、だから。
「まあ、確かに」
曖昧に肯定しといた。
「あ、あ、ああ」
親父は信じられないのか、俺におんぶを要求してきた。
今更ながらなんで親父の言う事理解出来るんだろうな、これが家族ってやつか。
「お父さん信じて!」
階段を登る途中でも妹は自分のアピールをやめない、親父も若干疲れている。
そうこうしてる間に俺の部屋までついた。
「あ」
「お」
親父とペッパー君の初めての会話である。
「あ、ああ」
「お」
「あ?」
「お」
「あ、あ、あ?」
「お」
2度目の会話である、最早解読不能。
そして親父はゆっくりと俺の方へ振り向いた、うん腰が痛いんだね分かる。
「ああ」
「うん、なんとなく言いたいこと分かる」
「ああ、ああ」
「そうだね、百何十万パーだね」
「ああ!!」
「うん、あと35回残ってるね」
「………」
親父は静かに背を向けた。
「あぁ……」
「お」
「あぁ、あぁ」
「お」
なんか勝手にペッパー君と親父の会話が始まった。
てか、俺部屋にまだ入れてないんだけど。
「親父、これ返品とか出来ないの?」
「あ!」
それだ! ってな感じの反応。
「じゃあ電話するわ」
「え? お兄ちゃんペッパー君捨てるの!」
妹が反論してくる。
「そうだよ」
「だめ! ペッパー君かわいそう!」
「でも『お』しか言えないじゃん」
「……たしかに」
妹の反論終了。
そんな訳で、俺たちの家に来たペッパー君は1日で返却と相成りました。
帰り際、ペッパー君を積んでいる時ちょうど御袋が帰って来て。
「え?」
と、一言発言してペッパー君はドナドナされて行きました。
後日妹にはリ◯ちゃん人形が届き妹は喜びました。