第六話 コミュニケーションを図ってみようー5
「あ、あの、レンさん」
「何かな?」
「あれも魔術、なんでしょうか?」
「正直、よくわからないんだ。ただーー」
これは、あくまで仮説だったんだけど。
「魔力というものがあって、魔術があるならね、もしかして思念を飛ばすこともできるんじゃないかなー。会話できるんじゃないかなーと」
実際は、会話できるようになるとしても、もっと時間がかかるものだと。
「きっと、すごく頭がいいスライムさんなんだよ」
とか言ってみたのだが、クモさんも負けてはいない様子。
器用に8本の足と糸を使い、十得ナイフをヌンチャクのように振り回して満足したのか、
落ち着いてギミックの一つ一つを確認している。
ナイフやコルク抜きは何となく分かったようだが、一際関心を示していたものがあったみたいで。
それはーーハサミ。
コレナニ?
みたいな顔をされてしまったので、断りを入れてから受けとる。
クモさんが見えるように、近くの葉にハサミを入れてみた。
チョキ、チョキ、チョキ。
それ程まで切れ味がいいとは言えないものの、クモさんにとっては興味のもてるものであったご様子。
使い方を理解したようなので返却すると、クモさんは新しいおもちゃを得た子供のように葉っぱにハサミで切れ込みを入れていた。
分かる。
俺も、子供の頃ゲーム買ってもらった時はあんなだったからよく分かる。
新しいものとかも試さずにはいられないしね。
さて、と。
「満足されたようで何よりです。また気に入っていただけるようなものがあれば、お持ちしますね。では」
行くよ、とネアちゃんに合図を送る。
二人の前を通り過ぎるかどうか、というところだった。
「マ、、、ツ。マツ、テ」
声がする。
ついさっき聞いたばかりだから分かるけど、スライムさんだ。
「ツレ、、、テ。ツレテ、ク。ダメ?」
スライムさんが、おねだりする子供のように体を傾けていた。
クモさんも、たんぽぽが揺れるかのように小首を傾げている。
こんなに可愛い様子を見せられてたまったもんじゃない。
俺だけの意見が通るなら、まず間違いなく連れて行く。
けど、けど、ここは異世界だ。
村にスライムさんやクモさんを連れて行ったらどうなるのか分かったもんじゃない。
確認はとらねば......だからこそ問わねば!
「ネアちゃん、ダメ......かな?」
いい年した野郎のお願い、である。
傍から見たら、正直気持ち悪いとも思う。
「だーーダメに決まっています!」
ダメなのか。
全力でしょげてやる。
いや、まずはお願いだ。
「お願いします!」
「魔物を村に入れるなんて、聞いたこともないです!!」
「それは、害があるからだろ。大丈夫、責任は持つから」
「ナ、カ。ヨ、クスルー」
「うっ......可愛い」
ナイスフォローだよ、スライムさんにクモさん!
ネアちゃんがたじろいでる。
「一先ず、村の入口までですよ。後は、お父さんやお母さんにも聞いてみますから」
「おっしゃぁぁぁぁぁあ!」
二人は嬉しさを表現するように、飛んだり跳ねたりを繰り返している。
そこに混ざり、俺も童心に帰ったかのように二人を抱えあげたり、メリーゴーランドのようにブンブンと振り回してみたりするのであった。
※電子機器、十得ナイフ等は適切な用途を心掛けて下さい。
断じて、食べたりヌンチャクのように振り回したりしてはいけません。