第四話 コミュニケーションを図ってみようー3
「左側がスライム、右側がビックスパイダーの縄張りだと言われています。大きさから多分、それぞれの群れの主かと」
ネアちゃん、解説ありがとう。
初っ端からこれかーい!
何あの無言の睨み合い。
ドラマとかで見る、恋人と愛人のせめぎ合いみたいな。
あるいは、長年のライバルかのよう。
マジおっかねぇ。
「刃物か何か、ある?」
「小型のナイフでしたら」
ないよりはマシか、と手で合図。
ジャスチャーも通じるようで何よりだ。
「ネアちゃんは後ろに下がっててね。万が一のことがあったら、すぐに走って村に戻ること」
取り合えず、ナイフ片手に腰を落とす。
ピクリとも反応しないスライムに比べると、クモからは視線のようなものを感じていた。
そりゃまぁ、スライムにはそもそも目がないもんな。
それに、うっすらと粘り着くこの視線には覚えがある。
見ず知らずの組織に踏み入れた時の、奇異の眼差し。
敵意というよりは、警戒なのかもしれない。
未知である第三者が現れたら、そりゃ警戒するわ。
かといえ、こちらとしても見ず知らずの状態から向かうっていうのも危険過ぎる。
どうするべきか。
先手を打って仕掛けるか、元来た道を引き返すか。
最優先にしたいのは、ネアちゃんが無事、村までたどり着くこと。
できれば、通してもらいたいだけなんだけど......昆虫とか無機物とかってあれだし。
食物連鎖で、殺されて食われても文句言わない系だし。
殺し殺されで筋合いとか、通用しないだろうしな。
あー、考えるのも面倒だ。
いつもどうりでいこう。
誠意、誠意。
誠意が一番。
「スライムさん、クモさん、こんばんわ。今日はいい月夜ですね」
明るく元気にハキハキと、フランクに話しかけてみる。
ネアちゃんの驚く声が聞こえるがあえて無視だ。
「こんな夜分に、二匹ーーいや、二人の邪魔をしていることを詫びるよ。俺は、彼女とここを通って村に行きたいだけなんだ。敵意はない」
声をかけて、静かにナイフを置く。
二人から静かな反応を見て取れた。
僅かだが、こちらに体を向けている。
「お詫びとして、俺の持つものをいくつか受け取っていただきたい」
財布から硬貨を取り出してみた。
100円玉、四枚。
10円玉、三枚。
5円玉、三枚。
1円玉、二枚。
占めて、847円。
これは、小銭あるしいけるかも、と115円ずつ投げてみる。
良い御縁ってことで。
いっそのこと、二礼二拍一礼でもするか。
願掛けだけにね、なんて。
でもーーあれ、なんかちょっと嬉しそうっぽい?
これはいけるんじゃねーーと、近づいてみる。
「レンさん、危なくないですか?」
「シー」
静かに、と口で合図しながら寄ってみる。
食われるなら、とっくに腹の中だろうし。
威嚇しないように注意しながら、スライムさんの前にはアイフォンを。
クモさんの前には十得ナイフをご献上。
持ってても使えそうにないし、アイフォンなんか当然電波なかったし。
幸いなのは、二人がそれぞれに興味を示してくれたことだ。
スライムさんは、アイフォンに恐る恐る触れて、消えたり光ったりする反応に一喜一憂しているように思う。
方や、クモさんは前足で十得ナイフを掲げては感極まるかのような様子だ。
微笑ましいじゃあないか。
と思った途端、スライムさんがアイフォン飲み込んじゃったわけであるが。
※モンスターをナンパする主人公。
アイフォンを食べられる。