第十八話 モンスターイーター討伐①
個体差はあるだろうがーーとは思ったけれど、一応バハスさんとかゴブリンの体臭が出るようにと、服の一部を拝借。
ジャケットの上から羽織ることにした。
内側のポケットからはルゥの分裂体が顔を覗かせている。
本体を連れて回るのでは、両手が塞がり、難儀ということを理解したのか、ルゥがとってくれた配慮だ。
非常にありがたい。
ルゥやクロエの仲間達の情報を元に、ワームの位置は大体把握できていた。
というよりも、二人のネットワークが本当にヤバイ。
GPS並の精度を誇るはずだ。
いや、きっと。
たぶん。
詳しくは知らん。
分かることは、位置情報が洗練されるという類のはず。
ルゥに関しては、離れた場所でも意思疎通が可能。
実際、分裂体も本体に繋がっているらしいし、仲間との交信までできる。
クロエに関しては、微弱に張り巡らされた糸を用いて会話しているとのことだ。
多分、糸電話の要領、みたいなもんなんだろう。
その甲斐もあって、タイムラグはほぼなく会話も可能。
人の耳だとかはあると思うが、会話に支障さえなければそれだけでも充分すぎる。
おかげで、ゴブリン達の位置や罠の設置が同時進行で行われているわけだしね。
「ルゥ、罠の設置、皆の配置は?」
「カンリョウ。イツデモー」
「クロエ、糸は十分かい?」
「ハイ、コトタリマス」
二人の交信によって、ほぼ状況が網羅できてしまう辺りが逆に怖い。
この世界で、情報のトップに立つのはこの二種だと思う。
して、目前には黒い山。
それがワーム。
モンスターイーター。
グネグネ唸って、気持ち悪い。
昔の漫画で書かれてたウンコかよ。
スゲーでかいウンコかよって。
小さな山並のウンコかよ。
ウンコウンコ考えてんのは誰だよウンコかよ!
「ぶっ」
不覚だ。
こんな下らないことで、しかも自分で考えててウケるとか痛すぎる。
気持ちを切り替えよう。
バカなことを考えるくらいの余裕はあるらしい。
こちらの情報網も万全だ。
武器なんかも。
さて、こんなでかい、食本能で生きてるような奴いたらそりゃー、なるわな。
映画みたいなモンスターパニック起こるわ。
「この規模なら、天災ってのも頷ける」
一歩。
二歩。
その歩みに反応したのかもしれないし、臭いとか熱とかそういうので反応したのかもしれない。
全く、どういう理屈で動いてんだよ。
とは思うだけで、自然と怖いわけじゃあない。
他の部位に比べると槍のように先が細くなっていく部位。
恐らく、それが頭部。
タコのように開き、獲物に食いつくためだろうか。
うんうん、いくつかの牙も見せて威嚇。
吼える。
犬の遠吠えのようだ。
なんだか、色々なことが馬鹿馬鹿しくなってくる。
こんなミミズ一匹に、振り回されているのだ。
ゴブリン達が喰われている。
挙句、山があらされ、村にも二次的な被害があるかもしれない。
なんて不快なんだろうか。
弱い犬ほど良く吼えるとはこのことかもしれない。
大人になってからはこれっぽっちも自慢にならないけど、鬼ごっこは逃げる方も、捕まえる方も得意だったんだ。
「こっちに来いよデカミミズ。鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」
両手を鳴らすと同時に、アーラの仲間が予めはっておいてくれた糸に引っ張られる。
後方への急加速が開始され、体が横の重力に襲われたが、一定の距離を保たなければならない。
そうでなければ、荷馬車を引く馬の人参のような餌にはなりえない。
「予定通り森に入る。短期決戦だ。皆よろしく頼む」