表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/61

第十四話 作戦会議

「さて、一番悩み所のスライムを叩き潰したところでだ、レン」


向こうの言葉を当てはめるなら、悩みの種、であっているとは思う。


間違いないよなこれ。


「ゴブリンの方は、お前からしてみればどうなんだ?」


「まだ、どうとも言えないですね。ルゥとクロエに規模や装備の調査に行ってもらったばかりです」


「魔物を調査に使ったのか?」


「えぇ。頭もいいですし、体力も俺よりは確実にあります。向こうの言葉では、木を隠すなら森の中、というものがあるんですが、山中や木の上という状況では、土地勘のある二人に任せた方がいいと思いまして」


別名、地の利ともいう。


何事に置いてもそうだが、天と地、人の考え方は大切だ。


「確かに。ところで、ゴブリンのことについてはどこまで知ってる?」


「あぁ、俺もそこを詳しく聞きたかったんですよね」


「奴等は狩猟し、略奪する魔族の一種だ。初級冒険者の最初のクエストで、単体の討伐対象にもなっているが……」


「なって、いるが?」


「まだ見ぬものへの好奇心。新たな場所と新たな出会い。そんな夢や希望ばっかりの奴等がどうなったかは、言わせるな」


殺され、食われ、あるいは陵辱され、といったところか。


「ある国では、ゴブリンはこの世から一匹残らず掃討すべしなんて物騒なとこもあってな。対ゴブリン戦に特化したゴブリン殺しという部隊もあるが、実際のところ、魔王国や獣国との睨み合い続きでそれどころじゃあない」


「魔王なんてのも、いるんですね」


「魔族もいるからな。その王様だ。人間の王と似たようなもんさ……さて、話を戻そう。耳伝で聞いただけだが、今回のゴブリンの軍はなにやらきな臭い。というかだな、変な動きをしているんだ」


「具体的には?」


「俺の推測だが、いいか?」


「お願いします」


「今回の件、ゴブリンの連中にしちゃあ雑すぎる。アイツらは魔族とは言え、言葉を理解し、会話すらできる。そんな奴らが、あんな雑な動きをするはずがないんだ」


「なるほど。知性があるんですか」


「あぁ。予想としてだが、恐らくマンイーターが発生したんだ。人型ほどの大きさを持つワームの一種で雑食。ソイツはゴブリンだけじゃなく、人もエルフも食っちまう、食うしか頭にない化物でな」


「ワームがでかくなると、なんか凄いんですね」


パニック映画とかでそういうのあったよな、確か。


深海に生息するワームが、大きくなるとサメとかでも

丸呑みにするとか何とか。


その陸上版みたいなもんだろうか。


「相手がゴブリンで、少人数ならいくらでもなる。俺だけでも、十匹くらいなら何とでもなる」


「一応、魔術で川から水を引いて、入り難いようにするだとか……木で囲いのようなものを作るっていうのは考えていたんですよね」


「どっちに転ぶか、だな」


話始めた最中、唐突にドアが開かれた。


その先にいるのは二人。


「「デンレイ!」」


「はっや。ルゥにクロエ、もう戻ってきたんだ。おかえり」


「タダイ、ナサイ? ナカマ、アウダケ」


仲間に会うだけで大丈夫だったんだ。


もしかして、スライムやクモの一族さんは、独自にネットワークでも構築しているのだろうか?


ヤベー、スライム一族とクモ一族ヤベー。


「じゃあ、報告を下さい」


「ルゥ、クロエ、ナカマ、トモダチ。イッショ、ウゴイタ」


異種族間での協力とかパナイ。


「そりゃすごいね」


「ゴブリン、ナカマノアシ、アワセテ、ゴヒキクライ、デス」


「クロエの脚は八本だから、約四十匹くらいってところかな」


「アト、ジメン、ニ、クボミヤ、アナアッタデス」


「クロエ、ゴブリンノ、シタイ、アッタ?」


「ミドリノチ、イッパイ」


「どれくらい?」


「ジメン、ミドリ二ナルクライ」


「地面の窪みは、どれくらいだった?」


不意にテーブルが揺れた。


俺ではないので、ゲインさん以外に考えられない。


「あぁ、答えてあげて」


「ソト、デル」


ルゥが外に出て、体で円を描いてくれた。


ざっと見、直径二メートルくらい。


「おいおいおいおい、小型の飛竜も丸のみしちまう奴かよ……」


「落ち着いて、ゲイルさん。どういうことなのか説明してください」


「人型喰い程度なら何とかしてみせるって思っていたが……ソイツはもう魔物食いだ。モンスターイーターってな、手前より上級の魔物すらも食っちまう、化物の中の化物だよ」


「グラン村へ来た場合の影響は?」


「家も畑も含めて全滅だろうな……王国は何をやってやがる!」


分からないわけではない。


人は誰だって、失いたくないものがある。


それは俺だって同じだ。


同じだからこそ、やることは決まった。


「ルゥもクロエも、山が荒れちゃったら困るもんな」


「コマルー」


「イヤ、デス」


だよね。


そうだよね。


分かってる。


「討伐対象を変更。ゴブリンからワーム、モンスターイーターへ」


「っ、レン、お前がいくら魔術を潰せるって言っても、相手は王国の兵士が集まって居てもどうにかできるかって奴だ! それくらい幅があるなら、村の端から端までの長さまでありそうな化物だぞ……命を無駄にするつもりなのか!?」


端から端までってことは、ざっと一キロメートルってところか。


「知りませんね。そんなこと」


そう、そんなことはどうだっていい。


俺の大事なものを壊し、殺そうとするなら、やるべきことは簡単だ。


シンプルで実にいい。


だが、モンスターイーターという名前が長い。


ワームで十分だ。


討伐に使えそうなものをひたすらにかき集めることに専念する。


ゲイルさんの推測が正しければ、長さは村の端から端。


推定で見積もって、直径二メートル。


知能は極めて低く、食欲旺盛。雑食。


こちらで使えそうなものは、何か。


鉄製の武器。


良くても剣がいいところ。


魔術もある。


適性はあるが、初歩のものであれば誰でも使える。


ゴブリンもか?


そこは確認しておこう。


主食として、小麦。


小麦は細かいなら粉塵爆発が使えたはずだ。


ーーいや、この文明域では細かな粒子になっているとは想定できない。


密閉した空間をどう作り上げることができるか、というかこともある。


恐らく、量も足りないしな。


着火は何とかなるにしても、この線で考えるのは愚策といってもいい。


いや、小麦以外ならどうだ。


「山で、採掘したりという話は?」


「いや、このあたりでは聞いたことがない……」


ということは、だ。


鉱山はない。


粉塵爆発は消去。


化物退治の優秀な武器が、即座に消去とは中々の無茶振り。


この世界の神様は、相当、根性がひん曲がっていて、性格の悪い奴だと心のメモ帳に刻んでおく。


山があるなら谷がある。


谷に引き釣り出して、そこに巨大な岩をぶつける?


無理だ。


現状で岩を動かすエネルギーをどこから持ってくる。


魔術でできるのか?


や、待て。


皮膚が柔らかいなら、衝撃にだってある程度は耐えられる筈だ。


高層からの鉄柱なら、突き刺すこともできそうなもんだが……


頭を回せ。


考えるのを諦めるな。


ワーム。


所詮、ミミズのようなものだ。


焼けば死ぬ。


斬れば死ぬ。


モグラの餌。


魚の餌。


それがデカイだけ。


なら、斬れば死ぬ?


直径二メートル。


剣、ではサイズがだめだ。


足りない。


移動力は?


瞬発力は?


攻撃方法は?


「レンサマ、ダイジョウブ?」


「コワイ、シテル」


不安にさせてしまったか。


「あぁ、大丈夫。でも、すごく大切なことを考え――」


待て、この二人は一昨日まで声も出すことすらできなかった。


それが出来ている。


できるほどの知性がある。


可能性として、賭けてみる価値はあるかもしれない。


「クロエ、糸に魔力を流すことは?」


「デキ、マス」


「ゲイルさん、斬っていいもの何かありませんか? 硬ければ硬いほどいい」


「それなら、このナイフはどうだ?」


「どうも。ちょっと、それを持っていてください。クロエ、糸をこれに巻きつけて魔力を流してくれ」


指示通りに動いてくれる。


やはり、賢い。


前の足を使って、少し見える程度の糸が絡み付いているのが見える。


「声を出す以上にいっぱい振るわせる感じで、糸に魔力を」


「デキ、マシタ」


「うん、そのままでいてくれ」


クロエの糸が絡んでいる足を、引っ張る。


手応え、というほどの感触はない。


ケーキに刺すフォークのように糸が入り込み、先端が地面に突き刺さっていた。


鉄で作られたナイフの刃が、はるかに硬度の劣るはずの糸に切断された。


同時に糸も切れてしまっているが……


いや、欲は出すまい。


「仮だけど、この技を斬糸と名づけよう」


「ザンシ。ワカリ、マシタ」


攻撃手段はできた。


だが、ワームというくらいであり、ここは異世界。


魔術が存在するからこそ、ワームが超再生するということもあるかもしれない。


「ゲイルさん、モンスターイーターの硬さと再生能力の程度は?」


「あ、あぁ。下級のワームは、柔らかい。モンスターイーターも、同じくらいだ。再生能力って言葉はよく分からんが、回復力のことか?」


「えぇ、似たようなものですかね」


「斬った部分から、また回復するって話は聞いたことがあるが」


「真っ二つにしても生きていた、という話などは?」


「そんな化物がいるんなら、人も魔獣も、獣人や魔族だってソイツの餌食になっている」


つまり、ない。


あったとしても、ヤモリ程度か?


ならば、処分はどうするか。


弱肉強食でいいだろう。


「ルゥ、ワームを食べても平気?」


「ヘイキー。ワームオイシイー」


「クロエは?」


「ダイジョウブ、デス。ワーム、オイシイ」


十分だ。


「ルゥ、クロエ。仲間を通してゴブリンに連絡を。ワーム狩り手伝ってほしいって」


「待てレン、どうするつもりなんだ?」


「なんてことはありません。ちょっと陸釣りでもしようかと思います」


ナンパって意味もあったりするがーーまぁ、こっちからしてみたら異世界用語ってことにしといて下さい。

※粉塵爆発が使えない(恐らく、粒子の細かさや量、密閉が足りない……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ