第十二話 予想外は突然に
分かったことは、自分が魔術を使えないこと。
魔術を構成する文字を破壊することで、魔術は発動させられなくできること。
ってくらいなもの。
何だかんだ言っても、自分の身を守るくらいはできそうなんじゃないか。
あとは、ゴブリンの軍、というくらいだから規模や進行方向、知性、能力などは把握しておくに超したことはない。
最悪の展開も予想しておこう。
例えばーーだ。
俺のように召還された者、あるいは転生したものが軍を率いているケース。
この場合、無暗に戦闘するよりは避難という手段をとるべきかもしれない。
未知の道具による攻撃。
あるいは、銃のような兵器を持ち出す危険性もある。
銃+魔術で、例えば電磁銃<レールガン>とか作られてていた場合は、即避難だ。
まだ、小型のマシンガンなら可能性はあるかもしれない。
二つ目、これはゴブリンの武装が予想を上回った場合。
人、あるいは魔物、獣人より盗み、知識をえるという部族らしいが、その技術がこちらを上回った時は勿論、非難する。
命は一つしかない。
大事にしなければならない。
まぁ、俺のは跡付けでもいいくらいだが。
如何せん、情報が足りなさすぎる。
「ノアさん、ゴブリンの進行具合はどれくらいですか?」
「え、あっ、はい。北方の、3つほど奥の山を越えたところだと」
「種族的にみて、この村までの到着予想は?」
「日が14回昇ってから、でしょうか」
約二週間。
より具体的な情報が欲しい。
「ルゥ、クロエ」
「ハーイ」
「ナン、デスカ?」
声が2つ聞こえる。
おかしい、喋れたのはルゥだけだったのではなかろうか。
ってアーラ、何食べてるの?
水色っぽいソレはもしかして?
「クロエ、ルゥを食べてるのか?」
「ルゥ、イイ、イッタノ、デ」
ここは異世界だ。
確かに、俺の関与するところではないと思う。
けど、それでもだめなものはだめだ。
しっかりと、意思を伝えていなかった俺にも責任はあるのだが。
「クロエ、それにルゥもだ。よく聞いてくれ。俺は、友達同士で喧嘩したり、食べあったりして欲しくはない。ルゥもクロエも、どちらも俺の大事な友達なんだ」
「ゴメ、ナサイ。レンサマト、ハナス。ウラヤマシ、ダタ」
あぁ、そういうことだったのか。
「ゴメン、俺の配慮が足りなかった。けどね、そんなことをしてしまったら、他の魔物もルゥの体を食べたり、もしかしたら、クロエのことも狙ってくるかもしれない。折角できた友達を失ったら俺、悲しくて泣いちゃうよ」
本当に、そんなことを思ってしまったら涙が出そうだった。
情に脆い。
情けない。
「ワカリ、マシタ」
「キヲツケルー」
気をつけなければならないのは、こちらも同じ。
魔物の習性については、しっかりと学ばなければ。
勉強しなきゃ、だなぁ。
「うん、ありがとう。ところで、二人にはゴブリンの様子をみきて欲しいんだけど……頼めるかな?」
「デキルー」
「マカ、セダ、イ」
「じゃあ、夜に詳しく話をするよ。そうだ、ノアさんやネアちゃんーはいいか。さっきみた話は」
と振り向けば、あんぐりと口を開けているノアさんを心配するネアちゃんがいた。
すごく泣きそう。
これ、とにかく何とかしなければならない。
「救患だ、ドクターはいるか、この中にドクターはいるか!?」
思わず叫んでしまったが、いるはずもないか。
異世界だもんな。
「いや、冷静になれよ……病気って感じではなさそうだし、とりあえずベッドには運ぼ。皆、手を貸してくれる?」