第十話 魔術は使えませんでした
「改めまして、ネアの母、グランの村が魔術師の一人、ノアと申します。多少なりとも、この世界のことに関してはお分かりになったかと思いますが、私達の生きる世界では、魔力が存在します」
「えぇ、そして、魔力によって魔術が使えると」
「はい。我々は、戦いでも、生活の一部にも魔術を用いています。こちらの水晶球は、魔力に応じて光るとされています。火であれば赤、水は青、風は緑で、大地であれば茶」
「私は、お母さんと一緒で風の魔力を強く持っているみたいなんです」
「他には、魔術の中で唯一、回復の術を持つ光や、闇に特化した黒などもございます。実際に、ご覧頂ければ」
ノアさんが手をかざす。
確かに、水晶は光っていた。
緑色の光。
宝石で例えるなら、エメラルドグリーンのような輝き。
「私では、このように光ります。水晶の反応によって、その方の魔力量も測られるといわれておりますが、実際のところは分かりません。断言がされておりませんので……では、レン様、どうぞ」
「よろしくお願いします」
何が出るかな、と期待しながら一礼。
手をかざす。
農作業だろうか。
桑っぽいものを土に入れるようなサクッ、とか、ザッ、みたいな音が微かに聞こえる。
で、水晶球には何も起きない。
念じてみる。
出ろー、出ろー。
鳥が羽ばたくような音が聞こえる。
でも、何も起こらない。
もっと強くということだろうか?
目を閉じて、まるで自分に暗示をかけるように念じてみる。
……のだが、沈黙が続く。
くじ引きのような気分だ。
罰ゲームを受けるという、ある意味での当たりがでないように。
そんな思いしながら、おっかなびっくりで目を少しずつあけてみる。
反応はーーない。
それはもう。
全く。
これっぽっちも。
壊れてんじゃないのかって疑うくらいに、ない。
いや、さっき反応したばっかやん。
「何も……起きないですね」
「ネア、手をかざしみて」
ネアちゃんが手をかざすと、光った。
ちゃんと緑色に光った。
不良品でもないし、壊れてもいないらしい。
沈黙。
長い長い沈黙。
時が止まったか、凍ったぐらいの勢いで。
えぇっと、うわー、待て、魔術での戦いがあるって世界で、その魔術を使うのに必要な魔力の判断をする水晶が反応しないって、これもうあれですよね?
ステータスとか出たら『魔力:なし』ってことでいいですよね?
「レンサマ、ココ、イタ」
「あ、ルゥにクロエ」
まぁ、いいか。
ふぅ。
マスコットキャラを見たら、焦りも吹っ飛んだぜ。
俺には、心強いこの二人がいることだしね。
何とかなるなる。
ネルネルネール。
いやいや、やっぱ動揺してんじゃん俺。
「あの、ノアさん」
「はい!? 」
そんなに驚かなくても……
凹んじゃうぞー。
「試しに、ルゥとクロエにも試させてもらっていいですか?」
「え、えぇ。構いませんよ」
「じゃあ、ルゥからかな」
よっこいせ、とテーブルに二人を持ち上げる。
「ルゥ、食べちゃだめだよ。少しこれに触ってみて」
「ワカッター」
ルゥの体の一部が水晶に触れる。
光った。
透き通る水色に光っていた。
「あ、いいよ離して。じゃあ、次はクロエ」
コクコクと頷いてから、クロエの足一本が触れた。
光った。
確かに光った。
艶のある黒い光だった。
車でいうところの、メタリックブラックとかそんな感じ。
「これって、どういうことなんでしょうか?」
「スライムの、ルゥさんでしたか? ルゥさんが、水属性で、ビックスパイダーのクロエさんは、黒。稀とされる、暗黒属性です。レン様は、その……」
「あ、無理に言葉にしなくても大丈夫ですよ。何となく察しましたから」
「すみません。えっと、私も、文献でしか見聞きしたことはありませんが、その、本当に極めてまれに、魔力を持たない者が生まれると聞いたことがあります」
あ、一応いたんだ。
「その人達は、どうなったのでしょうか?」
「能無しとされて、皆……恐らく、レン様は」
つまり、そういうことらしい。
ルゥは、水属性の魔術を使えるスライムで、クロエは、暗黒属性を使えるクモの魔物。
で、俺はというと。
「能無し、かー」
これは、かなりシビアな生活を送るハメになりそうだ。
難易度ハードだと思って頑張ろう。
どこかの弾幕ゲームみたいに、ルナティックモードはないと信じている。
「んし、できないということが分かった以上、できることをするだけだ」
「レン様は、逞しいのですね」
「そう悲観する話でもないですよ。こう見えて、一応少しは剣が使えますし、何より、この二人が頼りになりますからね」
※単独無双ルートがここで消えました。