ばれた
体調不良で、更新が滞ってしまいました。 すみませんでした。
陛下たちが王都に帰ってすぐに、アラトさんから僕たちにもモンスターを狩って欲しいという連絡が来た。
アラトさんたちは、陛下たちがこの村にいる間も、ダンジョンに入ってモンスターを狩っていてくれたらしい。 でもその数が増えてきて、ダンジョンを探索してマップを広げるどころか、今まで探索した範囲でさえ、入り口から行ける距離が狭まってしまっているらしい。 つまり現状は発生しているモンスターの量が、アラトさんともう1組のパーティーで狩れるモンスターの量を上回っているということになる。
「すまない。 俺たちもあまり中に入れないから、帰りのために取っておく魔力の半分までを使って、いつもより多くのモンスターを狩っていたのだが、モンスターの量を抑えられない」
アラトさんがそう僕に言うと、もう1組のパーティーのリーダーらしい人も、
「すみません。 普段しているよりも多量のモンスターを狩って、実入りは良くて嬉しいのですけど、ちょっと私たちだけでは無理なようです」
と言ってきた。
「北の町にいる俺の知り合いパーティー3組に、この村に来るように依頼の手紙を書いて、組合経由で届けてもらった。
ここに来るのにも、支部長さんが組合の馬車に便乗させてくれる手配をしてくれた。
それが来れば、ま、取り敢えず今のところはどうにかなると思うのだが、すまないけどそれまでの間、領主様であるあんたたちに頼んで良いのかとも思うのだけど、手を貸してくれ」
「アラトさん、とりあえずモンスターを僕らも狩るのは良いのですけど、来てくれる冒険者たちの住む場所が問題ですね」
「俺たちが世話になっている所じゃ駄目なのか?」
「あの宿屋は元々はアトラクションの観光に来てくれる人のために作ったモノですから。 あと3組というと最低十数人来ますよね、そうすると冒険者だけで宿屋が満員になってしまって、宿屋の役をしなくなってしまいますよ。
それに、ほら、陛下の話でなるべく秘密にして欲しいということだったじゃないですか。 これからはアトラクション観光に来ている人の前で、大っぴらにダンジョンの話をするのも気が引けるじゃないですか」
「ああ、そうだったな。 そうか、住む場所までは考えてなかったな、あんたたちに相談する前に依頼などを進めたのは問題だったかな」
「いえ、そんなことないです。
冒険者の方たちが住む場所は、こちらで考えて、大急ぎで用意します」
その後、僕とアラトさんはダンジョンに入るスケジュールの打ち合わせをした。
そんなに難しい話ではないのだが、アラトさんには僕たちが杖を使ってモンスターを狩る姿を見せてしまっているが、吸収の魔石に関しては極秘技術になっているので、アラトさん以外の冒険者には見せたくなかったからだ。 アラトさんにも僕たちの杖の話は、他の冒険者には話さないように頼んでもある。
結局、単純に僕たちが午前中に入り、午後にアラトさんともう1組のパーティーにダンジョンに入ってもらうことになった。
さて、僕は最初ダンジョンに入ってモンスターを狩るのは、僕とアークの2人でやれば良いと考えたのだが、ちょっと考えを変えた。
吸収の杖を実際に使ったことがあるのは、僕は当然だが、他にはアークとリズとエリスの3人だ。 アークはこの前にも、ここのダンジョンでも火鼠狩りをしたが、元々は吸収の杖を一番最初に作った時に、4人で魔石を採りに行ったからだ。 他にはイレギュラーでエリスが強盗騒ぎの時に使ったくらいだ。
そんな訳で僕たち4人は実際の使用経験があるのだが、他の家臣というか主要メンバーは、持っているだけで実際の使用経験がないのだ。
使用経験がないというのは、実際に使用しなければならない時に、上手く使用できるか分からないということになる。 実際に使用してみる良い機会に、今回のモンスター狩りがなるのではないかと考えた。
とりあえず2班に分けた。
僕の方はエリス、ダイドール、リネ。 アークの方はリズ、ターラント、フラン。 ラーラとペーターさんはペーターさんの都合が良い時にどちらでも構わないから混ざってもらうことにした。
もう一つ、ちょっと変更したことがある。
この前、アラトさんと一緒に僕とアークが火鼠を狩った時には、何も考えずに普段使っているままの杖を使ったのだが、そのために普段吸収の杖に取り付けてあるレベル2の魔石に魔力を溜めてしまうことになった。 レベル2の魔力を溜める魔石は普段使用していないので、使い勝手が悪いのだ。
そこで、慢性的に不足気味の魔力を溜めた魔石を補充する意味でも、杖に付いている最初に魔力が溜まる魔石をレベル2の魔石から、レベル1の魔石に交換してダンジョンに潜ることにした。 ただし交換しておくのは、絶対の安全のために、3つ付けてある魔力を溜める魔石の最初の1つだけとして、後の2つはレベル2のままだ。 これは、ダンジョンで不意にもっと上のモンスターが出る可能性を考えてというよりは、普段の用心のためだ。
そして、1つ目の魔石に完全に溜まったら、新しい魔石に付け替えることにして、1人2個の魔石に魔力が溜まるまで狩ることとした。 レベル1の魔石でも火鼠ならだいたい4匹で溜まるので、1人当たり8匹狩ろうという訳だ。
僕たちは1日交代で午前中ダンジョンに入ったのだが、その成果を支部長さんに呆れられてしまった。
「いやはや全く、私はこの成果の種は最初から知っているのですけど、それでも呆れてしまいますね。
レベル1の火鼠とはいえ普通の冒険者は1日に多くて3匹が普通ですよ。 冒険者はレベル2ですから、レベル1の魔技師が安全を考えずに2匹ですから、ダンジョンから退却する時の安全を考えれば3匹は妥当なところです。 (うっ、昔、安全なんて全く考えずに火鼠を狩っていた僕の耳には痛い。 支部長さん、それを分かっていて、話しているなぁ)
アラトさんは冒険者といっても、レベル3に近いレベル2ですから、まあ珍しい例外ですね。
ところがあなたたちは、全員が1人当たり8匹を狩り、それを利用して魔力の魔石2個に魔力を充填してくるのですから、これは本当に絶対に秘密です。
この杖のことが広まったら、冒険者という仕事はなくなってしまいますよ」
まあ、分かってはいたことだけど、これは公には出来ない。 狩ったモンスターの魔石とその死体の買取と、充填した魔力の魔石の代金を合わせると、僕たちは一人当たり、その午前中1回のダンジョンでの時間で、普通の魔技師の10日分くらいの金銭的利益を得ることが出来たからだ。
僕はこの利益はそれぞれの物かなと思っていたのだが、ダイドールが
「この利益は公務中にその公務の結果というか、それに付随して得られた物ですから個々の利益ではなく、ブレイズ家のというか、領地の利益とするべきでしょう」
と発言し、全員がそれで良いと了承してしまった。
「だって、この2つの杖だって、私が買った訳ではなくて、渡された物だし。 それを使うからこそ得られた利益ですから。
それに、今現在いただいている給金だけだって、全然使い切れてないし、それ以上にこんなに楽にお金が得られたら、私なんて堕落しちゃいます」
フランがそう言うと、リネと、何故かラーラが凄い勢いで肯いていた。
という訳で、家臣には護身のために持たせている杖を実際に使用する練習は、予定通りの成果をあげ、全員が杖の使い方を完全に習得した。
ダイドール、フラン、リネ、そしてラーラとペーターさんは、モンスターを狩ること自体が初めての経験だったので、本当にとても良い経験になったようだ。
さて、ダンジョンでのモンスター狩りを自分たちでも行ってみて、わかったというか気が付いたこともある。
やっぱりもう片方の火の魔石の杖も、冒険者用に売り物になりそうだということ。 それから、ダンジョンにも出来れば水の魔道具を持って入りたいということだ。
これはモンスターを狩って、首を落とすのは火の魔石の杖で行って、ナイフで行うより全然楽なのだけど、それでも、魔石を取り出すにはナイフを使う。 だからどうしても、ナイフと手が汚れてしまうのだ。
僕の班にはリネが居たから、最初はリネに水を出してもらって、とても助かったので、アークの班には水の魔道具を持って行かせた。 それがやはりとても好評だった。
「でも残念だけど、リネの水の魔道具はこの村というか、ブレイズ家の領地内でしか使えないから、水の魔道具の方は商品にはできないな」
アークにそう指摘されて、僕はとても残念に思った。 冒険者は絶対に欲しがるだろうに、と。
僕たちがダンジョンに入るようになって、急激にモンスターの数が減ったので、中断していたダンジョンの地図作りが再開した。
アラトさんは僕たちの杖を使った狩りを知っているので、その結果に驚かなかったのだが、もう一方のパーティーのリーダーさんは、驚くというよりは不思議がっていた。
「これだけの実力があるから、ここの領主様たちは平民から貴族になり、ここの領主様になっているのさ」
アラトさんか分かるような分からないような事を、もう1人のリーダーさんに言って誤魔化そうとしてくれたら、何だかよく分からないけど、妙に納得してくれて、僕はなんだかとても気恥ずかしい思いをした。
僕たちのダンジョンでの狩りは、そんなに何度も行う事なく終わってしまった。
アラトさんが呼んだ冒険者のパーティーが、この村に到着すれば、当然終わりだからだ。
アラトさんに声を掛けられたパーティーは、本当に即座にこの村に向かって来てくれたらしい。 どうやらアラトさんが前に言っていたように、やはり新しい未知のダンジョンを探索するというのは、冒険者にとっては憧れのシチュエーションなんだろうと思う。
しかし、新たな冒険者を迎えるために、アークとターラントだけでなく、他の土の魔技師さんも動員して、大急ぎで冒険者のための宿舎を新たに建てた。 建てた建物は、その形などを検討する時間もなかったので、新人魔技師の宿舎風の建物と同じモノとした。
正直なところ、冒険者から宿舎に関しては苦情も出て、後で建て直さないとダメかなとアークやターラントと話していたのだが、アラトさんが言っていたように、誰も苦情を言って来なかった。
やはり、冒険者にとっては未知のダンジョンに入るという事以外は、取るに足らない些末な事なのだろう。
新たな冒険者が村にやって来て、僕たちの日常が今までと同じになって、やれやれとちょっと気が抜けたと思ったら、王都のウィークから大急ぎの書簡が来た。
どうやらこの村のダンジョンの存在が、王都にまでバレてしまったようだ。
バレた経緯は、僕たちが心配していたアトラクションを観に来た人からではなく、組合経由というか、冒険者経由だった。
組合にはモンスターを狩った魔石を買い取ってもらう都合から、一番最初から知らせてあったし、気心知れている支部長さんだから、きちんと配慮してくれて、村の支部での買取を上手く東の組合の買い取りの中に紛れさせて、魔石の買い取りを村で行っている事を隠してくれていた。 村で採れた魔石は、なるべく移動させない方が目立ちもしないので、それは優先的に村で使うのに回された。 そうすると東の組合から村に持ってくる魔石の量に影響が出るので、当然東の組合長には連絡を入れている。
そこまでは秘密が保たれていたのだが、今回大急ぎで新たな冒険者を村に呼ぶのに、組合経由でアラトさんの手紙を知り合いの冒険者に届けてもらい、またその冒険者の移動にも組合に手を貸して貰うこととなってしまった。 そうなると、組合の方でも東の組合長と支部長だけが知っている状態で留めることが出来ず、他の北・南・西の組合長にも情報を流さざる得なくなってしまった。
また、北のダンジョンに通っている冒険者仲間の中でも、割と有名であったアラトさんの姿が見えなくなったのは、ちょっと話題に出たがすぐ忘れられたが、それからアラトさんのパーティー全員ともう1パーティーがいなくなった時には、仲間内ではもう完全に何かあるのではという注目を集めていたようだ。 そこに組合経由で他のパーティーが、また大急ぎで呼ばれる事となったので、それを隠し通せる訳はなく、北の冒険者仲間の中で、何があったのかの詮索が始まってしまった。
そうして、僕たちの村にダンジョンが発生したことが冒険者の間にバレてしまった。
まあ、新たに冒険者を呼ばねばならない事態となった時に、新たに呼べばもう隠せないだろうなと覚悟していたのだから、驚きはしなかったが、バレた事で面倒が増えなければ良いけどと考えた。
ウィークの書簡には、それとは別に、公爵にこの村にダンジョンが発生したことが知られた十分に考えられる経緯が書かれていた。
西の組合の組合長は公爵との関係が濃密というか、癒着している関係にあるので、組合の中で東の組合だけの問題にしておけなくなった時点で、公爵にそのまま情報が流れたのだろう、と。
この事態を受けて、陛下は大々的に僕たちの村に新たなダンジョンが発生した事を布告した。 また、既に陛下自身がそのダンジョンを視察していることも併せて告げられていた。
国中の騒ぎになった。 考えてみれば、騒ぎになってもおかしくないのかもしれない。 何しろほぼ200年ぶりの新たなダンジョンなのだ。




