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ダンジョンとリネの魔道具

 ダンジョンの視察は、流石に陛下はダンジョンの入り口が見えるところまでだ。

 「ダンジョンの中に入ってみたい」

と陛下は希望したが、そこはウィークが

 「陛下、何を言っているのですか、ダメに決まっているでしょ。 そんな道理が、まさか理解できないなんて言わないですよね」

と、あっさり封じ込めてしまった。

 陛下もそのウィークの調子では無理だと諦めて、「中に入ってみたい」となどと口にしなかったかのように話を進められた。


 「ここから見るに、東の町のダンジョンの入り口より大きい気がするのだが、近づいてみてはどうだ?」

 陛下の質問にアラトさんが答えた。

 「はい、その通りです。 入り口の大きさは東の町のダンジョンよりも、もう既に大きくなっています。

  子爵や私が一番最初に見た時には、まだここまで大きくはなかったのですが、短期間にここまで大きくなりました。 このダンジョンはまだ形が決まっていないと言うか、成長している真っ最中のダンジョンなのかも知れません」


 「形が決まっていないとか、成長中なんていうダンジョンは存在するのか?」

 陛下が、以前僕がアラトさんに発したのと同じ疑問を発した。

 「はい、つい最近、もしかしたら北のダンジョンも以前より内部が広くというか、迷路が伸びたのではないかという疑いが持ち上がりました。

  今まで最奥端の行き止まりだと思っていた所よりも、もう少し道が続いているのが確認されたからです。

  でも、北のダンジョンの完全に正確な内部の地図が作られたのは、子爵の経営する魔道具屋で冒険者用のライトの魔道具が発売されてからで、それ以前は確実な地図はなかったのです。 ですから、感じとしては道が伸びている気がするけど、それが絶対とまでは言えなかったのです。

  そこで今まではあまり顧みられることがなかった、過去のダンジョンの記録が調べられたのですが、その記録の中にこのダンジョンの様に、ダンジョンが成長していくという記載があるとのことでした。

  今回、子爵よりこのダンジョンの探索を任されることになって、私もその記録を確認してみたのですが、確かに北のダンジョンもここと同じように、最初は入り口からしてもっと小さかったのが、どんどん大きく成長していったという記録がありました」


 陛下はアラトさんの言葉を、興味深く黙って聞いていた。

 「それではこの村のダンジョンも北の町のダンジョンと同じくらい大きくなるのか?」

 「いえ、そこまではどうでしょうか。

  最終的にどこまで大きくなるのかは、ダンジョンの成長という物がどういうことなのかが良く分かりませんから、なんとも判断のしようがありません。

  今現在言えるのは、入り口の大きさは東の町のダンジョンより大きいけど、北の町のダンジョンほどではない、ということだけです」

 アラトさんは、分からないことは分からないと、はっきりと述べ、確実なことしか言わない。 その姿勢は陛下の信頼を勝ち取ったように僕には見えた。


 「アラトさん、入り口の大きさは分かったけど、内部はどうなの?」

 僕もちょっと口を挟んだ。 ここのところ探索の報告がちょっと停滞していたのだ。

 陛下も僕と同じように中の様子が気になるようだった。

 「うーん、それが今、ちょっと困っているんだ。

  今まで子爵に報告したとおり、今俺たちはほぼ東の町のダンジョンの大きさまでのこのダンジョンの地図を作成した。 でもまだこのダンジョンには先がある。

  だが、今の人員だと、これ以上先に進みたくとも、出てくるモンスター、今のところは火鼠ばかりだけど、それの処理で俺たち全員の魔力が足りなくなってしまうんだ。 ダンジョンからの脱出のためのギリギリの魔力を残すだけまで、全員が頑張った結果が今の地図なんだ」

 僕は一瞬、「それなら魔力吸収の杖を貸しますので、その先を調べてください」と言いそうになって、慌てて口を閉ざした。 魔力吸収の魔石は、極秘の技術なのだ。 魔力吸収の杖を知られる訳にはいかない。


 「今のそなたたちの人員では、今現在作った地図の範囲までしか、このダンジョンの中の探索は出来ないということだな」

 「はい、最初この探索の依頼を子爵から受けた時には、今の陣容だけでもオーバースペックではないかと思ったのですが、俺の想像していた以上に、このダンジョンは成長したということです」

 「つまり、人員を増やさないと、これ以上のダンジョン探索は出来ないということだな」

 「はい、そのとおりです」


 同じ事を言い方を変えて確認すると、何故か陛下とウィークは難しい顔をして沈黙してしまった。

 アラトさんのパーティーと、アラトさんが頼んで来てもらったもう1組のパーティーの2組だけで人員が足らなくてダンジョンの探索が進まないのなら、単純にもっと多くの冒険者に来て貰えば良いのだ。 何も難しく考える必要はないのではないかと僕は思った。 それにそれだけ多くの冒険者がダンジョンに入るようになるということは、より多くの魔石と魔物の死骸が、この村で手に入るということで、それは村の発展をもたらすはずだから、例え増えた冒険者の分の食料を他から仕入れて来ることになっても、その手間を考えてもこの村にとってはプラスが大きいのではないだろうか。 僕は頭の中でそんな事を考えていた。


 「簡単に冒険者の数を増やして、もっとダンジョンの探索を進めるように、とは、ちょっと言えないですねぇ」

 ウィークのその言葉に僕は驚いた。 僕には冒険者を増やすメリットの方が、デメリットを遥かに凌駕すると、今頭の中で考えていたのだ。 食料問題以外の大きな問題点が僕には考えつかない。

 「ウィーク、なんで簡単には言えないんだ?

  僕には食料問題以外に大きな問題点が考えつかないのだが。 増やすことによってこの村に、影響をもう少し考えればもっと大きくこの国に、メリットをもたらす事しか僕には考えられないのだけど」


 ウィークと陛下は2人してちょっと困った顔をした。

 そしてウィークは仕方ないという感じで、僕に説明してくれた。

 「カンプ様は、今回陛下たちが何故お忍びでこの村にいらっしゃったかが分かりますか?」

 「それは警備上の問題と、公式に長く王都を離れることに問題があるからだと思っていたのだが、違うのかな」

 「確かに、その2点も問題ではあります。 でも1番の問題点は、陛下が視察に訪れることによって、この村にダンジョンが発見された事を多くの人に知られる事を避けたかったからです。

  カンプ様たちは、おおよそ200年ぶりにダンジョンが発見されたという事実を軽く考え過ぎです」

 確かにダンジョンが発見されることがとても珍しい事態である事、そしてダンジョンはある意味、富と力の元となるということは理解しているから、僕たちはとてもラッキーだったとは思っている。 でも秘密にすることではない気がするのだが。


 そんな僕の思いを、陛下は僕の顔から読み取ったのであろうか。 僕に対して話し始めた。

 「子爵は公爵の事を知っているか?」

 「はい、と言えば良いのか、いいえ、と言えば良いのか迷います。

  公爵が陛下の叔父上であることは知っています」

 「そう、公爵は我が叔父で、西の町以西を支配する我が国1番の有力貴族でもある。

  そして言い辛いが、私の1番の政敵でもあるのだ」

 僕にはなんで陛下がそんな話を僕に対して始めたのかが理解できなかった。 僕は単なる庶民だったし、国政以前に王都にさえなるべく関わりを持たないようにしようと思ってきたのだ。 陛下のお忍びを偽装するための館を頂いたりしたので、完全に関わりがないとは言えなくなってしまっているけど。

 「もし、この村にダンジョンが発見された事を公爵が知ったなら、必ずや何らかの難癖を付けてくるであろう。

  私はそうなる前に、どの様な難癖を付けられても大丈夫なように、あらゆる手を打っておけるようにと、まずはここに下見に来たという訳だ」

 えーと、僕には理解の及ばない、王国の政治的問題が絡んでくるのだ、ということだけは理解しました。


 「あのすみません。 私なんかが口を挟むことではないと分かっていますが、一つよろしいでしょうか?」

 今話している内容は、自分は完全に蚊帳の外の内容だと、気配を消していたアラトさんが、意を決するように声を掛けてきた。

 陛下も、まさかアラトさんが口を挟むとは考えていなかったようで、ちょっと驚いた顔をして、アラトさんに言った。

 「ああ、今はダンジョン絡みの話だからな、そなたも何でも口にして構わないぞ、今は公式な場ではないからな」

 「はい、ありがとうございます。

  あの冒険者をみだりに増やすことはできない、という話をされていたのだと思いますが、そういう訳にはいかないのではないかと思います。

  ダンジョンの探索が進まないのは、今以上先まで私たちが進めないからなのですが、それは言い換えれば、このダンジョンで発生するモンスターを、私たちだけでは狩りきれなくなってきているということなのです。

  今のまま、私たちだけの力では、もうすぐダンジョンからモンスターが溢れてしまいます。 この村の子爵たちはモンスターを狩る力がありますが、それに掛り切りになる訳にもいかないでしょうし、遅かれ早かれモンスターを狩る人手が現状では足らなくなると思います。

  そうなると魔力を持たない一般の村人たちは、モンスターに怯えて暮らさねばならなくなってしまいます。 それは絶対に避けねばならない事態でしょう。 

  つまり、もうすぐにでも冒険者の数を増やさねばならない事態になっているということで、私はそれを子爵たちこの村の主だった者と組合に報さねばならないと考えていたところなのです。 秘密にしておくことは無理ではないかと考えます」


 陛下とウィークは難しい顔をして黙り込んでしまった。

 アラトさんの話した内容はあまりに正論過ぎて、なんとも反論のしようがなかったのだ。

 聞いていた僕だけでなく、この視察にお供してきたアーク、ターラント、そして支部長さんも、これはどうしようもないと思ったようだった。



 肝心なダンジョンの視察は、陛下にとっては散々な結果となってしまった。 陛下は時々これからどうしたものかという、考え込む様子を見せたが、王妃様、王女様の前では村の見学を楽しんで見せていた。


 王女様はやはりアトラクションをとても楽しんでいた。 自分の持っている魔道具と同じ仕掛けなのだが、それでもそれを専用に見せるために作られた施設で見るのは、普段とは違う興奮があるようだった。


 王妃様が驚き、そして一番気に入ったのは、御前様の家だった。

 御前様の家の庭に村の小さな子供たちが集まり遊んでいる。 それを御前様と家のバルコニーで眺めていると、子供を連れてきた村の女が、

 「それでは御前様、よろしくお願いします」

と子供の監督を御前様に任せてしまって、自分たちはおしゃべりをしながら御前様の家の細々とした物事を済ましてくるのだ。 そしてそれらの仕事が終わると、御前様に何でもない日常の事を話したり、夫の愚痴や相談をしているのだ。

 「私は前伯爵の家がとても気に入ったけど、それ以上に前伯爵があんなに庶民の女と親しくし、色々な事を真剣に聞いてあげていることに驚きました。

  前伯爵があんな人だったとは、王宮にいては決して知ることはなかったでしょう」

 王妃様がとても熱心に前伯爵の事を陛下に語るので、その翌日には陛下も前伯爵邸を訪ねることとなった。

 御前様は名誉にも思ったようだが、あまりに想定外で驚いたようだ。


 陛下は、ダンジョンのことでちょっと気持ちが落ち込んでいたようだが、植樹された木一本一本に備え付けられているリネの水の魔道具を見て、とても関心を寄せられた。

 そしてリネと熱心に魔道具の話をされていた。

 リネは自分が陛下と顔を突き合わすように親しく魔道具に関しての意見を交換し合うなんて想像もしていなかったので、最初はしどろもどろだったが、自分の作った水の魔道具に関することだし、その魔道具をとても誇りに思っていたからだろうか、慣れてくるに連れて陛下に対しても堂々と自分の魔道具の利点を説明していた。

 まあその利点は、カンプ魔道具店全ての魔道具に共通する、魔力の魔石を繰り返して使えることと、魔石をその魔法効果を生み出す部分と魔力を貯める部分とが分かれているので、レベル1の魔石でも十分な効果を生み出せ、魔力の魔石一個で割と長く使えることにある訳だが。

 それでも陛下は、今のこの村の発展の基礎はリネの水の魔石にあることが良く理解できたようだ。 リネの作るカンプ魔道具店流の水の魔道具の、砂漠を緑化するための経済効率は、それ以外の水の魔道具と比べれば、遥かに勝る事を陛下も直視しない訳にはいかないようだ。

 陛下は水の魔導士たちのほとんど全てを掌握する立場にあるので、このことも陛下は深く考えてみなければならないと決心したようだ。


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