表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/167

誕生

すみません。 朝のいつもの投稿時刻に間に合いませんでした。

年内はこれが最後の投稿になります。

 僕たちの子供はそれから予定通りに、何事もなく生まれた。

 最初にラーラが女の子を産み、次にリズが男の子を産んだ。 御前様はアークの家の跡取りが生まれたと大喜びだった。

 そして最後にエリスが産んだ。 可愛い女の子だった。


 ラーラは2度目のお産だったので、それ程慌てることもなく産んだのだが、リズの時にはちょっと焦った。

 産気づいてから生まれるまで、ちょっと時間がかかり、ラーラがそんなに長く時間が掛からなかったから、アークと僕はとても心配した。


 「お前たち、落ち着きなさい。

  お産に関しては男は完全に部外者で何も出来ないのだから、慌てたりオロオロしていても仕方ない。

  女たちに任せておくしかないのだ。

  それに見てみろ。 私の妻もラーラの母親も全く慌てていないではないか。 つまりは、まだこのくらいのことは良くあることで、慌てる程のことではないのだ」

 僕たちの狼狽ぶりを見て、おじさんはそう言っているが、リズの苦しんでいる声が聞こえれば、アークは当然だが僕だってとても平静ではいられない。

 子供が生まれて、泣き声が聞こえた時は、とてもほっとした。

 僕はアークの肩を叩くと、アークも僕の肩を叩いて、2人で喜び合ったのだが、何だかとても疲れた。

その姿を見ていたリネとフランが笑っていた。


 リズのお産が少し長引いたので、エリスはちょっと自分に関して心配したというか怖がっていたのだけど、それを母親であるおばさんに漏らすと「何、つまらないこと言っているの」と一言で終わってしまった。

 正直に言えば、エリスよりも僕の方がとても心配してドキドキしていたのだが、幸いなことにエリスのお産は軽く、ラーラほどではないがリズほどの時間も掛からずに終わった。 僕は最初とてもほっとして、その後とても嬉しくなり、最後に子供のためにしっかりしなければと思った。 まだ父親になったという自覚はほとんど出来てはいないのだけどね。


 

 子供が生まれて、僕たちの小さな領主館は何かとてんやわんやしていたのだが、4年目ともなると、村の日々の出来事はもう僕たちが直接手を出さなくても回るようになって来ていた。

 雑貨屋の業務はエリスがいなくてももうサラさんが全部できるようになっているし、学校のこともフランとリネが進めてくれている。 おじさんが、おばさんと共に赤ん坊の世話を生活の中心にしてしまったのだが、植林業務はターラントが指揮している。

 ルルドの実の収穫時期をすぐに迎えてしまい、これは少なくとも僕とアークは出ていかなければと思ったのだが、それもサラさんとフランとリネでしっかりと業務をこなしてくれた。

 「昨年と全く同じことしか出来ていませんから、何か問題が出たら相談しなければと思っていたのですが、今年は昨年と同じで大丈夫でした。

  ただ収穫量が昨年より増えましたので、少し生のままで販売する量も増やしました。 その辺りは百貨店の店長さんと打ち合わせて数量は決めました。

  ルルドの実が昨年より多く収穫出来たことは、アトラクションに来た人がこの村のことを話すので、流石に隠しきれないので、増やさないと余計に怪しく思われると考えたこともあります。 幸いと言って良いのか分かりませんが、ルルドの実の値段を買い叩かれたり、極端に多量に仕入れようとする業者も今年はいませんでした」

 サラさんからの報告を受けたけど、エリスも僕も何ら言うべきことはなかった。


 で、結局は僕たちが生まれた子供中心の生活をしていて、上手く回らないというか問題として残ったのは、定期的に王都に行くことだけだった。

 僕らが王都に行かない為、陛下たちのお忍びでの外出が困るだけなのだが、ウィークに言わせると

 「お忍びで出掛けることが毎月出来ると思い込んでしまっていたことが間違いなのですから、しばらくは陛下たちにも我慢してもらうのは良いことです」

とのことだから、まあ、とりあえず少しの間は良いのかな。 陛下たちも事情は分かっているのだから、問題視されることはないし。


 ということで僕とアークが子供が生まれてからしていることというと、ゲストハウスに来る貴族に会うことと、贈られてきたお祝いに対する礼状を送ることだけだった。

 それらも主にダイドールが当たってくれていて、最後の部分に顔を出したり、自筆でなければ非礼に当たる部分を書いたりするだけなのだけど。



 「カンプ様、ちょっとよろしいでしょうか」

 忙しい時期を終えて、そろそろ王都に行くことも考えないとならないかと思っていた時、ターラントに少し改まった感じで声を掛けられた。

 「私は魔技師になったと言っても、学校を出てすぐに貴族の家の下働きになってしまったので経験がないのですが、カンプ様はモンスター狩りもしておられたとか」

 「うん、学校を出た頃は魔石を買う資金もなくて、仕方ないから自分で魔石を得る必要があったんだ。

  あの頃は、まだ魔道具用の線はなかったから、魔道具を作るためにミスリルを買うのが僕にとってはとっても大変だったんだよ。 狩ったモンスターも売れるということを知らなくて、とてももったいないことをしていたんだけどね」

 何となく懐かしい思いで、ターラントに語ってしまった。


 「えーと、それでですね、すみませんがカンプ様、私と一緒にちょっと来ていただけないでしょうか。

  植林をしている者から、見かけない生物を見たという報告が私のところにありまして、見に行ったのですが、どうもその見かけない生物というのが私の目には火鼠に思えるのです」

 「えっ、火鼠って、火鼠はダンジョンで生まれる生物だよ。 植林をしている辺りにというか、この村の近くにダンジョンがあるなんて話は聞いたことがないのだけど」

 「はい、私もそういった話は聞いたことがありません。 ですから自分の目が信じられないというか。

  それで、火鼠を良く知っていらっしゃるカンプ様に確認していただきたいと考えました」


 僕はターラントと2人で、その生物が現れたという辺りに出かけてみた。 出掛けるときに僕たちは一応魔力吸収の杖がきちんと作動するかを確かめてから向かった。

 行ってみると、確かに僕も以前は何度も狩って見慣れている火鼠だった。


 「本当に火鼠だな」

 「やはりそうですか。 私も間違いないと思ったのですけど、ダンジョンがこの村近くにあるという話は全く聞いたことがなかったので」

 うん、確かにターラントが確認することを求めて僕に態々声を掛けた気持ちが分かる。

 「とにかく、火鼠がいるということはこの近くにダンジョンがあるということだと思うから、その場所を探そう。 ターラント、安全のために魔力吸収の杖は作動状態であることをもう一度確認してから、中を詳しく調べよう」

 「はい、カンプ様、大丈夫です。 私の杖もしっかり作動しています」


 それからすぐに僕たち2人はダンジョンの入り口を見つけた。 ダンジョンの入り口といっても、もう少し大きくなった木に囲まれた辺りに、人が屈んで入れるかどうかといった穴が地面に開いていて、地下へと向かっているだけだ。

 北の町のダンジョンは当然のことだが、僕が一番見慣れている東の町のダンジョンの入り口と比べてもずっと小さく、1/3くらいの大きさでしかない。


 「うーん、砂で隠されていたダンジョンが、周りに木が植えられて砂の移動がなくなったので、表に現れたのかな」

 「なるほど、確かにそういう可能性は考えられますね」

 「とりあえず、火鼠とはいえ、魔力を持たない者が攻撃されると危険だから、大急ぎでこの辺り一帯は一般の村人は立ち入り禁止にしよう」

 「はい、そうですね。 まずは村人の安全を考えないといけないですね」


 僕とターラントは家に戻り、大急ぎで村長を呼んだ。

 「村長さん、植林した林の中にダンジョンが見つかり、火鼠が確認されました。 大したモノではないですけど、それでも魔力を持たない者が近づくと危険です。 村人全体にあの辺りには近付かないように伝えてください」

 村長さんは大急ぎで村全体に僕の命令を伝え、元々植林や木の世話に当たっている人以外はあまり林に行かなかったので、今のところ何の事故も起こすことなく済んでいる。


 「ところで、村長さん、この村近くには元からダンジョンがあったのですか?」

 「いえ、カンプ様、私は全く今までダンジョンの存在なんて知りませんでした。 そういった言い伝えみたいなことも、私は聞いたことがありません」

 やはり村長さんも全く知らないと言う。

 村長さんが知らないのだから、僕たちが今までダンジョンの存在なんて知らなかったのは当然だな。

 「カンプ様、やはり砂に埋もれて忘れ去られていたのでしょう。 それが砂が動かなくなって、また表に出て来たとしか思えません」

 ターラントは完全に僕の最初に考えた理屈が真実だと信じ込んだようだ。


 「ダンジョンというのは僕らの領地経営の計画の中には全く考慮されていなかった項目だけど、早急に考えないといけないな。

  まず第一に、このまま火鼠をずっと野放しにして、数が増えるままにしておくことは出来ないだろ。 安全上の問題があるし、それにこれって、この領地内で魔石を自給自足出来るってことになるだろ。 

  この村で使っている魔石を全てという訳にいかなくても、少しでもここで魔石が手に入るなら、村も潤うよな」

 アークが早く火鼠狩をしなければ、という気負いを見せている。

 「それに火鼠を狩りますと、魔石だけでなく、その死骸も手に入ります。 村の農業に一番欠けていた肥料となりますから、作物の収穫量が増えるのではないでしょうか」

 ターラントがもう一つの効能をあげた。 ま、そこは僕はちょっと苦々しい思い出だが。

 「とは言っても、火鼠を我々が狩る訳にはいきません。 早急にハンターを呼び寄せねばなりませんね」

 ダイドールの言葉に、僕は「何で?」と思ってしまった。

 「ああ、まあ、そうだよな。

  カンプ魔道具店は始めた時みたいに、まさか俺たちが火鼠狩をする訳にはいかないな。 領主である俺たちが領民の儲け話となる事柄に手を出してはダメだからな」

 なるほど、そういうことか。 アークがちょっとがっかりした感じで言った言葉で、僕も自分たちで狩ってはいけない理由が解った。 でもちょっと、いやすごく残念な気分ではある。


 僕は翌日、支部長さんともこの件で話をする。

 もちろん支部長さんにも、小さいけどダンジョンが発見されたということは伝わっていた。

 「まさか私もここで魔石の買取業務まですることになるとは思ってもいませんでした。

  カランプルくん、陛下の元に早馬はもう出しましたか?」

 「えっ、陛下に早馬で知らせなければならないような事なのですか?

  東の町のダンジョンの3分の1ほどの穴の大きさの、本当に小さなモノですよ。 火鼠もそんなに湧かないんじゃないかなぁ。」

 「たとえ、そうだとしても、国で3つ目のダンジョンですよ。

  国の草創期に東のダンジョンがすぐに見つかり、それから国として発展を始めたところで見つかった北のダンジョン以来、久々の新たなダンジョンです。 今までの2つのダンジョンはすぐに見つかったのですが、それ以来ダンジョンは見つかる事なく、我が国にはダンジョンは2つしかないとずっと思われていたのです。

  ですから、今回見つかったということは、とても大きな出来事なのですよ」


 僕は支部長さんに促されて、大急ぎで王都の陛下の元にダンジョンを発見したことを報告した。 報告には騎馬でダイドールが向かったのだが、ダイドールもそんな大きな出来事だとは思っていなかったらしかった。 まあ、ダンジョンやそこから湧くモンスターといったことに、貴族は直接関わることがなく、関わるのは組合だからかもしれない。


 それにしても、東のダンジョンの方が北のダンジョンより先に見つかっていたなんてことを僕は初めて知った。

 北のダンジョンに比べれば、東のは規模もずっと小さく、採れる魔石の量も少ないし、獲物はほとんど火鼠ばかりでレベルも低いから初心者ハンターが経験を積むためのダンジョンという感じだったのだ。

 ふーん、それでも歴史は古いのか。


 それから僕は旧知のハンターであるアラトさんに手紙を書いた。 ハンター募集の為だ。

 ハンターを募集するといっても、小さな東のダンジョンのその1/3の穴の大きさのダンジョンだ。 狩れるモンスターの数も高が知れているので、広くハンターを募るなんてことは考えられないからだ。

 アラトさんに声をかければ、もしかすればアラトさん自身が、それがダメなら知り合いのハンターを紹介してくれるだろうと思ったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ