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それからしばらくして、アークとリズが王都に行った時に、王都の光の魔技師たちからリズに要望があったらしい。
王都の光の魔技師たちは、シャイニング伯の騒ぎの後で、何故かみんなカンプ魔道具店の傘下になってしまっていたのだが、その魔技師たちがわざわざ代表を選び、代表が王都の館のリズに面会を求めたというのだ。
「で、どんな話だったの?」
「それがね、カンプ、王女様に献上した魔道具があるじゃない。 あれを自分たちにも見せて欲しいという要望だったのよ」
なんでそんな話が王都の光の魔技師たちから出てきたのだろうと不思議に思っていたら、アークが僕の顔を見て、説明してくれた。
「王女様が、あの魔道具を自慢したくなって、自分の友達の貴族の娘に見せたらしいんだ。
そこから噂がどんどん広がって、王都中で話題となったらしい。
とはいえ、王女様に見せてくれと要求する訳にもいかず、ま、なんて言うか、秘められた特別な魔道具という感じになっている訳さ。
それが余計に興味を持たれてしまったようで、色々と噂になったらしい。
で、光の魔道具だということと、王女様が手に入れたのだとしたら、きっとカンプ魔道具店で作られた特別な物に違いないと、王都の光の魔技師たちは気づいたという訳さ。
そして、今回のわざわざの要望となったらしい。
光の魔道具ということで、リズの作った物かと思ったらしいな」
なるほど、なんとなく話は分かった。
王女様が、自慢して友達に見せたら話題になった、ということか。 カンプ魔道具店の宣伝にもなったし、良かったんじゃないかな。
「で、どういうことにしたの?」
「どうしたも何も。 あの魔道具は王女様に献上したあれ一つしかないのだから、どうしようもないでしょ。 そう言って『無理』と断ったわ」
「実は、そういう話はそれだけじゃなくて、俺の実家からも、リズの実家からも来たんだよ。
見てみたいから、見せてくれないかって」
「私の実家なんて、酷いものだったわよ。
『光の魔道具なのに、我らが見たことがないというのは、問題だ』なんて言い出して、『なんとしても見せろ。 ハイランドの前当主殿は見たというではないか』と見せるまで引かないなんて風になっちゃって、仕方ないから、『王都で、王女様だけに献上した物を、他で見せられるはずがないでしょ』と言って、やっと抑えたのよ」
「なんか、凄い評判になったのね。
まあ、観たら忘れられないと思うもの。 王女様のお友達が、観た後で家族や、他の人に、その話を興奮して話すのは当然でしょうから。
やっぱり作ったラーラたちは凄いね」
エリスがそう言って褒めると、作成したラーラ、フラン、リネは少し照れくさそうにしていた。
その場に今日は一緒していたサラさんが、何だか考えこんだ顔をして言った。
「あの魔道具はもう見れないのですか?
私もですけど、村人たちも、また観たいと思っている者がたくさんいると思うのですけど」
リズが答えた。
「うん、王都でというのは、本当に王女様の手前ダメだと思うけど、この村でだったら、ラーラが作ってくれれば、また観てもいいんじゃないかしら。 正直、私も観たいもの」
みんなも確かに自分たちもまた観たい、とラーラたちに訴えた。
フランが嬉しそうに答えた。
「それじゃあ、もう一つ作りますか」
ラーラとリネも嬉しそうに肯いた。
「あの一つ提案なんですが、良いでしょうか?」
サラさんが、もう少し言葉を続けた。
「今度は村に置いておく物を作ると思うんですけど、それならば、あれを見せる建物を作ってしまって、その中に設置したらどうかと思うんです。
そうすれば、村の人が見るだけでなく、王都で観ることが出来ない人も、ここに来て観てもらえれば、良いのではないかと思うんです」
ああ確かに、村人だけなら、また学校で何回かに分けて観せれば良いけど、他所から来た人にそれではダメだな、と僕は考えていたのだが、
「サラさん、それすごいアイデアよ。
そうね、そうすれば、この村に人がやって来るわ。 そうすればその人たちが、この村でお金を使うことになるわ。
まずは一番最初に、宿屋を作らなくてはダメね。 アーク、ターラント、あの魔道具を観せるための建物と宿屋を大急ぎで建てて、場所はダイドールと3人で考えて決めて。
サラさん、私たちは何かお土産として売る物を考えましょう」
何だか良く分からないが、エリスの頭の中ですごい計画が出来上がったみたいだ。
「あ、それより何より最初に宿屋をやってくれる人を探さないといけないわ」
先走っているエリスを少し落ち着かせて、僕たちはエリスから思いついた計画を詳しく聞いた。
エリスの計画は、王女様に献上した魔道具を使って観せる施設を作り、それを観るために来る人を泊める施設を作るというのだ。 エリスの計画の何が重要かというと、人が来れば、何かと来た人は村でお金を使うということだ。
宿屋を作れば、宿に泊まるために宿泊代としてお金を使い、飲食にお金を使う。 エリスはお土産を作り、そこでも使わせたいと考えているみたいだ。
「そうね、あれを観せるのにも村民以外の庶民は入場料を取りましょう。 貴族は宿泊もゲストハウスを使うことにすれば良いし、そっちは貴族のしきたりで運営すれば良いわ」
「今まで、村には外から人がほとんど来なかったのは、村に来る必要がなかったからよ。 例えば北の町はダンジョンという特徴があり、南は港があるから交易と魚がある。 東の町は知っての通り、元は学校と小さなダンジョンの町だったけど、今は百貨店もある。 西の町は私たちとは一番接点がなかったけど、歓楽街になっているわよね。 どこも外から人を呼べる特徴がある。 私たちの村はそういう特徴がなかったけど、これが特徴になるかもしれないわ」
宿屋と一言で言ったのだが、実は宿屋を二軒作ることになった。
もちろん一軒は村に作った訳だが、もう一軒、砂漠の中間点の小屋を宿屋に改装することにしたのだ。
この中間点の小屋は、最初僕たちの計画に宿屋に改装する事は入っていなかった。
しかし、村に宿屋を作り、村外の人を呼び込むという話が出ていることを知った雑貨店の運搬を担当してくれていた人が、小屋を宿屋にしたいと提言してくれたのだ。
この人は元々は、僕たちが魔道具店を始めてすぐに、身の危険を感じるようになった時、僕たちの危険を避けるため移動用の馬車をおじさんが用意してくれた時に、御者として雇われた人で、僕たちとは随分長い付き合いになっている。
ただ、ずっと馬車で移動している生活をしてきたので、そろそろ家族と落ち着いた生活をしたいと考えていたようだ。
それともう一つ、普段この砂漠を往復している組合の御者さんや、ペーターさんたちもだが、小屋の改造というか拡大がもう行き着くところまで行っていて、これ以上は無人の小屋では快適度が増さないと考えたのだ。
それと今までは小屋を使うのは知った人のみがほとんどだったのだが、村外の人に来てもらうことになると、無人にしておくことが不安に思うほどに小屋が充実しているのだ。
砂漠の中間点の小屋の改装は、小屋の作りは御者さんたちと一緒に考えて、改装・改造そして付け足す施設の建設は、御者をする夫を持つ土の魔技師さんたちがしてくれることになった。 中間点は豪華な避難小屋ではなくなり、宿屋となった。
宿屋としてのきちんとした食堂部分や、宿屋の一家の住まいなども作られ、それに伴いまたルルドの木も2本増やされた。
という訳で中間点の宿屋の人材は簡単に決まった。 ちなみに雑貨店の輸送の御者は、きちんと後継者を用意していてくれた。
ところが、最初から作ることが決められていた村内の宿屋の人材には苦労した。
最初村人の中から宿屋をやってくれる人を募ったのだが、誰も出て来なかった。 僕たちは最近村に越してきた元村人の一家から、一家族くらいはと思ったのだが、簡単ではなかった。 町の生活を捨て、村の生活をしようと決心してきたので、せっかく作り始めた畑の手入れに問題が出るかもしれない宿屋という仕事は敬遠されたらしい。
「それにやっぱり、村の人の多くは、他所の人に慣れていませんから、どんな人が来るかも分からない宿屋という仕事には抵抗があるのだと思います」
サラさんが、そう村人の気持ちを教えてくれた。
仕方なく、村内で宿屋をしてくれる人を探すのを諦め、誰かいないかを探そうと思ったのだが、これが意外に苦戦した。
僕らとしては、元々住んでいた東の町で色々声をかけてみたのだが、なかなか見つからなかった。 一つには僕らが魔石を繰り返し使う方法を確立したため、余ることになった魔石で今までより水の魔道具が多く作られるようになり、畑が増えて全体的に好景気になっているからかもしれない。
僕とエリスが王都に行った後、百貨店や、その上で作業をしている魔道具店で働いてくれている人に、誰か候補者がいないかを尋ねたのだが、誰も出てこなかった。 知り合いにもいないかな、と重ねて聞いても出てこない。
「こんなに難しいとは考えてなかったんですよ」
エリスは百貨店の中に出店している、ベークさんの店でケーキを食べながら愚痴っている。
甘い物で気分転換というよりは、どちらかとにいうと発散という感じだな。 僕も一緒に食べているのだけど。
「どういうことなんですか。 良く内容を教えてください。 話を聞いておけば、ここに来るお客さんにも声を掛けたりしますよ」
ベークさんの奥さんが、エリスと何だか真剣に話始めた。
村に戻ってみると、宿屋の問題は後回しにして、光の魔道具を観せる施設を作っていた。
「考えたのだが、観ている人の頭の上で光が動くような建物にすることにした。 観ている人に光が当たると、まあ、それはそれで楽しいかもしれないが、その人より後ろの人には光が見えないからな。
それから、どこから観ても同じように見えるように、なるべく丸い建物にしたいと思って、八角形の建物にすることにした。 天井は最初は八角形の屋根に沿わせて、半分くらいで平にしようと思う。 天井が低いと、魔道具と壁までの距離と天井までの距離が違いすぎてしまって、光の見え方が良く無いんじゃないかと思うんだ」
キースとターラントは部屋で見たときのことを思い出しながら、どうすれば観る人みんなが光を綺麗に観れるかを考えて、建物の形を考えたようだ。
入り口から中に入ってみると、何もない空間の真ん中に、背の高さほどの台があり、どうやらそこに魔道具が作り付けられているらしい。
「まだ何もありませんが、ここに少し上を向きやすい角度の背もたれを付けた椅子を設置するつもりです」
ターラントが説明してくれた。
もう一つこの建物に特徴的なのは、窓がないことだった。
「入り口さえ閉めてしまえば、昼間もここで観せることが出来るって訳さ」
そして出来上がった建物で、まずは試しで僕たちが観てみたのだが、光の見え方は工夫されただけあって、部屋で観た時よりも綺麗だった。 その上、風の魔道具の応用なのだろうが、据付け型にしてギミックを作るのにスペースの問題が無くなったからだろう、光が動く速さを変えられるようになっていた。 ラーラが光の動きを緩やかに変化させていったので、以前よりなお美しかった。
ところが、昼間でも観ることが出来ると、昼間に試してみたのだが、そっちは大失敗だった。 窓がないので、建物の中に熱気が籠もってしまって、暑くてしょうがない。
「風の魔道具もところどころに設置すれば、どうにかなるんじゃないか」
アークが未練がましくそんなことを言ったが、リズに
「暑い空気をかき混ぜたって、暑いことには変わりはないわよ」
とあっさりダメ出しされてしまい、やはり夜に行うこととなった。
窓をつければいいじゃんか、と思ったのだが、それはアークとターラントに強硬に反対された。 完全に外の世界と隔絶するのが良いのだと。
魔道具を観せる施設が出来上がったので、まずはリズとアークの実家に連絡をした。
ここは最初に招待しないと、やはり問題があるからね。
そうしていると、ベークさんから宿屋をしてくれる人が見つかったと連絡が入り、とりあえず相談に夫婦で村に向かわせるとのことだった。
僕たちは、申し訳ないけど新米魔技師の集合住宅の余っている部屋に、その夫婦に泊まってもらう様に準備をして、どんな人が来るのかと待っていた。
やって来た人を見て僕たちは驚いた。 誰かを見つけたのではなく、ベークさん夫婦がやって来たのだ。
「私たちの店も、もう弟子たちで切り盛りできるようになりましたからね。 私たちもまさか自分たちが、店を二軒も持つようになれるとは思っていなかったのです。 すべて新しいパン焼き窯を作ってくれたカランプル君たち、いやもうそんな言い方をしてはいけませんね、ブレイズ子爵たちのおかげです。 困っていると聞いたからには、少しは恩返しをしたいと思ったのですよ。
それになんていうか、東の町の店は元の店と百貨店内の店とで、大きくなり過ぎて自分たちの手作りの店という感じではなくなっていますからね。 弟子たちも分業になっていて、パンを焼く者、ケーキを作る者という感じです。
この村に来れば、宿屋をしながら、パン屋も併設させてもらって、自分たちの手作りの原点に戻れるとも思ったのですよ」
もちろん即座にそういうコンセプトの宿屋の建物を作ることになった。




