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王女様の魔道具献上

 「カンプ、王女様へ献上する魔道具が出来上がったわ。

  一度、みんなにも見てもらって意見を聞きたいわ。 私はこれで王女様の期待には十分応えられていると思ってはいるのだけどね」


 ラーラは自信満々という顔をして僕にそう言って来た。


 「ラーラさん、出来上がったのですか」

 「早く見せてください」


 細工を手伝ったらしいフランと、それを見ていたらしいリネが待ちきれないという雰囲気で僕とラーラの話に割り込んできた。


 「とうとう出来たのね。 ラーラがそれだけ自信満々ということは、とても良い出来のモノが出来たのね。

  私も手伝った身としては、とても楽しみだわ」

 リズも身を乗り出してくる感じだ。


 「みんな、そんなに急がせるなよ。

  ラーラを信じているけど、今は献上品に何か問題がないかを、みんなで細かく確認するのだろ。 もっと冷静にならないとダメだ」


 僕もフラン、リネ、リズの様子から、何だか期待感が膨らんでワクワクした気持ちになるのを抑えるために、少し厳かに言った。


 「それじゃあラーラ、まずは見せてくれ」


 ラーラは土魔法で作ったらしい外箱から、木で作られた箱を取り出した。 その木で出来た箱には、彫刻が施してある。

 蓋にはルルドの木が彫られ、箱の正面に当たる部分には王家の紋章が彫られていた。 そして左右の面には僕のブレイズ家の紋とアークとリズのグロウランド家の紋が彫られている。 そして背面に当たる面にラーラのグロウケイン家の紋が小さく彫られていた。


 「おやおや、これは綺麗に仕上げましたね。

  蓋だけはこの地の物ではないようですが、他はこの村で採れた木を使ったのですか」

 おじさんは箱の外見を見てそう言った。


 「はい、やっぱり後々の艶の出方を考えると、くるみの木で作りたかったのですが、この村の木では、まだ大きさが足りなくて蓋の大きさの一枚板が作れなかったので、蓋だけは村の木ではありません。 でも他の部分は、全部この村の木で作ってあります。 模様を彫って、その後でルルドの実の油で磨いてあります。 蓋の模様は、この村を象徴するのはやっぱりルルドの木だと思って、それを彫りました」

 ラーラは箱をみんなに見せながら、そう言って説明をした。


 僕は箱を詳細に眺めてから、ちょっと文句を言った。

 「箱の正面に王家の紋章を入れたのは解る。 でも、どうして左右にはブレイズとグロウランドの紋章を入れたの? それでグロウケインの紋が一番見えない後ろに小さくっていうのはおかしいよ」

 「それはカンプの言う通りだ。 作ったラーラの紋をこそ、ちゃんと入れるべきではないか。 それが俺とカンプの紋を左右に大きく入れて、ラーラの紋が後ろに小さくというのは、ちょっと納得がいかない」

 僕と同じように、この魔道具作りに貢献していないアークもそう言った。


 「それは理由があるのよ。

  本当は、私はカンプ魔道具店の紋を箱に入れようと最初は思ったのよ。 でもこれはカンプ魔道具店の売り物ではなく、ブレイズ子爵家から王女様への献上物じゃない。 だから魔道具店の紋を入れるのはちょっと違うかなと考え直したわ。

  でも、みんなで作ったと言うのを表現したいじゃない。 それだから左右にブレイズとグロウランドの紋を入れたのよ。 合わせれば魔道具店の紋になるじゃない。

  それで、それだけだと文句が出ると思ったから、私の紋も後ろに彫らしてもらったのよ」


 「なるほど、流石はラーラ殿です。 左右にブレイズ家とグロウランド家の紋を刻むことで、実はカンプ魔道具店に関わる者みんなの、もっと言えばこの村の者たち皆を表現したという訳ですか」

 ターラントがとても感心したという声をあげたので、何だかこの件はこれでおしまいになってしまった。


 「それじゃあ、蓋を開けて、中を見せてよ」

 僕の言葉を、ラーラが素早く遮った。

 「蓋を開ける前に、まず部屋の中を暗くしないと。 ライトをみんな消してくれる」


 夕食が終わってのこの時間、外はもう暗くなっているが、部屋の中は全体が明るい。 ダイドールが部屋全体の明かりの操作スイッチに行って、スイッチを切り、おじさんも手元のライトを消した。

 部屋の中が外のわずかな明かりだけになり、全く見えないという程ではないが、十分に暗くなった。


 「それではみなさん、蓋を開きます」

 ラーラがもったいぶった言い方をしてから、さっと蓋を開いた。

 素晴らしかった。 誰も最初、感嘆の声さえ出なかった。


 しばらく眺めた後、

 「ラーラさん、本当に綺麗です。

  自分が作った機構ですけど、こんな風になるんですね、驚きました」

 フランがそんな風に言ったが、僕にはフランがこの光景を作った魔道具のどの部分を作ったのかさえ分からなかった。


 ラーラの作った魔道具は蓋を開けた途端に、四方八方に光を巻き散らかした。 その光が動いていき、それと共に光の色が次々と変わっていくのだ。

 その光の色自体はとても淡く色の違いがはっきりとはしないのだが、その光に照らされた部屋の天井や壁には、しっかりとその光の色がついて、その照らされた色が動いていくのだ。 そんな見たこともない光景にみんな目を奪われてしまったのだ。


 しばらくその光景に、みんなで見惚れた後、蓋を閉め、部屋の明かりを点けて、僕たちは話を再開した。


 「ラーラ、本当に素晴らしいよ。 これなら王女様も大満足間違いないよ」

 僕がそう言うと、普段魔道具の話には口をほとんど出さないおばさんが、

 「ラーラちゃん、本当に綺麗だったわ。 夢の様だった」

 と僕の言葉では足りないと口を出した。 おばさんの言葉は確かにここに居る全員の気持ちだった。

 ラーラは照れた顔をして言った。

 「王女様への献上ということで、というか私を指名してくれてのことだったんで、ちょっと気合が入ってしまって、こんなになっちゃいました」

 みんなは、ちょっと笑った。


 「ところで、この魔道具、どういう仕組みになっているんだい?

  光の色が変わるのは、リズと2人でやっていて、とうとうレベル2の魔石を使う羽目になった光の魔石だと思うけど、光を動かしたりとか、自動的に色を変えたりとかはどうしているの?

  さっきフランが『自分の作った機構』と言ってたから、そこら変に秘密があると思うのだけど」

 アークがラーラに種明かしをお願いした。

 「うん、光の色についてはその通り。 最初は杖みたいにスイッチを付けて、それによって切り替える物を作ろうかと思ったのだけど、それだと光が動かないから、陛下がした様に杖を振ったりして光源となる魔石を動かさないと、変化がなくてあまり面白くないと思ったのよ。 でも光の色を多くしたら、スイッチの数が増えて、杖みたいな棒状で振るという物ではないと思ったの。

  そこで考えたのが、光源となる魔石を覆ってしまって、その覆った物の方に穴を開けて置いて光の出口を作って、その覆いの方を動かすことよ。 そうすれば今見た様に光の線や、光が照らした部分が動くという訳。

  その覆いを動かすのを王女様が自分でするよりは、なんとか自動で動かしたいと考えて、フランに協力を頼んだのよ。 つまり覆いを動かしているのは風の魔石から出ている風の力よ。

  箱の中には風の魔石もあって、その魔石の出す風が小さな風車に当たって、その回転を歯車で伝えて覆いを動かしているの。 その辺のギミックはリネのアイデアが満載だわ。 そしてそのギミックを考えている中で、主にリネのアイデアだけど、蓋を開く事をスイッチにしたり、自動で色が変わる様な仕掛けも付けたという訳」


 「とにかくすごく凝った仕掛けなのは良く分かったよ。

  こんな道具、今までに絶対ないから、確実に組合に登録しておかないと。

  もしかすると今までで一番共同開発者の名前がたくさん載る道具かもしれないよ。

  主開発者はラーラだけど、共同開発者にはリズにフランにリネの名前も載せないといけないだろうから、それから協力者として箱作りや彫刻に協力してくれた村人の名前も入れておいてあげると喜ぶかもしれないな」

 「そうね、協力者もきちんと載せるのは良い案だと思うわ。 協力してくれた村人もきっとすごく喜ぶと思う。」

 僕の提案にラーラも賛成した。


 「あの、いいですか?」

 「リネ、なんだい?」

 「この道具を登録するのに、組合の人、支部長さんにもどういうモノか、見せてみないと分からないんじゃないかと思うんです。

  それで一つ提案なんですが、支部長さんに見せるときに、学校に来ている子供たちにも見せてあげたらどうかと思うんです。 こんなに綺麗なんです、ぜひ子供たちにも見せてあげたいです」

  「そうね、それは良い案ね。 私は賛成だわ」

 子供たちの学校の校長の様な立場になっているリズが即座に賛成した。


 子供たちと支部長さんに対するお披露目はそれだけでは収まらなかった。

 支部長さんの奥さんと子供が来たのは当然だと思ったのだが、他の組合職員たちもやって来てしまった。

 また、エリスがサラさんもと誘ったことと、子供たちからその親たちへと話が伝わり、一気に村全体の行事になってしまった。

 御前様が1番に乗り込んで来たのは言うまでもない。

 結局学校を会場として、入れ替え制で5度も披露することとなった。

 そして、登録書類に協力者として記載することになった村人2名は、村長の紹介でわざわざ一張羅を着て、村人に対して記載される喜びを語るなどという場まで設けられた。

 2人はこのことを記念して、植樹をすることにしたのだが、これ以降僕の領地では、何かお祝いがあると植樹することが一つの風習となってしまった。


 「なんだか考えてなかったすごい盛り上がりになっちゃったけど、とにかく登録も終わったし、これであとは王女様に献上すれば良いだけになったわ。

  次に王都に行くのはカンプたち2人よね。 王女様への献上、よろしくお願いするわ」

 これは僕やアーク、リズが指摘するまでもなく、誰でもそれではダメだと思った様だ。 エリスがため息をつきながらラーラに言った。

 「ラーラ、そんな訳にいく訳ないでしょ。 ラーラが王女様に頼まれたことなのだもの、ラーラが自分で献上に行かなければダメに決まっているでしょ。

  今回に関しては、私とカンプの方がラーラたちの付き添いよ」


 献上されたこの魔道具を試してみて、王女様が飛び上らんばかりに喜んだことは当然のことだっただろう。

 当然ではなかったのは、王女様がつい最近まで単なる庶民だったラーラの手を取って、振り回さんばかりに礼を言ったことだ。 余程嬉しかったのだろう、ラーラは固まっていたけどね。


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