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王女様のための魔道具と御前様

 王都から戻るとラーラはすぐに王女様に頼まれた魔道具の制作に取り掛かった。 どうやら何か面白い事を考えついたらしい。 帰りの馬車の中では、ラーラはあまりおしゃべりもせず、ずっと何か頭の中で考えているみたいだった。


 「で、どんな物を作るかは、もう考え終わった?」

 「うん、まあ、なんていうか、王女様に作ってと言われた時に、頭の中に思いついたというか、想像しちゃった光景があるのよね。

  その光景を作るにはどうしたら良いだろうかって、帰りはずっとそれを考えていて、何とかなるんじゃないかと思うわ」

 「なんか、ラーラは凄いことを考えていそうだな」

 「凄いかどうかは分からないけど、なんていうのかな、実用性ではない発想で魔道具を作るっていうことは今までなかったじゃない。 だから何ていうか、ワクワクしちゃったのよね」

 「あ、なるほど、確かにそうだな。

  魔道具って、たくさん作っているけど、一つ一つは考えてみれば高価なものだから、まずは実用的かどうかという事で考えるもんな」

 「そうでしょ。 それに今回は売り物ではなくて、王女様への献上物だから、売値を考えた制作コストを考える必要がない」


 「それを言ったら、王様の杖も、それより前のお爺様の杖もそうじゃない。 ラーラはコストを考えなくて良いモノばかり作っていて、なんだか羨ましいわ」

 僕とラーラが話していたところに、リズが乱入してきた。

 「確かに王様の杖も、御前様の杖も献上物だからコストは考えてはいないな」

 「確かにそうだけど、普通の貴族に売る方の杖はちゃんと考えたわよ」

 そうだったかな、と僕は考えた。


 「で、どんな物を作ることにしたんだよ。 もったいぶらないで教えてくれよ」

 「まだ頭の中の想像だけで、本当に形になるかどうか分からないのよ。

  それに私1人で作れる訳ではなくて、みんなに協力を求めて、やっとできるかどうかという代物よ。

  まず一番最初はリズに協力を求めるわ」

 「え、私? 光の魔技師が2人いても仕方ないんじゃない」

 リズがちょっと1番にラーラに指名されたのが意外だったらしい。

 「そんな意地悪言わないでよ。 魔石に組み込む回路の相談をさせてよ。

  私の考えだと作れると思うのだけど、ちょっと自信がないから手伝ってよ」

 「どんな事考えているの?」

 リズが興味を示した。

 「ほら、私が陛下に献上した杖は、御前様に作った杖の淡い光が出る回路を、淡くしないで、強い光で出るように改造しただけのものじゃない。

  その原型は魔力がなくなると色が変わるライトの回路だけど、あの色を変えている部分を少しいじると、違う色も出るんじゃないかと思うのよね」

 「なるほど、そういうことね」


 ラーラとリズの話は、光の魔技師の専門的な話になり、僕には着いていけなくなってしまった。

 この後、ラーラとリズは、数度の実験で、普通に光る時に白い光、お知らせライトなど今まで使っていたオレンジの光に加えて、青い光、黄色い光、緑の光、赤い光と全部で6色もの光が出せる光の魔石を開発した。

 でも残念なことに、6色もの光を出す回路はとてもではないがレベル1の魔石に書き込める量の回路ではなくなってしまい、レベル2の魔石を使わざる得なかった。

 僕の魔道具店で販売するモノであったら、原価が高くなり過ぎてしまうので、レベル2の魔石を使うということが分かった時点で却下なのだが、今回は売り物ではなくて献上品だから、そのまま開発を進めた。


 ラーラは一番肝心の魔石の目処が着いたかと思ったら、今度はフラン、アーク、それから瓶や木に模様を彫刻している村人の協力を自分で作業場に行って、取り付けてきた。

 作業場では、ラーラが騎士爵になったということから、ラーラのことも「様」付けで呼ぼうという話がされていたらしいが、ラーラの全力の拒否で今まで通り、「さん」ということに収まったらしい。

 そんなこともあったが、ラーラが作業場で村人にまで協力を求めたおかげで、王女様に献上する光の魔道具は、なんだかいつの間にか、村を挙げての一大仕事という感じになってしまった。



 話が前後してしまうが、王女様に献上する魔道具作りが、まだラーラとリズだけによる魔石に書き込む回路の試行段階だった時、具体的にいえば僕らが王都から戻って、一週間後のことだった。 またしても前触れもなく、御前様が村にやって来た。

 やって来た時、御前様はたいそう立腹している様子だった。


 「アウクスティーラ、ワシはすぐにこの村に来ると、ウィストリークに伝えておいたはずじゃが、それを聞かんかったのか?!!」

 「確かに爺さんが、早々村に来るという話は、ウィークから聞いたけど、近いうちにという話だったんだ。 まさかこんなに早く来るとは誰も考えていなかったよ」


 ウィストリークという聞き慣れない名前が出て来たが、なんのことはないウィークの正式な名前だった。 普段使わないから、一瞬誰かと思っちゃったよ。

 つまり御前様は自分が王都に置いてこられたと怒っているらしい。


 「本当に、その時は近いうちにということだったから、次に誰かが王都に行った時か、その次くらいかなと思っていたんだよ。 まさか、こんなにすぐだとは思ってなかったんだ。 ウィークの奴だって同様だっただろう。

  それで爺さん、親父たちにはちゃんと断って出て来たんだろうな?」

 「何を断る必要がある、ワシは自分が好きなように出来るわ。

  とはいえ、アンダンが心配して、連絡などはしとったようだから、アーク、お前が心配せずとも良い。

  全くここまでの道程、アンダンと2人では、死にそうなくらい退屈であったぞ。 前回来る時とは天と地の違いじゃ」

 「爺さん、またアンダンだけしか連れて来なかったのかよ」

 「他には必要なかろう」


 アークはもう処置なしという感じでサジを投げた。

 御前様の気持ちも分からない訳でもない。 前回来る時は、フランとリネの2人と楽しくおしゃべりをしながらの馬車の旅だったのだ。 それがいくら1番のお気に入りとはいえアンダンと男2人だけの馬車旅では、文句も言いたくなるのだろう。

 リズとエリスも、その気持ちは分からなくはないみたいで、御前様の言葉を苦笑して聞いていた。


 御前様がやって来たと聞いて、示し合わせてから来たのだろう、おじさんとおばさんが入って来た。

 「御前様、お戻りですか。 早くに戻って来ていただき、嬉しいことです」

 おじさんが御前様に歓迎の言葉をかけると、御前様はさっきまでの不機嫌が何処かに飛んでいった。

 「いや、矢も盾もたまらず、大急ぎで戻って来ましたぞ。

  もうすっかりこの村に里心が根付いてしまったようじゃ」

 「それは嬉しい事をおっしゃってくださる」


 何故か御前様とおじさん・おばさんはウマがあって、この前の滞在の時から妙に仲が良い。 御前様がこの村にすぐにでも来たかった、7-8割はおじさん・おばさんと気が合うからではないかと思った。


 「御前様、今日の夕食は我が家の方で召し上がりますか?」

 おばさんが御前様にそんな事を聞いた。

 「いや、今日は店の方の食堂でいただこうか。 ワシが村に舞い戻ったのは、馬車を見て村の者もすぐに気がついたじゃろうが、村の者にも戻った挨拶をせねばな。

  じゃから、今日はワシのおごりで皆に夕食を振る舞ってやってほしい」

 「やはり、そうされますか。 御前様のことだから、村人たちにそう振る舞うのではないかと思い、先にちょっと聞いておこうと思いました。

  では今日は腕によりをかけて、楽しい宴の料理を作りましょう」

 おばさんはエリスとリズに「手が空いたら手伝いに来なさい」と言いつけて、急いで出て行った。


 その日の夕方からは、どういう訳か知らないけど、村人のほとんどが食堂に集まって来て、結局入り切ることもできなくて、外や作業場も使っての宴になってしまった。


 「カンプくん、やはり前伯爵様ともなると、何事も大掛かりですね。

  組合にも『宴をするから、ぜひ参加するように』という連絡が回って来ましたよ。 ただ物を運んで来ただけの組合員もいましたから、『村人ではない者が何人か来ていますので』と辞退を申し入れたのですが、『別に構わぬ、参加せよ』と、お言葉をいただいてしまいましたよ」

 僕は食堂内の一応貴賓席らしいテーブル席に着くと、近くにいた支部長さんに声をかけられた。

 しかしその当の主役はというと、その近くにはいなくて、おじさんと一緒に、木を植えるのと手入れをするのを仕事にしているグループと、作業場で働いている村人たちと楽しそうに酒を飲んでいた。

 まあ、楽しそうだし、危険もないだろうから放置した。


 御前様は前回村にいた時にも、とても前伯爵とは思えない気さくさで村人とも接していたから、村人は好意的だったのだが、この宴で一気に完全に村の重要な一員となってしまった。 そしてどういう訳か、いつの間にか、御前様の家は村の女が順番に掃除・洗濯などの食事以外の家事を手伝いに行き、庭も男たちが手を入れるようになった。


 御前様の家の庭は、御前様の好みなのかと思ったのだが、一面にこの村には今まで無かった芝生が貼られた。 もちろん自動給水装置をつけてある。 その芝生が定着すると御前様の家の庭は、幼い子供たちの遊び場となった。 

 御前様は出かけない時には、家の前のルルドの木の木陰に椅子とテーブルを出し、アンダンにお茶を淹れさせて、その子供たちの様子を眺めて過ごしている。 大体その傍には遊んでいる子供の母親がいて、その母親の話を御前様は楽しそうに聞いているのだ。


 「爺さんはこの村で本当に楽しそうに過ごしているから、このまま放っておこう」

なんてアークは言っている。

 「それは構わないけど、アークの実家の方はそれで大丈夫なのか?」

 「一応、現状の報告はしているから、問題ないだろう。

  それに親父から、『孫のお前に父の面倒をみてもらっているのだから、その迷惑料だ』と、金も送られてくるからな。 植樹の資金になっているから、メリットもある」

 「おいおい、その金は御前様のために使わなくちゃダメなんじゃないか」

 「俺も、そうかなと思って爺さんに話したら、逆に『おう、それは気付かんかった』って、逆に前伯爵として王室から毎年下賜される金と、自分の持分の領地から上がる金のほとんどを逆に俺に託されちゃったよ。 『もっと木を植えて、この村を発展させるのじゃ』、だってさ」


 僕は良いのかな、と思いつつも、助かるのは本当だし、御前様の好意を断ることもできないので、僕らはそのお金も植樹の資金に回すことにした。

 僕らの資金だけでは、もうそんなに多く植樹できないでいたのが、そのお陰で植樹計画が随分と先倒しになった。

 その植樹の陣頭指揮や、計画の練り直しを御前様はおじさんと共に嬉々としてやっているのだから、御前様にもメリットはあったのかもしれない。

 そんなこんなしているうちに、ラーラが中心になって進めていた王女様のための光の魔道具がとうとう完成した。


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