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2度目の年始の叙爵式

今僕たちは2度目の年始の叙爵式に出席している


ウィークが初めて村にやってきた時からの、誰かしらが来村するという騒ぎがようやく収まったかと思うと、もう季節は新年を迎えることになっていた。

まあ客を迎えるのはトラブル続きではあったが、その礼としてもらった資金がかなり大きくて当初の予定以上に植林できたのは嬉しい誤算だった。


ただ、アークの作ったゲストハウスが思いの外不評で、御前様だけでなく、ハイランド伯爵夫妻、グロウヒル伯爵夫妻にも使えてはもらえたが、全く良い評価がもらえなかった。 その上、ウィークに使用を拒否されただけでなく、遊びにやってきた東の組合長にも、「あんな家使えるか」と拒否されて、アークはちょっと落ち込んでいた。

まあ、御前様を迎えるということで、王都の貴族の別荘的なモノを作ったのが、根本的な間違いだったのだろう。 アークは完全に改築する気のようだ。


叙勲式といっても今回は、僕とエリスとアークとリズの4人だけが王都に行けば良いのだろうと高を括っていたら、今回はラーラも王都に来るようにという連絡が入った。

「え、なんで私?」と、まったく予想していなかった事態にラーラは驚いていたが、リズが、

「叙爵式に呼ばれたのだから、功績に対して褒美がもらえるに決まっているじゃ無い。 ここの主要メンバーではラーラだけ王室から褒美がもらえていなかったのだから、当然よ」

と言うと、リネが

「そうですよ。 ラーラさんだけ褒美をもらえていないのはおかしいですよ」

とその言葉になんだか力を込めて同意した。

「でも私はあなたたちとは違って、本当に庶民だから、そういう対象に入ってなくて当然だと思うから」

「いや、僕もラーラも知っての通り単なる庶民だったのだけど」

「カンプ、あんたは自分が忘れていただけで、有名伯爵家の血を継いでいたのでしょ。 私とは比べられないわ」

ダイドールが別のことを言った。

「ラーラさんは、頼まれて陛下の使う杖を製作されたのですよね。 儀式の時に使う目立つ杖ですから、その製作した者に褒美を与えるのは当然かと」

「ま、とりあえず、叙爵式に呼ばれるのだから、褒美がもらえるのは当然だし、叙爵式でということだから、リネやフランのように家名を名乗れるようにしてくれるんじゃないか。」

とアークが言うと、エリスが

「それじゃあ、これでラーラも同じように家名持ちね。」

と喜ぶような、ちょっと揶揄うような調子で言った。

「ちょっと待って、私は本当に庶民だから、ペーターの家も私の実家も本当に家名なんて持ってないし、家紋も何も伝わってないよ。 家名を名乗れるようになるっていったって、無いモノをどうしようというのよ。」

そうか、ラーラの場合は、アークとリズが結婚した時に新しい家名と家紋を作ったように、新たに考えないとならないんだ。


結局ラーラの家名は、ラーラ自身ではお手上げと言うことで、みんなで考えることになり、「グロウケイン」という家名になった。

ラーラも光の魔技師だからと、リズが家名にグロウを入れて欲しいと言い、それと陛下に杖を献上したからなのだろうから、それを記念する意味を込めてケインを付けたのだ。 家紋もそこら辺を勘案して意匠を考えた。

「あとは王都に行って、いつもの店で、式典に合わせた衣装を作るだけね。」

リズのその言葉にラーラが辟易としたという感じで言った。

「え、もしかして服も何か特別な物がいるの?」

「当然よ。 国で1番格式の高い式に出席するのだもの、それに合わせた衣装を着ていくのは当たり前よ。」

「ああ、なんだか本当に大変なのね。 辞退するってこと出来ないのかしら。」

うん、ラーラの気持ちはとても良く理解できる。 僕も何度そう思ったことか。


という理由で王都には、ラーラさんとペーターさんも含めて6人で来たのだが、王都に来てラーラの叙勲の詳しいことが伝わってくると、ラーラは家名持ちになるだけでなく、騎士爵に叙勲されることになっていることがわかった。

ラーラも家名持ちという準貴族を通り越して、一気に貴族になるという訳だ。 これは予想外でラーラも驚いていたのだが、ラーラが1番狼狽えたのは出席するための衣装を服飾店で見た時だったらしい。 一緒について行ったエリスによると、「こんな豪華な衣装を私が着るの」とかなり尻込みしたようだ。 ま、ペーターさんも同じような感じだったから想像はつく。


ちなみにペーターさんの正式な身分は騎士爵配となる。 女騎士爵の結婚相手という意味だ。

まあ、この辺の貴族の意識というか序列みたいなものはかなり厳格らしい。

例えば何かの席に入場する時や、座る席次なども厳しい決まりがあるらしい。

例えば貴族とその夫人が出席する時に、爵位を持つ本人が出席しない場合、その配偶者はその爵位の最後尾に回されるといった具合だ。

ただし例外もあり、例えばアークとリズだと元々どちらも爵位持ちだから、どちらか一方が出席する場合でも後方に下がる事はない。 ま、それは理解できるのだが、何故かエリスの場合も下がる事はないらしい。 なんでも僕と同じように功績が認められているという事で、そういうことになるらしい。 正直僕には良く分からない。



2度目の叙爵式は1度目の時とは違い、やはり少し落ち着いて式を眺めることが出来た。1度目の時は、話されている内容も右から左で、全く意識に残らなかったのだけど、今回はきちんと聞くことが出来た。

落ち着いて聞いていると、襲爵する貴族がその襲爵する理由を話す時は、先代の人の功績を長々と話して、それを継ぐことを宣言するのだが、それ以外の陞爵や、叙爵はその理由はみんな先の功績によりという程度で、ほとんど話されることがない。 どうやら陞爵や叙爵になる功績は、いちいち取り上げる必要が無い、周囲に知られているということらしい。

今回陞爵して子爵となった人がいて、僕とエリスが子爵の最末尾では無くなったし、アークとリズも何人か後ろが出来たみたいだ。

それに前回の時は全く気づいてさえいなかったが、准男爵は座席がなく、立席だった。 ウィークがどこにいるかを目で探してそれに気がついた。


騎士爵の叙爵と家名を名乗ることを許される式は、名前を呼ばれて集められて、一度に宣言がされるのは昨年見たから知っていたが、その時に陛下が杖を振るわれるのは今回気がついた。 昨年の時は、注意が陛下には全く向いていなかったのかもしれない。

いや、今回から振る杖がラーラの作ったモノとなり、陛下が杖を振る時に煌びやかな光を辺り一面に放ったからかもしれない。 式場が一瞬どよめいて、陛下が一瞬「してやったり」という顔をしたのに気がついた。 確かにこれならラーラが褒美を貰って当然という気がした。



翌日の朝、僕たちは王都の館の一階の居間で、朝食後ゆっくりとお茶を飲んでいた。

リズがラーラを揶揄って言った。

「どう、ラーラ、晴れて貴族となった気分は?」

「気分も何も、昨日は疲れただけよ。 ま、自分が作った杖がちゃんと作動したのを見れたのはちょっと嬉しかったけどね」

「ああ、煌びやかだったな。 みんなどよめいてたな」

アークがちょっと嬉しそうに言ったので、みんな笑った。 ペーターさんはなんだか誇らしげだ。


「それにしてもラーラさん、ご苦労様でした。 私もこれでやっと解放されますよ。」

「ウィーク、解放されるって、何から解放されるんだ?」

僕はウィークの言葉を疑問に思って聞いた。

「いえ、あの、ハイランドのお爺様なんですけど」

ウィークがちょっと言いにくそうな感じなのでエリスが合いの手を入れた。

「御前様がどうしたの?」

「はい、私に何度も文句を言ってきて、ちょっと大変だったんですよ。

 『お前まで褒美に准男爵にしてもらったのに、ラーラが王室より褒美をもらっていないことは納得がいかん。 早くなんとかしろ』と」

なるほど、僕たちが知らないうちに王都でウィークはそういう苦労も背負っていたのか。


「まあ、確かに去年の叙勲の時に、ラーラさんだけ漏れてしまっていたので、お爺様の言うことは正しいのですけど、そりゃ確かに陛下への伝は僕にはありますけど、決めるのは僕ではないですから、少し困っていたのですよ。」

「ウィークさん、なんだかすみません。 私なんてカンプの魔道具屋で働かせてもらっただけの事で、こんな風に叙勲してもらうような事ではないのに、変な苦労をかけてしまって」

「いえ、ラーラさん、とんでもないです。 ラーラさんのブレイズ子爵家での貢献は誰もが認めているところですし、今回の杖といい、叙勲されるのは当然だと僕は思っています。

 お爺様も少し待っていれば、ラーラさんの吉報が聞けるのに、年寄りなんでそれがただ待てなかったのでしょう。」

「ま、爺さんも杖の事で仲が良くなったラーラに、何か力になってやれることはないかとでも思ったんじゃないか。 もう伯爵の位を親父に譲って大分経つのに、まだ王室に影響力があると思っているんだよ。」

アークはそう言って笑っていたが、他の者はどういう顔をして良いのか困った。


「ところで、そのお爺様だけど、近々また村の方に行くつもりらしいぞ。 『ワシはもう向こうに家も作っておる。 向こうでの暮らしに何の問題もない』と伯父さんを押し切ったと聞いたよ」

「げっ、爺さん、また来るのかよ。 まあ、家まで作らされたからな、覚悟はしていたが」

アークは渋い顔だが、まあ別に問題はないだろう。かえって仲が良くなったおじさんが喜ぶんじゃないかな、なんて僕は考えていた。


バーンという感じで奥の扉が開いた。 ウィークが慌てて駆け寄った。

「陛下、また何の前触れもなく来たのですね。 せめて奥にここに来ると言ってきましたか?」

「ブレイズ子爵たちが王都に来ていることは、みんな知っているのだ。 私らがいないとなれば、誰でもここに来ていると考えるだろう。 心配することはない」

ウィークはそんな話をしてても仕方ないという感じで、近くのメイドに何か指示している。 僕たちは急いで陛下たちの座る席を用意した。 今日は珍しく、王妃様だけでなく王女様も一緒に来ていた。

メイドが新しいお茶を陛下たちのために用意している間に、僕たちは挨拶をした。 そして僕は今回ラーラを騎士爵に叙勲してもらったことの礼を言い、ラーラも「身に余る光栄です」と陛下にガチガチに緊張しながらも自分でお礼を言った。

陛下はとても上機嫌で、ラーラに

「そなたが作ってくれた杖の効果はとても素晴らしかった。 式にいた者は誰もが驚いていたぞ。 それだけでも十分に今回の褒美の価値はあった」

「本当に陛下は式典の最中だというのに顔を崩していましたな」

王妃様が咎めるような、おかしがるような口調で言った。

「それはお前、周りのあの反応を見れば、つい顔が綻んでしまうのはしかたないだろう」

ラーラも言った。

「私も上手く作動して安心しました」


「ラーラと言ったか、そなたは去年ブレイズ家の家臣が褒美を得た時に、こちらの手違いで一人漏れてしまった。 まずはそれを謝ろう。 そして今回だが、去年の分とこの杖の分で2回分の褒美が一度になった。 これで許せよ」

「そんな、めっそうもございません。 私はただカランプル様の魔道具店に勤めさせてもらっただけの縁で、陛下に杖をお作りする栄誉を頂いただけにすぎません。 本来、褒美をもらえるような立場ではありません」

「はは、何をいうか。 そなたはブレイズ家ではウィークが『家中序列が私の方が上なのが申し訳ないと感じる』という重要人物だというではないか。 ハイランドのジジイにも、そなたへの褒美をせっつかれたぞ」

「いえ、なんていうか、恐れ多いです」

ラーラは陛下に少しからかわれて、困っている。

「父上様、もう良いでしょ。 私に話をさせて」

「ラーラ、我が娘の言葉を聞いてやって欲しい」

「はい。 王女様、私に何か御用なのでしょうか?」

「えーと、あのね。 私も父上様の杖についているような光の魔道具が欲しいの。 暗くなった部屋の中で、あの光を煌めかせたらとても綺麗だと思うの。 私にも一つ作って」


どうやら陛下たちは、今回は王女様のおねだりを叶えるために、ラーラがまだ村に戻ってしまわないうちにと、急いでこちらに来たみたいだった。


気がついたら累計PVが10万を超えていました。

ありがとうございます。

まだまだ続きますのでよろしくお願いします。


誤字・脱字の指摘などありがとうございます。

気をつけているつもりなのですがまだまだ多いです。 これからもお願いします。


感想・評価など気軽にしていただけると嬉しいです。

とても励みになるので、よろしくお願いします。 反応がないとやはり心配になるんですよね。


えーと、たまには宣伝も、

「気がつけばラミアに」  https://novel18.syosetu.com/n9426fb/

R18指定なので、引っかからない人はこっちも読んでいただけると嬉しいです。

R18といっても、その要素はほとんどありませんが。


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