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ウィーク来る

「カランプル様、エリス様、私はこちらにやって来て、驚いてばかりです。」


ウィークは僕たちの家の前に馬車を停めると、出迎えに出た僕たちの前に御者席から飛び降りると、アークとリズが馬車から降りるのも待たず、そう言った。

今日、アークとリズが王都から戻って来るのに便乗して、ウィークが初めて村にやって来ることは分かっていたから、そろそろ着くだろうという今の時間に合わせて、ブレイズ家の家臣団と呼ぶのだろうか、王都の館に部屋を持つ者はみんな集まって待っていた。

そこに到着したと思ったら、開口一番ちょっと予想と違うことをウィークが言い出したので、僕はちょっと面食らった。

陛下に仕えているせいだろうか、ウィークは僕たちよりも少し堅苦しいところがあるから、きっと最初は村にやって来た挨拶を堅苦しくするのだろうなぁ、と予想していたのだ。

「うん、ウィーク、それは良かった。

 遠路はるばる良く来てくれた。 まずはとりあえず中に入って一休みしてくれ。

 見て分かる通り、ウィークが来るのをみんなで待っていたんだ。

 アークとリズは今回もご苦労様。」

とりあえず僕たちはみんな家の中へと入って行く。

ダイドールとペーターさんが後に残って、3人の荷物を降ろしたり、馬車と馬を片付けてくれるようだ。


部屋の中に入ると、エリスとおばさんがお茶の用意をして、それをフランとリネが手伝っている。

そんな光景もウィークには珍しいようだ。

「なんだかエリス様と母上様にお茶を淹れていただくなんて、申し訳ない感じです。

 話には聞いていましたが、こちらでは本当に召使いは使われていないのですね。」

「ウィーク、私たちは庶民だったから、これが普通なのよ。」

エリスがそう言うとリズが

「私だってお茶を淹れたり、料理をしたりもするのよ。

 わざわざその為の召使いをおく必要なんてないわ。」

「そうね、最近はリズも少しは出来るようになったわね。」

リズがなんとなく自慢げに言ったので、ラーラがそう言ってからかった。

リズがラーラを睨んだかと思ったら、二人で笑っていた。


「なんて言いましょうか、話に聞くのと実際に見るのとは、やはり大違いで、私は驚いてばかりです。

 正直に言うと、王都の貴族の館の雰囲気と違いすぎて、私はここがブレイズ子爵家の館だとは思えないくらいです。」

「ウィークさん、だから前に言ったじゃないですか。

 カンプさんの治める領地は、ブレイズ子爵家が治める領地という感じではなくて、カンプ魔道具店と、エリス雑貨店が開発している土地っていう感じだって。」

「私は王都に一緒にいる時は、カランプル子爵様とエリス子爵夫人様、それにアウクスティーラ男爵様とエリズベート男爵夫人様と呼ばないといけない気持ちになっちゃうのですけど、この村にいる時は、カンプさん、エリスさん、アークさん、リズさんです。

 だから、王都にいるより、こっちにいる方が好きなんです。」

フラン、リネがウィークにそんなことを言った。

「おい、俺だって、いちいちフラソワーズとかリオネットだとか、呼び掛けたくないぞ。

 めんどくさい。」

「アークさん、私の名前、ちゃんと覚えていてくださったんですね。

 私フランとしか覚えられていないと思ってましたよ。」

みんな大笑いした。


「とにかく、こいつは中間点の小屋が見えた時から、驚いて興奮しっぱなしなのさ。

 みんなから話は十分に聞いていたはずなのにな。」

「そんなこと言ったってアーク兄さん、やっぱり見れば驚くよ。

 カランプル様や兄さんたちが最初にここに来た時は、あそこには何も無かったのだろ。

 それが今ではあんな立派な小屋があって、大きな木が植っていて、馬の放牧地まである。

 それがたったの2年のことだというのだから驚くよ。

 それに村に近づいて来たら街路樹が植っているんだから尚更だよ。

 ここが2年前まで何もない砂漠だったなんて、とても信じられないよ。」

「いや、ウィーク、それは間違っているぞ。

 確かに今いるここは新しく作った町並みだけど、ここに来る途中見て来ただろ。

 ちゃんとここには村が僕たちが来る前からあったんだ。」

僕はウィークの言葉の間違いを訂正した。

「でも、街路樹も向こうに見える林もなかったんですよね。

 ここの街並みの塀や建物はもちろんですけど。」

ま、それはそうなんだけどね。


ダイドールとペーターさんが戻って来て、ウィークの荷物はゲストハウスに運んでおいたとウィークに伝えていた。

それを機にエリスが、

「あっ、大急ぎで昼ごはんにもうしないと、子供たちも来ちゃうし、店もサラさんだけになっちゃうわ。」

と言って、少し遅めの大急ぎの昼食になった。

リズが学校に顔を出そうと、大急ぎで食事をしている。

「リズ、戻って来たばかりなんだから、今日は休めば良いだろ、無理しないで。

 フラン、リネ、大丈夫だろ?」

「もちろんです。 リズさん、無理しないでください。」

とリネが答えた。

「大丈夫よ、子供の姿を見たいもの。

 それに私は馬車の中で揺られていただけで疲れてはいないわ。

 それに最近は小屋までの道の半分くらいまで、もう木が植えられているから、

木がある所からは砂漠の過酷な道のりでは無いもの。」

「そんなに、子供の顔を見たいと思うなら、早くあなたたちも自分の子供を産めば良いのに。

 私たちは、あなたたちの子供の面倒をみるために、こっちにやって来たのだから、早くして欲しいわ、ね、あなた。」

「うん、そうだね。」

おばさんが、リズとエリスにそう言ってプレッシャーを与えていたが、その割にはおじさんもおばさんも、この村で自分の仕事を作って生き生きと活動している気がするのだが。


「ま、俺はとりあえずのんびり食事して、その後はウィークにゲストハウスや村の中を簡単に案内してやって来るよ。

 まずはサラさんと村長さんくらいには、ウィークのことを紹介しておきたいしな。」

「ああ、アーク、頼むよ。」

「アーク、そんなにのんびりと食事しないで、さっさと済ましてね。

 今日の後片付けは私の番なんだから。」

僕はアークの言葉に、まともに返したが、ラーラは「のんびりと」の部分にしっかりと反応を返したみたいだ。

アークはラーラの言葉をハイハイと軽く受け流したが、ウィークは驚いたようだ。

ウィークの感覚では、庶民のラーラがアークにそんな遠慮のない言葉を掛けるのがちょっと驚きだったらしいのだが、それ以上に、誰もそのことに関心を示さないのが、もっと大きな驚きだったようだ。

それはそれが日常のありふれた光景であることを示唆しているからだ。

みんな動き出した。


「カランプル様、あんな家は私は困ります。」

アークがウィークを連れて、ウィークの宿泊施設であるゲストハウスに連れて行ったと思ったら、すぐに戻って来て、僕に苦情を言った。

「あの家は、このカランプル様とエリス様、そしてアーク兄さんとリズ姉さんが共同で住む家より、大きくて豪華じゃないですか。

 私がそんなところに宿泊できるはずがないではありませんか。

 どう考えても身分不相応も甚だしいです。」

「アーク、説明したんだろ。」

「もちろんしたさ。

 ウィーク、もう一度言うぞ。

 あのゲストハウスは何もお前のために豪華で大きくした訳じゃない。

 お前も知っての通り、すぐにでも爺さんがここにやって来そうな勢いじゃないか。

 だから、それを見越して、爺さんに泊まってもらっても問題のない家を作ったんだ。

 お前が、『身分不相応だから、あそこに泊まることはできない。』と言う気持ちは分かるが、爺さんが来た時に何か問題がないかどうかのチェックも兼ねて、あそこに泊まってくれよ。

 第一、あのゲストハウス以外、この村にはお前が寝泊りできる場所なんてないぞ。」

「確かに、お爺様を泊めるには、あのくらいの家が必要だというのは理解できます。

 でもそこに私が泊まれるかどうかは別問題です。

 家臣である私が、領主のカランプル様たちより大きく豪華な家に宿泊だなんて、あってはならないことです。

 あの家に泊まるのは、私は断固拒否です。

 泊まれる部屋がないというのなら、夜は学校に子供たちはいないでしょうから、そこで寝袋にくるまって寝るから大丈夫です。

 砂漠の小屋に泊まる為の寝袋があるから心配不要です。」


うーん、まいったなあ。 ウィークは本当にゲストハウスに泊まるのは断固拒否らしい。

困った本当にウィークを泊める所がないぞ。

「仕方ないな。 村長さんに泊めてもらえるように頼むしかないかな。」

僕がアークにそう言うと、アークも

「そうだな、それしかないかな。

 あと泊まれるところは、新米魔技師のアパートの一室か、雑貨屋の御者の休憩室くらいしか無いからな。」

ウィークが聞いていて、いとこの気やすさからかアークの言葉に口を挟んだ。

「なんだ、泊まれる所あるんじゃないですか。

 その新米魔技師のアパートって、どう言うところですか。」

アークが説明してやる。

「言葉の通りだよ。 まあ、学生のアパートに毛が生えたくらいの部屋だな。

 ま、少なくとも俺が学校時代に住んでいたところよりはマシだけどな。」

「じゃ、そこで良いです。

 私だって、兄さんよりいくらかマシな所ではあったけど、学生時代はロクな所に住んでませんでしたからね。

 それよりマシな感じなら十分です。」

「えっ、アークとリズ以外の貴族の子弟も、学校時代は似たり寄ったりのところに住んでいたの?」

僕はちょっと意外な事実に、今の言葉から気がついてしまった。

「当然だろ。

 何も俺やリズが特別酷い待遇に置かれた訳じゃないよ、少なくとも学校に通っている時はな。

 魔法学校に通っている時だけは、最低限の生活をさせるというのが、貴族の伝統なんだ。

 なんでもこの砂漠地帯にフロンティアとして入植して来た先祖の偉業を忘れない為、という大義名分なんだ。」

へぇー、知らなかった。

それじゃあ、学校時代は庶民の学生の方が恵まれた生活をしているんだな。

少なくとも僕は学校時代は婆さんも生きていたし、エリスもおじさんもおばさんもいたから、生活は恵まれていたな。


もう仕方ないという感じで、ウィークを新米魔技師のアパートの空き部屋に案内すると、

「なんていうか、懐かしいような雰囲気だな。

 それに僕が学生時代に暮らしていた所よりは、ちょっと広いし設備も充実している。」

となんとなく気に入ってしまったようだ。

このアパートには、アパートの入居者が集まって楽しむというか、一緒に話したり、寛いだりができるようにと、ちょっとした広間が作られているのだが、ウィークはそこで、

「僕も君たちの先輩だ。」

と、意外にも庶民の魔技師に混ざって、村にいる数日の晩を楽しんだりもしていた。

まあ、新米魔技師にしてみると、ブレイズ家の家臣といっても知らない人物だが、先輩風を吹かすだけで害はなさそうで、食事を奢ってくれるということで店の食堂の方に行けば、

「あら、ウィーク、今日は家の方に来ないの?」

「はい、今日は後輩たちと夕食を楽しみたいと思いまして。」

なんて言っていたと思ったら、色々たくさんの料理を出してもらえる恩恵に預かった。

そんなことだろうが、彼らに気さくに接する姿は、王都での貴族然とした姿とは違っていた。


村に滞在することをウィークは楽しんでいたようだが、そんなに長く村に居る訳には行かない。

次の王都行きの順番になったフランとリネと共に、すぐに王都に戻って行った。


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