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2度目の実の出荷

村長さんが村人たちに話をして、

「自分たちでも村の発展のためにも木をうえよう。」

という気運を立ち上げてくれた。


村長さんが自分から率先して、木を植えるための水の魔道具を店に注文する。

その注文を受け、代金を受け取った娘のサラさんが、

「私も一本植えることにするわ。」

と自らもお金を出して、自分の分の注文を記載した。

「今、ワシはエリス様の店で木を一本植える注文をした。

 これだけで、あとはカンプ様たちが私が注文した木を植えておいてくださる。

 植える木は何種類か選べることになっているが、ワシとサラが選んだのはエリス様の父上様がお薦め下さったクルミの木じゃ。

 木が大きくなれば、出来るクルミの実も、またいらない枝を切ればその枝も、注文したワシの物になるので、木を植えることは財産を増やすことにもなるのじゃ。

 ワシらはこんな風に、時々一本づつくらいしか木を植えられはしないかもしれない。

 でも村人みんなが、幾らかづつでも植えていくことは、我々自身が積極的に村の発展を後押しすることになるのじゃ。」


村長さんの熱い言葉は村人に届いて、村人は余裕がある時には木を注文してくれる様になった。

でも、最初のうちは、それはごく村人の極一部にしかならなかった。

でもそれは仕方がないと、村長さんだけでなく僕たちも納得できる理由があった。


この村への移住は、自分たちで馬車を調達して移住してくるのはなかなかハードルが高いので、ペーターさんが担当責任者となり格安での移住用の馬車の運行をしてあげたのだが、最初に若い魔技師を移住させた後は、元村人の家族の移住となった。

若い魔技師は、アパートというか寮というか、若者のための有料の家を用意したし、新米とはいえ魔技師なので、魔石に魔力を込めればそれなりの収入にはなり、生活に金銭的に困ることはないので、すぐに村での生活に慣れたみたいだった。

まあ、先に学校時代の友人がこの村で生活していたから、その実情についての知識もあったこともきっと大きかっただろう。

しかし、問題は元村人とその家族の方だった。

彼らはまずは自分たちの実家に身を寄せたのだが、魔技師の様に簡単に定収入を得られる様な術を持ってはいないからだ。

将来的には、彼らも自分の家と畑を持ち、自分たちの収入で生計を立てていくつもりの様だが、そんなに簡単に新たな畑が得られる訳もない。

とりあえずそれまでの蓄えと、実家の援助でダイドールが割り振った土地に、畑にするための塀を土の魔技師に作ってもらっている。

囲いの塀が出来てもすぐに畑として使える訳ではない、村では畑作りのノウハウがかなり確立してきたのだが、水を撒いて草を生やし、それを刈って砂漠ミミズに食べさせて、畑を肥やすという作業をまずしなければならないから、即座に畑として自分たちが食べる物、売ることができる物を生産できる訳ではないのだ。

そんな移住者を受け入れている村人は、彼らをとりあえず養って、援助しなければならないので、そのために今までの蓄えを吐き出している真っ最中だから、とてもではないが木を植える注文をする余裕はないのだ。


逆に言えば今、木を植えるのを注文している村人は、移住してくる者を抱える予定がない人たちということだった。



そんなこんなで、今までとは違う移住者が増えていくことで、村はバタバタしているのだが、まあ、言えば予想出来ていた混乱で収まっている。

一時、生野菜の供給量が足りない感じになったこともあったが、それほど長い時間ではなかった。

子供たちは、学校での友達が増えていくことが嬉しいみたいだった。

教えているリズたちは、新たに入ってくる子の学力もバラバラだし、うまく学校に馴染んでもらえる様に気をつけたりで、ちょっと大変そうだったし、土の魔技師さんはあちこち色々忙しそうだった。

ペーターさんたちが移住のための馬車の運行に忙殺されてしまったので、木の植林や手入れの人手が足りなくなり、おじさんの進言で何人か人を雇うことになった。

移住者の中から人を選んだので、喜ばれたが、正直に言えば今は出費になることは嬉しくないんだよなぁ。


と、なんとなく忙しく過ごしていたら、2度目の木の実、いやルルドの実がなる季節が近づいてきた。

「カンプ、今年はルルドの実の販売方法を去年とは変えない?」

夕食が終わった後、エリスからそういう提案がなされた。

なんだかもうそれが普通になってしまったのだが、夕食はみんなというか、家臣に数えられている者はみんな集まって、僕らの家で取ることになってしまっている。

そのために厨房は多人数分が作れる様に、アークと改造してしまった。

まあ、料理は半分はおばさんが料理教室兼食堂で作った物を持ってきていたりする。

最初居間と応接室に分けて作られたはずの部屋は、今ではもう完全に一体化してしまい、通しの部屋として使われてしまっている。

そして夕食の後、ほぼ毎日の様に雑談の如く、村の運営などについて話し合いがされるのだ。


そんな訳だから、夕食時から村長とサラさんが参加していることも結構多い。

今日はそんな日だ。


「えーと、エリス、どういうこと?」

リズがすぐに反応した。

「去年、ルルドの実の今まで来ていた買取業者とかなりやり合ったじゃない。

 そしてその中の一つの業者とは暴力行為に及んだトラブルもあったりもしたわよね。

 そういうことを完全に避けたいと思うのよ。」

エリスはそんなことを言った。

「エリス様、そう言えば私、報告することを忘れていたことがあります。

 エリス様が捕縛した強盗ですが、少し前に司法局より報告がありまして、背後関係が知れました。

 本当に馬鹿な奴だと思ったのですが、あの者を唆してこの村の店を襲わせたのは、その暴力行為に及んだ後、砂漠の小屋でもトラブルを起こし、結局潰れた西の町の業者の男でした。

 まあ、何て言いましょうか、逆恨みでその様なことをしたみたいですが、潰れる前に私が店を訪れた時に司法局の者にも同行していただいていたからか、とても悪質だと判断され、その業者も司法局に逮捕されて、強盗犯と共に刑に処されたとのことです。

 ということですので、今年は去年の様な酷いトラブルが起こることはないのではないかと思います。」

ターラントがそんな報告と意見を言った。


おいおい、あの強盗にはそんな裏があったのかよ、と僕はちょっと驚いた。

逆恨みもいいとこじゃん、結局自滅していったことになったけどさ。


「エリスもあの悪徳業者が潰れたのは知っていたよね。

 ということは、それを言い訳にしているけど、本当はルルドの実の売り方を変えたい別の理由があるんじゃない?

 素直に白状したら。」

ラーラがそんなことを言い出した。

「ラーラには叶わないなぁ、分かる?」

「分からいでか、さあ、白状しなさい。」

「まず第一に、肌水のためになるべく多くのルルドの実を確保したいということがあるわ。

 今年は去年と比べると、ルルドの木の数も増えているから、去年以上にルルドの実が収穫できることは確実よ。

 その増えた実を、その種を肌水のためにしっかりと確保したいの。」

「えーと、どう変えればしっかり確保できると考えているんだい。」

アークがエリスに訊いた。

「あのね、買取業者さんにはこの村に来てもらうことなく、東の町の百貨店の倉庫でルルドの実を渡すことにしたいの。」


ちょっと考えてみて、僕はどういう利点があるのか分からなかった。

百貨店で買取業者に受け渡すことにすると、そこまで輸送する手間は全部こっち持ちになってしまう訳で、利点ではなく損をすると考えたのだ。

その疑問をエリスにぶつけた。

「えーと、良く分からないな。

 エリスのその方法だと、百貨店に運ぶ手間はこっち持ちだから、かえって損をすることになると思うのだけど。」

「確かに輸送ということだけでいえば、損になってしまうわ。

 でもそこで損をしても、そうしたい訳があるのよ。

 一番は買取業者さんに、この村で収穫できる実の総数が大体どのくらいの量になるかを把握させない様にすることよ。

 業者さんにしてみれば、去年より今年の方がずっと大量に収穫できると分かったら、値段を下げる交渉が始まるわ。

 それはともかくとして、もしそれで安く売らなければ、何故安くならないかを疑われるし、安く売れば、より多く売れるだろうと踏まれて大量に買い付けられてしまう。

 ルルドの実の種の使い道の秘密を保持したり、量を確保するには、どちらも避けたい事態なのよ。

 去年と同じ値段だけど、百貨店の倉庫で受け渡すということにすれば、買取業者にしてみれば、輸送の手間だけ楽になったと感じて喜ぶと思うわ。」


なるほど、色々と考えた上での提案なんだなと僕は思った。

というか、結構腹黒と言ってよいような提案の気がする。

こういうことをしっかり考えている点で、エリスはやっぱりここに居る誰よりも、もちろんおじさん・おばさんは例外だけど、やっぱり商人なんだなと思う。


「でもエリス様、値段が同じで輸送に掛かるコストがずっと少なくなるなんていう好条件だと、買取業者の方では何か裏があると疑ってきませんか。」

ダイドールがそうエリスの提案の問題点を指摘した。

「そこは大丈夫。

 今回から生で販売するルルドの実は、その多くを砂漠の中間点の小屋、もう小屋とは言えない立派なモノになっちゃってるけど、とにかく中間点にある木になった実を持ってくることにした、というのよ。

 あの中間点で出来た実をこの村で売ることにすると、収穫してこの村に持ってくるのに1日、またその実を持って町に向かうのに1日と、中間点から直接町に持っていくよりも最低でも2日、いえこの村で荷造りするからたぶん3日多く町で売るまでに時間がかかるのよ。

 それによっての収穫した実の傷みを考えたら、中間点から直接町に持って行ってしまう方がずっと無駄がなくて効率的よ。

 だけどさすがに中間点で、実の個数を揃えて荷造りしたりの作業は出来ないから、村でやっていたそういう作業を町に持って行ってからしなければならない。

 まあ、それはそんなに大変な作業ではないから、百貨店の倉庫でも出来るわ。

 そういう理由があるから、町で買取業者さんに受け渡すことになったと言えば、業者さんも納得するのではないかしら。

 より新鮮な実が得られるという利点もあるから業者さんも納得できるでしょうし、去年の中間点でのトラブルで、中間点にもルルドの木があることは、業者さんたちも強く印象に残っていて、ルルドの木は水分があれば大きくなることを業者さんは、ま、本当にはそれだけが条件ではないことを私たちは知っているけど、業者さんはきっとそう思い込んでいるから、中間点で採れる個数が大幅に増えたからの措置だと言えば、容易に納得すると思うのよ。」

エリスはダイドールが指摘した問題点にスラスラと答えた。


「エリス様、参りました、全て考えた上でのご提案だったのですね。」

ダイドールは驚いた顔で降参した。

「エリス様、本当に凄いです。」

サラさんが尊敬するという感じで言った。

「そんな大したことじゃないのよ。

 今、話した中間点の実を直接町に運ぶということは、本当に無駄をなくすにはどうしたら良いかという、商人として商品のコストを常に下げたいと考える本能みたいなことから出たわけで、何も特別なことじゃないわ。

 ただ、それが今回は、肌水の秘密や、ルルドの実の種の量の確保という目的に、上手く利用できることに気がついただけよ。」


エリスはそう謙遜のつもりで言ったみたいだが、どうやら逆に取られたようだ。

「エリスさん、やっぱり本当に凄いです。

 商品のコストをどうしたら抑えられるかを常に考えているなんて、私、想像もしたことありませんでした。」

フランがそう言うと、

「そして、それがこの村の大きな収入源の秘密を守ったり、原料の量の確保に役立つと気が付いて実行を計画することがもっと凄いです。」

リネがそう感嘆した。

「商人というのは、そういう風に色々と気を配り、常に考えていなければならないのですね。

 私もいつかエリス様のようになれるでしょうか、いえ、いつかきっと私もエリス様のようになれるよう努力していきます。」

なんだかサラさんが決意を新たにしたようだ。


「だから前から言っているだろう。

 ブレイズ子爵家で一番偉いのは実はエリスなんだと。」

「そうね、私たちやラーラにとっては、それは当たり前のことなのだけど、他のみんなにも良く分かったんじゃないかしら。」

アークとリズがそんなことを言うと、おばさんが

「あらあら、エリスは随分と偉くなったのね。」

と、からかいの言葉をエリスに言い、それに対しておじさんが言った。

「カランプル、こういう時、男は黙って顔に微笑みを浮かべていれば良いのだぞ。

 それが男の器量というものだ。」

その場にいたみんなが爆笑したが、僕とエリスは苦笑するしかない。


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