領地の運営の仕方のちょっとした変更
僕とエリスが領地に戻って、王都に行く前に話していた新たな移住者の件について、本格的に動くことになった。
ただし、そこでは今までの移住とは明確な線引きをすることとした。
というのは、今までの移住者は自分たちでやって来て、土地だけは用意していたが、他のことは建物を建てることから始まり全て自分たちで行った組合関係を除けば、全て僕たちが移住の準備をして招いた移住者だけなのだ。
僕たちがこの村で仕事をしたり、この村を発展させるために行う事業のために必要だから、わざわざ招いた人以外、まだこの村に移住して来た人はいない。
多くはカンプ魔道具店の関係者で、例外といえば、この村に来てくれていた火属性の魔技師さんたちくらいだろう。
でも彼らも、村の魔技師の不足を補うために招いたのであって、勝手に来た訳ではない。
本当の例外といえばおじさんとおばさんの2人だけだろう。
それだから、今までは移住してくる人のための家を用意し、もちろん仕事も用意し、家族に必要な畑の土地も用意し、引越しの馬車の手配もこちらでした。
まあ、至れり尽くせりという感じの移住である。
しかし、これからの移住はそんな訳にはいかない。
条件が全く違っていて、これからの移住者は招いた訳ではないのだ。
「学校を出たての魔技師に関しては、まだ若いこともありますから、こちらでアパートの様な物を建てて、そこに住んでもらい、きちんと家賃をもらうことにしたいと思います。
魔技師ですから、組合で魔石に魔力を込める仕事をすれば、十分に暮らしていけるはずです。」
「アパートは私が建てることになります。
一応多いかと思うのですが、10室というか10戸というか、その程度の規模の東の町にある学生相手のアパートをちょっとだけ広くした物を考えています。」
ダイドールとターラントがそう言って、計画を述べた。
「こちらに移住したいという者には、その条件は伝えてあるのかな。
あの3人と同じ条件だと思われていると困るんだけど。」
僕がそう言うと、フランが
「大丈夫です、そのことはきちんと伝えているそうです。
そもそも私たちがカンプ魔道具店に東の町で働き始めた時と、条件としては変わりがほとんどないのですから、これで文句がある人は来ないで構わないと私は思います。」
うん、そうだよな、甘やかしてはいけない。
「それから元村民だった人たちの移住に関してはどうすることにするの?」
「そちらは、当初は村の親戚に身を寄せることから始めてもらうことになります。
家や畑を新たに持つことは、場所の斡旋はこちらですることにします。
無秩序に家や畑を作られては、今後の村の発展にとって困りますから、そこは抑えたいと思います。
新たに区画する土地についても、道に街路樹を植えていくことにしますが、それ以外の畑の囲いや、家作りに関しては、当人たちに任すことにします。
つまり自分たちで作るも良し、新たに来た魔技師の中で土属性の者を探して作ってもらうも良し、きちんと労賃を払うなら、ターラントやカンプ魔道具店の他の土の魔技師が請負っても良いという形を考えています。」
これもダイドールの言葉だが、それに続いてアークが発言した。
「問題は、元村人の仕事だな。
きっと元村人たちは、村人たちの現在の畑と作業場での仕事という二重の収入の話を聞いて、自分たちもすぐにその恩恵に預かれると思って村に戻って来たがったのではないかと思う。
けど、現状で急激に増やすことのできる作業場での仕事はないから、作業場の仕事は現在それをしている今の村人たちが優先となる。
そこで不満が出るかもしれない。」
ここで村長が口を開いた。
「その点は私の方で、今の時点で村人たちに注意をしています。
移住して来た者が村に到着したら、その都度それらの者にも注意するようにしましょう。」
サラさんも口を開いた。
「出来た作物を店の方で買い取ったり売ったりというシステムは、元の村民たちは知りません。
まあ、その説明は村人たちがすぐにしてくれると思うのですが、ここで買い取ったり売ったりする作物の量が増えると、それぞれの作物の需要供給バランスが崩れることもあると思います。
そうなると、作物の買取値も売値もそれに合わせて上下することになります。
まだその辺のことを村人は良く分かっていません。
今から、店ではその辺のことの注意を喚起したいと思います。」
はい、2人ともよろしくお願いします。
それにしてもサラさんは本当に一人前の商人になってきたと思う。
「ダイドール、移住して来た人の名簿の管理はあなたの担当だけど、子供たちはきちんと学校に通うように促してね。
それと流石に町で暮らしていた人には、自分が魔力を持っているかいないかを知らない人はいないと思うのだけど、どうかしら。」
リズがそう言うと、ダイドールが
「学校に通う年齢の子供の名簿は確実にリズ様にお渡しします。」
と答えたのだが、魔力を持っている者がいるかどうかは判断できなかった。
サラさんが
「町で学校に通っていたかもしれない子供は分かっていると思いますが、大人は、というか元村民の大人は私たちと一緒で、もしかすると町で暮らしても分かっていないかも知れません。」
と考えながら答えた。
「それじゃあ、やっぱり、移住して来たら、一度学校を訪れるように手配して頂戴。
新しい村を移住して来た人に案内する必要が最初あると思うのだけど、案内する人に学校に、というか私に必ず会うことを義務付けて。
一応チェックしましょう、もし魔力があれば少しは収入が増えるはずだし、村としても利益があるから。」
リズがそうまとめた。
「ええと、ここで少し残念なこと、なのかな、とにかく今までとは少し領地の開発の仕方を変えなければならなくなったことを、みんなにも知らせておきたい。
どういうことかというと、僕は今まで魔石に回路を書き込んだり、魔力を込められさえすれば、どんどん植林することが出来て、村を住みやすく変えていけると思って過ごして来た。
ま、確かに木が増えたことによって、僕たちがここに初めてやって来た時から比べると、まず第一に木陰が増えたし、空気が変わって過ごしやすくなってきたと思う。
それに明らかに最近は風が木に遮られて弱くなっている気がするし、それに伴って砂埃も少なくなった、つまり村では砂があまり移動しなくなった。」
みんなは僕が話す内容に頷いている。
みんなも僕と同じように感じていたみたいだ。
「それから、ルルドの木も以前よりたくさん植えられているので、多く取れるようになったし、不要な枝などを利用して、王都や町で売る物も作れる。
落ち葉なんかが畑の肥料になるのはもちろんだ。
だから、木を増やしていこうという方針は間違っていなかったと思うのだけど、ここに来て問題が起こった。」
僕が一気にここまで話すと、ちょっと一呼吸おいた。
みんなどういうことかと真剣な顔をしている。
「まあ、当然考えられる事態で予想できたことなのだけど、エリスの計算によると今現在以上のペースで植林を進めることは、資金の点で無理が出てきてしまったということなんだ。」
一瞬、全員沈黙した。
「ああ、そういうこと。
植林した木というか、まずは街路樹からだろうけど、そろそろいくら少量ずつしか水を使わないとはいえ、水の魔道具の魔力が切れ出したわよね。
その交換の魔石の資金もどんどん必要になってきたから、今まで回してきたカンプ魔道具店の利益だけでは資金繰りが厳しくなってきたってことね。」
リズが簡単に状況を把握したようだ。
「うん、カンプは魔技師が増えたから、これまで以上に植林を進めるつもりだったみたいだけど、正直なところ、今のペースの植林を続けるのがやっとのレベルなのよ。
カンプ魔道具店から上がってくる利益は、もうほぼ魔道具が行き渡って、そんなに急激には増えないし、この村で得られる10分の2税の半分も、流石にそんなに一気に増えてはいかないわ。」
「エリス様の言われる通り、この村の開発資金のほとんどはカンプ魔道具店から投資の形で出していただいている物です。
税収も以前から比べるとずっと多くなったのですが、それ以上に植林と交換の魔石にかかる費用が多くなっているので。」
エリスの言葉をダイドールが肯定した。
「ま、言われてみれば、当然なことだな。
これは予想できたことだし、エリスはもちろん最初からこういう時が来るのを考えていたのだろ。
俺たちはどうもそういう帳簿のことはエリスに任せきりで、忘れちゃうんだよな。
もう少し長い目で地道にということだな。」
アークがそう言うと、サラさんが
「私は町に行った時に、カンプ魔道具店とエリス様の雑貨店はなんて大きなお店なのかと驚いたのですけど、やはり流石にこれだけ植林にお金をかけると当然無理がありますよね。
今までこんなにたくさん植林できるだけの資金があったことの方が、最近お金の価値が分かるようになった私には驚きです。」
と言った。
「まあ、そういう訳で、僕としたら、魔技師の数が増えたから、リネには持てる魔力の全てを水の魔石作りに使ってもらって数を増やそうと思っていたのだけど、そうはいかなくて、現状のペースを維持だ。
エリスの計算だと、それだとなんとかなるということだから。」
「はい、分かりました。」
リネが素直に承知した。
「でも、ここで、おじさんから一つ提案があったんだ。
何かというと、今まで植林は領地の事業として全て、こういう言い方をすると偉そうだけど、ブレイズ家が領主としてしてきたことになる。」
みんな、「うん、それはそうだ。当たり前のことだ。」という顔をしている。
「だけど村のためになる植林を領主家だけですることはないということなんだ。
村人にも、ま、その他の人でも構わなのだけど、誰でも水の魔道具を買いさえすれば植林することは出来る。
そういう水の魔道具を買って、木を植えてくれる人を募集することにしたい。
資金を出してくれた人が植えた木は、その人が管理も請け負うことにしたいのだけど、その代わり、その木から得られる利益はその人の物となることとなる。
具体的には、おじさんのお勧めの木は、今なら風が以前より弱くなったので育つ、胡桃などの木の実がなる木だそうだ。
木の実がなれば売り物になるし、いらない枝などを切ったら、それは店で買い取ることにしたい。
そうすれば交換の魔石の値を超える利益を将来的には得られるはずで、植えた人の財産の一つとなるだろうとのことだ。
問題はどこの木が誰の物かをきちんと管理するために、事務作業が増えるということかな。」
「カンプ様、大丈夫です。
その事務作業は私とターラントで十分に引き受けられると思います。」
ダイドールの言葉に、ターラントも大きく頷いた。
「カンプ様、私はすぐにでも水の魔道具を買って、木を植えますぞ。
カンプ様たちのお陰で以前よりも裕福な暮らしをさせていただいていますが、幾らかは金銭的な余裕も出来ました。
この歳ですから、何かお金を使って楽しむということもありません。
それよりそれを使って村の為になることが出来るなら、私はとても嬉しい。
尚且つ、財産にもなるということなら、尚更です。
何より、村の発展のための努力に自分も加われることが嬉しいのです。
何から何まで、今まではカンプ様たちに頼りきりでしたからな、幾らかでも自分もそれに加われると思うと本当に嬉しいのですよ。
私から村人に、木を自分たちでも植えようと大々的に勧めてみることにします。」
「お父さんがするなら、私もやろうかしら。
私も今までは家の収入しかなかったのに、店員として私個人で給料をいただいているから、時々なら買えるかしら。」
サラさんもそんなことを言う。
「ねえねえ、リネ、私たちも植えようか。」
「そうね、私たち王都に肌水納入に行くから、必要経費で服まで買って貰えてるから、使い道が決まってないお金あるものね。」
2人の会話を聞いたリズが言った。
「あなたたちはダメに決まっているでしょ。
そもそもあなたたち2人はブレイズ家の家臣なんだから、あなたたちが植えてもブレイズ家が植えたことになっちゃうわよ。
家臣と領民では立場が違うのよ。」
「あ、そうだった。
私たち、カンプさんの家臣だった。」
 




