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移住

王都の館についてのあれこれが、とりあえずやっと終わって、僕たちは領地へと戻って来た。

「エリス、2ヶ月毎になんて言わないで、もう少し間を空けないで王都に来れないの?」

王妃様はエリスにそんなことを言っていたが、それは丁寧に辞退した。

王都までの往復の日数を考えると、王都に来ると最低10日の日数がかかり、そう度々王都に来ていては仕事が滞ってしまうのだ。


僕たちは2ヶ月に一度、アークとリズにはその間の月に同様に王都に行くことにした。

二週間に一度は誰かしら行くことにしたので、それ以外の時をダイドール、ターラント、フラン、リネ、そしてラーラとペーターさんに埋めてもらう。

後はごくたまにだけど、おじさんとおばさんも同行することがある。


そんな風に僕らは二週間に一度なのだが、売り物の荷は最近は毎週の様に王都と行き来する様になった。

ま、そっちの方はおじさんの店の荷馬車が一台で回るのではなく、二台体制に変わったからということもある。

領地の村から売り物を運ぶだけでなく、最初は領地に持って来る荷物も少なかったのだが、今では毎回かなりの荷物を持って来る様になった。

エリスの店も前に拡大されたのだが、もう一度大きくしようかという話が出るほど、様々な物が売られる様になって来た。

今ではサラさんは、村で売る物を仕入れるために、東の町に行き、百貨店に入っている店と交渉したりもする様になった。


しかし、ここにきて村には問題が発生した。

予想されていた問題ではあるのだが、いざ起こると本当に困ってしまう問題だ。

どういうことかというと、植樹した木に付属している水の魔道具が魔力切れを始めたのだ。

植樹した木に付属している水の魔道具は、木の一本に一つで、発生させている水の量も最低限に絞って必要な量を細かく管理しているので、そんなに魔力を使わない。

それだから、魔力を溜めた魔石一つでかなり長い時間動いていたのだが、流石に最初の頃植樹した街路樹の魔道具から始まって次々と魔力切れを起こして、交換に追われることとなってしまった。

水の魔道具に使う交換の魔石は、それ専用の僕たちの領地内だけで使う物だから、魔力を込めるのも全て村の中で行っている。

その水の魔道具用の交換の魔石の数が追いつかなくなってきているのだ。

とりあえずは今までは普通の交換の魔石に魔力を込めてもらっていた火の魔技師さんにも、水の魔道具用の交換の魔石に魔力を込めてもらうが、すぐに対処できなくなりそうだ。

うーん、困った。


もうどうしようもなくて、少し植樹を休止するしかないかな、なんて話も出ていたのだが、全く考えていなかった方向から助けが来た。

それは学校を出たばかりで、村にやって来た3人からだった。


ある日、リネが僕に相談して来た。

「カンプさん、新しく入った3人が何か相談があるそうなのですが、聞いて上げてもらえませんか。」

「うん、構わないよ、いつでも連れて来て。」

「今でも良いですか、実はもう来て待っているのですけど。」

「それなら入ってもらって、別に遠慮することないから。」

リネが呼びに行くと、すぐに3人も入って来た。

「カランプル様、お時間を取らせてしまって、すみません。」

「前にもいったけど、そんなにかしこまった言い方をしないでいいよ。

 今はただ単にカンプ魔道具店の店長と、そこの従業員という関係なんだから。

 それに緊張して立っている必要もない、適当なとこに座って。」

僕は3人に椅子を指し示し、リネには僕の隣に座ってもらった。

「あなたたちも大丈夫よ、カンプさんは言葉使いなんて拘らないから、気軽に何でも話して構わないのよ。

 私も公の場所では子爵様とかカランプル様と呼ぶのだけど、普段はカンプさんと単なる先輩に対する呼びかけと同じで許してもらえてるくらいだから。

 このカンプさんの治める地では、エリスさんも、アークさんも、リズさんも、みんなそんな調子だからね。」

「うん、リネの言う通りだから、君たちも僕のことはカンプさんで構わないよ。」

リネが後輩をリラックスさせるためだろう、いつも以上に何だかフランクな言葉使いをしていて、ちょっと新鮮だ。


「あの、それではカンプさん、実は一つ相談があって来ました。」

1人がそう切り出すと、違う1人がこう付け足した。

「でも、従業員として店長に相談するという話ではなくて、領主様に対する相談ですから、やっぱりカランプル様か子爵様って言わないといけないかな、とも思うんですけど。」

「別に領主に対するというのでも、カンプさんで構わないよ。

 それで一体どんな話?」


3人の話というのは、村への移住希望者が居るのだが、どうしたら移住できるだろうかという話だった。

3人の魔法学校での同級生が、この村への移住を希望しているということだった。


なんでも3人は魔法学校の中で、貴族の中では浮いた存在だったらしい。

まあ、僕たちの求人に応じるくらいだし、1人はレベル2なのに魔技師を目指していたというから、貴族出身学生の中では確かに異端であったのだろう。

そんな訳で、3人は貴族なのに、貴族の級友たちよりも庶民の級友たちとの方が仲が良く、付き合いも多かったらしい。

ま、その辺はアークやリズも似たり寄ったりではあった訳だけど。

で、まあ、彼女たちの言葉によれば、彼女たちの友人である庶民出身の学生には、何人ものこの村への移住希望者がいるのだという。

彼女たちが僕たちの求人に応じてこの村に来たことは、かなり羨望の眼差しを受けたらしい、自分たちが出来るならばその求人に応じたかったと。

うん、確かに魔石に用いるキーの秘密を保持するために、求人を貴族の子弟に絞って行ったからな、庶民出身の学生は応募の対象になっていなかった。

その求人に応じたかったけど、選考の対象になっていなかった彼女たちの友人が、彼女たちがこの村に来て、何の問題もなくしばらく経ったので、どうやらこの村への移住の伝手はないかと頼られたということらしい。


僕は話を聞いて、即座に「希望者は全員受け入れる。」と言ってしまいそうになった。

今、村はとにかく魔石に魔力を込める魔技師が不足していて、本音を言えば魔技師が喉から手がでるくらい欲しかったからだ。

僕は口から出そうになった言葉を飲み込んで、3人に言った。

「話は良く分かった。

 でも今この場で即座に返事することはできない。

 というのは、この村では僕が領主になってから、僕の家族と家臣たち、及び君たちも含まれるのだけどカンプ魔道具店の関係者、後はその関係で開設された組合の人たち以外、1人も外部からの移住を受け入れていないんだ。

 だから、移住をどうやって受け入れていくか、その方法から考えなければならないんだ。」


3人は僕の言っていることが、ピンときていない様だ。

僕は少し簡単な説明をした。

「例えば、君たち3人が今暮らしている家は、僕たちの方で用意しておいた家だよね。

 それはカンプ魔道具店の従業員だから用意されていたと考えて欲しい。

 君たちの友人が移住してきてくれたら、正直嬉しいけど、カンプ魔道具店の正式な従業員として雇用できるかというと、それは出来ない。

 出来ない理由は、君たちを雇用したときに誓約してもらった内容から理解できるよね。

 だとしたら、従業員でもない人間に対して、家を用意することは出来ないから、移住して来る人たちの家はどうしようか、という話を領主として、村として考えなければならない。

 そういう問題が他にも色々とある訳さ。

 理解出来たかな。」

「はい、確かにこの村には余っている家なんてありませんし、学校の時の寮みたいな物もないですから、移住したくても住む場所にも困ります。

 でも、私たちの家にも詰め合えば、もう何人かは生活できると思います。

 まずはそこから始めても良いですか。」

「ま、しばらくならそれでも確かに住むところの問題はクリアできるけど、そもそもにおいてここに移住して来る交通手段がないでしょ。

 君たちはこちらで手配した馬車に乗ってこの村にやって来たのだけど、自力でこの村まで来るとしたら、歩いて来るのはもちろん大変だし、送ってもらう馬車を手配するのも大変だよ。

 この村と町とを結ぶ定期的な馬車なんて無いからね。

 今では砂漠の中間点に安全で快適な小屋があるから大分マシになったけど、つい最近までは村から町に行くのは、選ばれた男たちだけができることだったんだよ。」

「そうでした。

 私たちは用意されていた馬車に、それも私たちが乗るための馬車と荷物を運んでもらうための荷馬車の二台も用意してもらって、何も考えずに問題なく村まで来てしまいましたから、そういう現実を忘れていました。」

3人はちょっとシュンとなってしまった。

「とはいえ、この村では君たちも分かっているだろうけど、魔技師がとても不足している。

 大急ぎで前向きに検討するから、友人たちにはもう少しだけ待って欲しいと伝えてくれるかな。」

「はい、了解しました。」

3人は明るい声でそう言うと帰っていった。


その日の晩、僕たちはこの件について話し合った。

僕の家臣と遇されている者たちに加えて、今回は村全体に関わる話なので、村長さんとサラさんにも話に加わってもらった。


「確かにカンプが即座に『受け入れる』と言ってしまいそうになったのは理解できるわ。

 私たちの今一番の問題を、一気に解決出来る話よね、これ。」

リズが僕の説明が終わった途端にそう言った。

「もちろん当然のことながら受け入れる方向で考えて行くのだろ。」

アークもそう言ってくる。

「それはそうなんだけど、今まで移住者というのを考えてこなかったのは、移住してくる人たちを受け入れたら、食料に問題が出るからという大きな難点があったからじゃないか。

 だからまず第一にその点がクリアできるかなんだけど、村長さんはその辺どう思いますか。」

僕は村長に村の農業事情を聞く。

「今までこの村の総人口は、村で取れる収穫量から大体の人数の上限が決まっていました。

 ですから人数が増えて食料事情が苦しくなってくると、村から出て行き町に移住する者が現れるということを繰り返していました。

 収穫量を増やせない一番の理由は、使える水の量が少なかったからなのですが、現在は皆さんのお陰で以前よりずっと多くの水が使える様になりました。

 そして街路樹や風上側に植樹されている木の効果なのかと思いますが、風で移動する砂も減少して、以前よりずっと畑を作りやすくなっています。

 また、自動散水装置を設置する畑も増えてきたので、以前より少ない手間で畑を管理することが出来る様になったので、村人一軒当たりの管理する畑の大きさも増えています。

そんな感じで、今では以前より人口が増えても大丈夫なだけの収穫があると思っています。」

「確かに、野菜などの買取も以前より量が増えてきているわ。

 今現在は増えた分を、料理教室兼食堂の食材に回して処理しているから大丈夫だけど、そろそろ余ってしまうかもしれないわ。」

エリスもそんなことを言った。


「ということは、移住希望の新米魔技師たちを村で受け入れても大丈夫ということだよね。」

僕がそう言うと村長が言った。

「はい、確かにそのくらいの人数を受け入れることは十分可能だと思います。

 でも、それ以上の人数を受け入れるとなると、それは難しいかと。

 というのは、今村人たちはみんな、朝から昼までの午前中は畑で働き、昼からの午後は作業場で物作りをしています。

 そのお陰で、以前よりずっと裕福な暮らしとなり、畑の散水機の設置などが出来ているのですが、それでも午前中の間に出来る農作業には限りがあり、そろそろこれ以上畑を増やせないところまで来ています。

 まだ今のところは肥料分を補うために畑を休ませて雑草を繁らしたりする為に、余分な畑を持とうとしている村人が多いのですが、それもじきに頭打ちとなると思います。し

 そうなると作物の増産傾向が止まってしまいます。」

「それなら、村の人たちには葉物だとか、保存の利かない作物の栽培を主にしてもらって、保存が利く穀物の類は他から買い入れれば、もっと人口を増やしても大丈夫なんじゃない。」

リズがそんな提案をすると、ダイドールが反対した。

「いえ、それではもし何かの理由で穀物が手に入りにくくなると、村人が即座に飢えてしまいます。

 それはダメだと思います。」

「そうだね、領主としてまず考えなければならないのは、領民の安全だからね。

 穀物の栽培をやめて、その分の手間を保存の利かない作物に向けるというのは、私もなしだと思うよ。」

話を聞いていたおじさんも、そんな風にリズを窘めた。


「あの、よろしいでしょうか。」

サラさんが手を上げて発言の許可を求めた。

「今、この話の対象になっている移住者というのは、魔技師さんたちなのだと思うのですが、実は他にもこの村に移住したいという者がいるのですが。

 いえ、正確にはこの村に帰って来たいという人たちがかなりの数居るみたいなのです。」

僕たちはどういうことなのかと、詳しい説明を待った。

「先ほどの父の話の中に、以前この村の人口が増えて食料事情が悪くなった時には、町に移住して行った者も居るという話がありましたが、その数は結構多数になるのです。

そうして移住していった町で、家庭を持つ形となっていったのですが、その人たちが今のこの村の噂を聞いて、今ならば村に戻れるのではないかと考えたみたいなんです。」


なるほど、食料事情から仕方なく村を離れた人たちにしてみれば、望郷の念からも村で暮らしが成り立つなら、村に戻りたいという人も沢山居るのかもしれない。

それに今現在の村人は、畑と作業場での物作りという収入の道が二つになったことにより、忙しい反面、収入が増えて裕福になっている一面がある。

家族が村に居ればその状況は分かっているだろうから、村に戻って来たいと思う気持ちも当然かもしれない。

町に行った人の中には、結婚相手にこの村出身の人ではなく、現地で知り合った人との人も多いだろうけど、僕たちがこの村の領主となったことによって変化した村ならば、村出身でない配偶者や子供たちも、問題なく過ごせると判断されたのかもしれない。


「なるほど、それは魅力的な移住者ですな。

 元々この村出身の人であるなら、この村特有の農業事情などもなんの問題もなく初めから対応してくれるでしょうから、農地を増やし、食料を増産するための即戦力になっていただけそうですな。」

ターラントがそう言うとサラさんが、

「それにこの村の中に元の実家があるのですから、最初は実家の方の援助も期待できますから、以前と変わって進歩した部分も戸惑うことなく、村にすぐに馴染むことが出来ると思うのです。

 私、町に行く様になって分かったのですけど、以前なら町の人はこの村では暮らして行けなかったと思うのです。

 やはり町は色々と便利だなぁと思うことが沢山ありますから。

 でも今は、子供たちの学校もカンプ様たちが運営してくれていますが、私が働いているエリス様の店もあります。

 町で暮らしていた人も、そんなに不便を感じずに村で暮らすことが出来る様になってきていると思うのです。

 それに、そうしてこの村に人が増えていったら、この村はまだまだ発展すると思うのです、何しろ村の周りはずっと砂漠が広がり、土地は有り余っているのですから。

 その土地は見渡す限り領主であるカンプ様が管理する土地なのですから、きっとアーク様やダイドールさんターラントさんたちが計画を立てて、使いやすい町、住みやすい町にしていってくれるでしょうから。

 ですから、今、この村に移住してくるのは、私はとてもお勧めだとも思うのです。」

うん、何だかサラさんの言葉は移住を勧めるやり手の商人の様な感じだよ。


「よし、それじゃあ、これからどんどん移住者を受け入れていく方向で考えよう。

 ダイドール、移住者をどういう風に受け入れるかの計画を立てて。

 アーク、ターラント、新米魔技師が住める家、とりあえずは寮の様な形が良いのかな、

人数を確かめて建ててくれないか。

 必要な内装の魔道具なんかに関してはみんなでやろう。

 フラン、リネ、この結果をあの3人に伝えてやって、その後、後輩たちの移住に関する相談にのってあげてやって。

 ペーターさん、移住者が村にやってくる為の馬車の手配をよろしくお願いします。

 村長とサラさん、すみませんけど、元村人の移住希望者の取りまとめをよろしくお願いします。」


村に移住者が増えていくことになった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 元々の村がギリギリだったので人口調整どうしてるのかな?と思ってたんですが出ていってた人がいたんですね。そういう人達は昔と今の違いでほんとに自分たちの村なのか!?と驚きが見れるかもですね。
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