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パン騒動

次の日僕は、パン焼き窯の代金から魔石とミスリルの代金を引いた額の半分と、火鼠を狩って回路を組み込んだ魔石を持ってアークの家に行った。

とりあえず金銭的に困っている率の高いアークに先に報酬を渡したいと思ったので、僕の手元にはほとんど残らなかった。

「アーク、パン焼き窯の儲けのきっちり半額と魔石を持ってきたぞ。」

「ああカンプ、幾らになったんだ、えっ、こんなにか。」

僕は正直にアークにパン焼き窯の価格が幾らかになったかを伝え、その儲けの半分だと説明した。

「おい、まだ半額しか貰ってないなら、この金を全部俺がもらっちゃうと、お前の取り分がまだほとんどないんじゃないか。」

「お前の方が困っているだろ。

 俺は飯は隣の家で食えるし、家も実家で俺だけしかいないから、お前ほどは困らないんだよ。」

「そうなのか、正直に言えば、すごく助かるのだけど、本当に良いのか。」

「ああ、大丈夫だ。

 その代わり、魔石への魔力込めは頼むぜ。

 それの交換時の儲けも半分づつだからな。」

「了解しているよ。 俺はそんなに守銭奴じゃないぜ。

 この魔石に魔力を込めたらお前のところに持っていくよ。」

「午後は火鼠狩に行っている時が多いから、なるべくだったら午前中に来てくれ。

 大抵は居るから。」


僕はそれから三日間、魔石を取りに午後は火鼠狩ばかりしていた。

三日間で魔石を4個得ることが出来て、その間に一度アークがやって来てで結局アークが3個、僕が1個のパン焼き窯用の魔石に魔力を込めて、10日後には4個揃った。

これでいつ交換になっても大丈夫だと思ったのだが、普通の交換用の魔石や、エリスの家の分は足りてないので、その後も休日返上で自分の能力としては目一杯の3日で1個のペースで魔石を増やしていっている。


18日目の朝、僕がまだ寝ていて、いつもの通りにエリスが僕を起こしに来たと思ったら、僕の家の扉を何度も叩かれた。

こんな朝早くに誰が来たんだと思ったら、とても慌てた表情でベークさんが立っていた。

「カランプル君、すみません、朝早くから。

 でも窯の魔石の魔力が尽きてしまったんです。

 予定より早いのですが、もう交換用の魔石はありますか。」

「えっ、もうですか。

 まだあと三日程度の余裕があると思っていたのですが、でも交換用の魔石は準備してあります。」

「すみませんが、大急ぎで交換していただけますか。」

「はい、わかりました。」

僕は食事もとらずに交換用の魔石を持って、ベークさんと一緒にベークさんの店に向かう。

ベークさんの店の周りにはもう人が集まっていた。

「すみません、通してください。

 魔技師さんを連れてきましたから、もうすぐに焼ける様になりますから、もう少しお待ちください。」

ベークさんがそう言って、僕とともに店に入っていった。

「魔技師さん、早くしておくれ。」

「ベークさんとこのパンがすぐにないと、朝と昼の食事に困るんだよ。」

僕はそんな言葉を聞きながらベークさんの店に入った。

僕がすぐに魔石を交換するとすぐにベークさんは窯でパンを焼き始めた。

奥さんがお客さんに伝えている。

「今もう焼き始めましたから、もう少しお待ちください。」

大忙しで働いているベークさん夫妻を見て、とりあえず僕は交換した魔石を持って、家へと帰った。


家ではエリスが自分の家に戻らずに待っていた。

「カンプ、どうだった?」

「行ってみたら、ベークさんの店にお客さんが一杯待っているんだ、びっくりしちゃったよ。

 あれじゃあ、ベークさんが慌てるのも分かるなって思ったのだけど、朝のパン屋ってあんなにたくさんの人が集まるなんて、知らなかったよ。」

「それはベークさんのところで、一度にたくさんのパンを売る様になったからよ。

 前はそんなにたくさんの量が一度に売りに出なかったから、前の日なんかにパンを買っておいたのだけど、買えるならその日の朝に焼いた物を食べたいじゃない。

 ベークさんの店はそのお客さんの希望を満たすだけ毎朝きちんと大量のパンを売りに出す様になったから、それがこの辺りの人の当たり前にあっという間になっちゃったのよ。

 まだ、一ヶ月にもならないのだけど。」

「ふーん、そんなもんなんだ。

 ま、僕にはそういう話は良く分からないけど。」

僕はエリスの用意しておいてくれた朝食をガツガツと食べながら、話を続けた。

「それだけど、まだ2-3日は保つと思っていたのだけどなぁ。」

「そんなこと確かに言ってたわね。」

「何か窯に問題があったのかな、考えつかないけど後で点検に行ってきた方が良いかもしれない。」

「そうね、昼が終わった頃なら、パン屋さんも少し暇な時間ができると思うから、その時間にでももう一度行ってみたら。」

「うん、そうするよ。」


その後午前中は取り替えてきた魔石に魔力を込めたりして過ごし、昼食をエリスの家で食べていると、エリスの家の玄関の扉がノックされた。

おばさんが出て行くと、すぐに僕が呼ばれた。

「カランプル、ベークさんよ。」

「はい、すみません。

 ベークさん、ちょっと後で伺おうと思っていました。

 予定より早い交換になったので、何か問題があったのかと思ったのですが。」

「いえいえ、カランプル君、朝はありがとうございました。

 朝、混乱していたので、代金をお渡しするのを忘れてしまい、申し訳ありませんでした。

 家の方に行ってみたのですが、いらっしゃらないようなので、きっとこちらかなと思い、こちらを訪ねさせていただきました。

 遅くなりましたが、こちらが窯の代金の残り半分、そしてこちらが交換していただいた魔石の代金です、お確かめください。」

僕は受け取った金額を確認した。

「はい、ありがとうございます。

 でも、予定より早かったのは何か問題があったのかと思ったのですが、まずそちらを確かめないと。」

「いえ、家内が計算してみたら、もう一昨日の時点で今までの二ヶ月分のパンを焼いているのです。

 その上、窯の中で発酵もさせていますから、確実に今まで以上に魔石の魔力は保っています。

 カランプル君が心配するような問題点は何も出ていないから安心してください。」

「それなら良かった。 安心しました。

 それにしても朝はびっくりしました。

 あんなにたくさんのお客さんがベークさんの焼くパンを待っているんですね。」

「私もちょっと驚きました。

 私の焼くパンの出来上がりの時間がちょっと遅れるだけで、あんな大騒ぎになるとは思っていませんでした。

 でも今日は考えてみれば運が良かったのかもしれません。

 発酵させている途中で魔力が切れてしまったのだけど、これが焼いている途中で切れていたら、一回分のパンを破棄しなければならなかったところです。」

「そういう問題もあるのですか。」

「はい、焼いている途中で切れちゃうと、どうにもならないんですよ。

 今までは量が少なかったから大したことなかったのですけど、これからは量が多いので、ちょっと損害が大きくなりますね。

 魔力が無くなる少し前に窯がそれを教えてくれれば良いのですけど、そういった訳にはいかないですから、仕方ないですね。」

「なるほど窯が教えてくれれば良い訳ですね。

 ちょっと考えてみます。」

「そんなこと可能なのですか?」

「僕の技術だけでは無理ですけど、何か方法がないか、考えてみます。」

「出来たらパン屋は助かりますよ。」


僕は魔石の代金を持ってアークの家に行った。

「アーク、これ魔石の代金。 それとこっちは交換した魔石2個な。」

「え、早くないか。」

「ああ、予定より早かった。 今朝、大騒ぎだったんだよ。」

「そうだったのか。

 ところで、魔石に魔力を込めるのは2個と言わず、全部俺が請け負うよ。

 お前は魔石を火鼠から取る方を優先してくれ、また窯を作るんだろ。

 それにはまた魔石の数がいる。

 俺が取りに行って良いなら、魔石とりは暇な俺が行くんだけど、それだと規則違反になっちゃうからなぁ。」

「それなんだけど、次の窯を作るの、悪いんだけど、少し待ってくれないか。

 問題点が出ちゃったんだよ。」

「何か欠陥があったか。」

「いや、窯自体は今までの物以上の性能を出したのだけど、窯の大きさを大きくしただろ、それはとても良かったのだけど、魔石の魔力が尽きる時が問題なんだ。

 窯でパンを焼いている時に尽きちゃうと、その時焼いているパンは全部廃棄しなければならなくなっちゃうらしい。

 一度の量が多くなっているから、損害も大きくなるし、それ以前にお客を魔石の交換で待たせることが、思っていたより問題なんだ。

 何か、魔石の魔力が尽きる前に分かる方法がないかと思うんだ。」

「なるほど、そんな問題があるのか、俺たちには想像できなかったな。

 しかし、俺の土属性や、お前の火属性でどうにかなる感じはしないな。」

「俺の火属性の魔法だとなんともしようがない感じなんだけど、土属性でもダメなのか?

魔力が少なくなると何かの形がだんだん小さくなるとか出来ないのか。」

「土属性の魔法は、継続的に形を変えるとかは不得手なんだ。

 竃を作っている時もそうだったろ、形を作り始めれば終わるまでとにかく一気だ。

 その時、その時で変化させることは難しいし、やったとしてもすごく魔力を食ってダメだな。」

「そうなのか、ダメか。」

「待てよ、俺たちだけじゃなくても良いなら、方法があるかもしれないぞ。

 俺は城で、魔力が無くなる少し前に色の変わるライトの魔道具を見たことがあるぞ。」

「なんだ、それ。」

「いや、城の中の照明って、他の国とかからの使節が来たりした時に、消えたりするのがあったらみっともないだろ。

 それで昔は何かある毎に全部交換されていたらしいんだけど、あまりに経費が嵩むということで研究されて、ある程度魔力量が減ると色が変わって教える様な魔道具が作られたんだ。

 これって応用できないか。」

「お前、よくそんなこと知っているな。」

「これでも一応元貴族だからな、一度や二度は城に行ったことがあるのさ。」

「うーん、やっぱり俺の様な平民とは違うな。」

「何言ってるんだよ。 今では俺がお前を頼りにしているじゃんか。」

「そうなのか?」

「おうよ、頼りにしているぜ。」


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[気になる点] 話を聞いてて、なんとなく時間切れが近づくと赤く点滅するカラータイマーを持つ巨人が思い浮かんだ(´・ω・`)
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