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初めての風の魔道具と王宮で

とりあえず次の荷を出す時には、また僕とエリスは王宮に行かねばならない。

何故なら、王宮に納めた肌水はもうそろそろ切れるはずで、普通の貴族用の肌水はそれでも僕らのうちの誰かが届ければ良いのだが、王妃様に納入する肌水は僕とエリスが持っていかねばならないのだ。

王宮のプライベートの場でのおしゃべりという、褒美か苦行かわからない付録が付いているのが、正直気が重くなるところなのだが。


「色々と世話になっているお店だし、今度も僕たちは寄って、新しい衣装に着替えさせて貰わないといけない。

 だから、この依頼を断る訳にはいかないと思うんだけど、どう思う?」

僕はアークに尋ねたのだがリズが答えた。

「そうね、断る訳にはいかないわね。

 アーク、作るのがそんなに大変な訳ではないのでしょ。

 何本か作ってカンプに持って行ってもらうと良いと思うわ。」


エリスがちょっと考えている顔をしていると思ったら

「ねぇ、木の杖って、もしかしたら王都でなくても売れるかも知れないと思わない。

 単なる木の枝でも、加工して売り物にすれば、良いのよ。」

「ま、確かに杖なんて普通は土の魔技師が片手間に作った物だからな。

 出来る限り頑丈になる様に作りはするのだけど、あまり太くすると杖としては使いにくいというか、重くて使えなくなるから、どうしてもすぐに折れるので、余程必要のある人以外は使わないからな。

 俺もそれを考えて爺さんに木の杖を作ったんだけど。」

アークがそんなことを言った。

「そうですね。 庶民は簡単な石の杖ですね。

 貴族はそれでは折れやすいので、もう少し高級に金属の杖となりますが、そうすれば折れにくくはなりますが、重いのは避けられませんから。」

ターラントの言葉に、僕はいやそんなことはないだろう、作り方を考えれば十分金属でなら、軽くて折れない杖ができるはずだと思ったのだが、黙っていた。


「ということは、またしても貴族用の杖と庶民用の杖を作らないといけないということね。

 どんな違いを出したら良いかしら。」

リズのこの言葉で、どんな杖を作るかという話になったが、まずはとにかく今回持っていくための貴族の杖だ。


長さをいくらかづつ変えた杖を数本づつ、全部で10本ほどを作ろうと考えたのだが、実際の作業は微妙に木の枝の皮を剥く作業が面倒だった。

一本の杖を作るというくらいのことなら、その作業も大したことはないのだが、ナイフで一本一本表面を削り皮の部分を削ぎ落とすというのは、本数が増えると途端に面倒な作業となってしまう。

そこで、フランに頼んで、箱の中で弱いウインド・カッターの魔法を出す魔道具を作ってもらった。


言葉にするとたったこれだけのことなのだが、実際にその魔道具を作るのに、フランはかなり苦労したみたいだ。

単純に風を発生する魔石は、以前に物を運ぶための魔道具を作ろうとした時に何度も作ったから簡単に作れるのだが、ウインド・カッターの魔石を作るのはフランは今回初めてだったからだ。

それに諸々の条件がついている。

そもそもにおいて、風の魔法を使った魔道具なんてほとんどない。

風の魔技師が土の魔技師と共に今まで冷遇されていたのは、その所為だ。

ま、今この地方、僕の領地では土の魔技師はとても重宝されていて、彼ら、いや彼女らの活躍がないと成り立たない。

風の魔道具も作って、風の魔技師もその特性を生かした活躍もしてほしいと思っていたのだが、この地方の領主をすることになり、魔道具店としての純粋な研究活動というか商品開発活動が滞って、そのままになっていたことは否定できない。


ウインド・カッターの魔法を撃てる魔石回路と魔道具は、その魔法は風属性の魔法としては最もポピュラーだからか、普通にあるという。

ただし、それはウインド・カッターという魔法の使い方に当然ながら準ずるモノで、つまりモンスターなどの敵に対して放つことになる。

だからかなりの高出力である程度の範囲に放たれることになる。

「この魔道具は、風属性の冒険者が自分の魔力が尽きた時に、逃げ戻る時に数発撃てるという逃走用の道具として使われているから、こんな小さな杖、もちろんそれは今作っている歩行の補助の為の杖ではなくて魔道具のですけど、とにかくその先に魔石がついて、手に持つ部分にスイッチがついているんです。」

フランは杖の大きさを手で示しながら説明してくれた。

 「威力を弱めるのは、物を運ぶ魔道具を作ろうとした時に、風量の調整をした様に流す魔力の量を加減すれば良いと思うので問題はないのですけど、問題は範囲をとても狭くすることと、断続的にカッターを飛ばすということですね。

 とにかく調べてみたり、考えみたりしてみます。」


フランにそんなことを頼んだのだが期日は迫っている。

とりあえずは人海戦術である。

村の人たちに頼んで、せっせとナイフで枝の皮を剥いてもらい、形を整えて、肌水を作った時に絞った一番最後の濁った油を塗っては乾かしを三度して、磨き上げた。

それだけでは単に木の棒を磨いただけなので、手で持つ部分には柔らかい革紐を巻きつけて、滑りにくくしたと共に掴み心地を良くした。

そして一番上部に、白いガラスの小さな円盤を取り付けた。

その円盤にはとりあえずカンプ魔道具店の紋章を彫っておいたが、簡単に取り外して、付け替えることが出来る様にしておいた。

貴族に売る杖だからね、買った人がそれぞれの家の紋章の円盤にでも付け替えれば良いと考えたのだ。


そうしてとりあえず僕とエリスが持っていく杖は完成したのだが、フランに頼んだ魔道具は杖が出来上がる頃になってやっと完成した。

範囲を絞る回路も、断続的に撃ち出す回路も、フランの調べた限り今までの風の魔道具に前例はなく、フランは途方にくれたみたいだが、そこは親友のリネが助け船を出した。

水の魔道具の回路が応用できないかと、アイデアを出したのだ。

水の魔道具には、シャワーの様に水を広げて噴出するモノもあれば、細い線状にして噴出するモノもある、また、断続的に水を噴出する魔道具もある、というのだ。

言われてみれば、王宮の豪華な庭には、池にそんな風に水を噴出するオブジェを見た気がする。

ま、とにかく、フランはリネの協力で枝の皮を剥く魔道具を完成した。

もちろん魔力を溜めた魔石を組み込む、カンプ魔道具店式の魔道具であることは言うまでもない。


使ってみると、面倒だった皮剥き作業が、簡単に短時間で終わる。

素晴らしい作業効率upだった。

「これなら一般向けの杖も簡単に作れるわね。」

エリスはそんなことを言っているが、僕は他のことを考えていた。


「フラン、こんな風にウインド・カッターの魔法を制御した魔道具を作れるなら、フランが普段頼まれている畑にする土地の草刈りだけど、それをフランがしなくても簡単に出来る魔道具が作れるんじゃない?」

僕のその一言で、風の魔石を使った草刈り機という魔道具も出来た。

フランは感激の面持ちで

「やった。 やっと私も組合で登録できる魔道具が作れた。

 私の名前も新たな魔道具の作成者として登録される、それも二つも。

 みんなと同じになれた。」

フランは前に魔道具の開発に失敗しているから、登録できる魔道具が出来て感激しているのは理解できる。


「うーん、何だか私も魔道具の開発も考えようかしら。」

ラーラがそんなことを言い出した。

確かに、カンプ魔道具店の正式なメンバーでは、魔技師ではないエリスを除けば、新たな魔道具の作成者として登録されていないのはラーラだけになった。

でも、ラーラは元々はそういう感じで参加した訳ではないのだから、そんなこと考えなくても良いと思うのだけどね。



今回はダイドールが御者として一緒にやってきた。

僕は自分で馬車を御することが出来るのだから、わざわざ付いてこなくても良いんじゃないかと思ったのだが、

「王宮に行くのに爵位持ちの貴族が自分で馬車を御して行くなんて、そんなことあり得ません。」

とのことだ。

ま、1人でずっと旅の間御者をするのは疲れるから、交代できるから良いのだけどね。


前日、僕とエリスは東の町の家に泊まったのだけど、ダイドールは僕らの家には泊まらず王都へと向かった。

翌日に僕たちが王宮に行くことを伝えるためでもある。

もちろん先に予定としては伝えてあったが、領地からの移動もあるし何らかのトラブルで2-3日の狂いが出るなんてのは普通のことだから、確認のためと、逆に会う予定の王妃様に別の予定が急に入ったりしていないかの確認もあるからだ。


当然の如く、王宮に向かう前に服飾店に寄る。

「奥方様の大活躍の話を聞きました。

 今は時間がないですが、ぜひ王宮からの帰りもお寄りになって、実のところの話をお聞かせください。」

店長さんにそんな風に言われて、エリスはまさか自分の武勇伝が伝わっているとは思っていなくて、顔を赤くしていた。

でもまあ、とりあえずは店で作っておいてくれた服に、僕もエリスも急いで着替える。

公式の場に出る貴族の服というほどでもないが、単なる貴族の服よりはちょっと手が込んでいる感じだ。

着替えと、売ってもらう肌水と杖を店長さんに渡して、僕たちはすぐに王宮に向かった。

杖について店長さんに説明する時間は、エリスが着替えている時間で十分だった。


王宮に行くと、王宮に普通に納入する肌水はダイドールに任せて、僕とエリスはすぐに王家のプライベートの場所に案内された。

案内は前回と同じでアークの従兄弟だというウィークさんだった。

「話題になってますよ。

 きっと王妃様たちも、その話を聞きたがると思います。」

エリスの武勇伝は王宮にも広まっているらしい。


「ブレイズ子爵夫妻、待っていたわ。

 今日は陛下は公用があっていないのだけど、とっても残念がっていたわ。」

王妃様と王女殿下に、にこやかに迎えられた。

納入するのとは別に持ってきた、特別に肌水の油だけで水が入っていない容器を王妃様に渡した。

容器は、一般に売っている肌水の容器だ。

「これ、中身は油だけなのですが、容器は庶民に売っている肌水の容器なんですよ。」

「あら、そうなの。

 庶民用の容器ということだけど、なかなか洒落た容器なのね。

 透明なのも良いけど、私はこちらの方が好きかもしれないわ。」

僕らは、まあエリスが主に何だけど、肌水の作り方を王妃様と王女殿下に見せて教えていた。

作る容器は、前に渡して使い終えた透明な肌水の瓶だ。

作った肌水は少し緑がかった色をしている。

「きれい。 私、こっちの方が好き。」

王女殿下は、出来た肌水を見て即座にそう言ったが、さすがに王妃様はそんなことは無く、出来た肌水を手の甲に塗ったりして使用感を確かめてから言った。

「本当に、前にエリスに聞いた通り、ほんの少し色がついているだけみたいね。

 それなら私も王女と同じで、こっちの方が何だかきれいで好きだわ。」


肌水についてのことが終わると、王女殿下が待ちきれなかった感じでエリスに言った。

「母様、もう良いですよね。

 エリス、強盗を退治したお話をして。」

エリスはびっくりして言った。

「王女様、何でそんな事を知っていらっしゃるのですか?」

王女殿下ではなく、王妃様が答えた。

「あなたが、魔力を持っていないという話なのに、冒険者の強盗を撃退して確保したという話は、貴族の間でも王宮でも知らない者はいないわよ。

 子爵が決闘で勝った時と、同様の大きな話題となったのよ。」

エリスはあまりの驚きで、顔を青くした。


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